加藤昇の(新)大豆の話
64. 大豆サポニンについて
植物の体は実に微妙なバランスの上に成り立っているものです。大豆は、真夏の強い太陽の光と空気中の酸素を取り入れて光合成活動を行っており、この働きによって葉でいろいろな化合物を作り、それを代謝しながら種子の中に20%ほどの油脂を蓄積しているのです。しかもその油脂は少しの光と酸素で酸化され易い不飽和脂肪酸として蓄積しているのです。現代の科学をもってしてもこんな芸当は人間ワザでは到底出来るものではありません。こうして我々は人の体で合成できないいくつかの不飽和脂肪酸を大豆などから摂取することが出来るのです。植物が持つカテキン、アントシアン、イソフラボン、ビタミンE、等々の抗酸化力のある微量成分は人間の生活習慣病を予防するために含んでいるのではなく、これら植物体の酸化防止システムの一環としてそれぞれが働いているのです。
大豆に含まれているサポニンも抗酸化物質として重要な働きをしている物質です。サポニンは豆類の他に茶、野菜類などに広く含まれる物質で糖と結びついて安定化しつつ、水にも油にも溶ける界面活性作用を持っているのです。そのため、水に溶かすと石鹸のように泡立つことから、ラテン語で石鹸を意味する“sapo”(英語のsoap)からサポニンと名づけられたのです。豆腐屋さんや煮豆屋さんの排水口が泡立っているのを昔はよく見かけることがありましたが、あれはサポニンが水に溶けて流れ出ていることによるものでした。そのサポニンは糖鎖との結びつき方によって3つのグループに分かれており、その形は遺伝しているために日本大豆、アメリカ大豆、中国大豆など栽培地域によって少し異なっていると言われています。
一般的にサポニンは細胞膜の破壊(溶血性)を引き起こす、とされていますが大豆サポニンはほとんどイオン化しないために、大豆を食べても安全とされています。大豆の中のサポニンも、大豆の芽になる胚軸部分に含まれるサポニンと大豆の実の部分である胚乳に含まれるサポニンではその種類と働き方が違っているのです。胚軸部分のサポニンは大豆を食べたときの不快味の主成分ですが、逆に健康機能では優れた働きをしているのです。一方、胚乳に含まれるサポニンは不快味が弱く、そのため食品用として大豆を利用するときには胚軸を除いて食味を良くする工夫をすることもあります。
大豆には、このように私たちの生活習慣病を予防してくれる成分をいろいろと含んでいる。しかし多くの食材の一つとして適量摂取することが大切なことである。これはなにも大豆に限ったことでなく、あらゆる食品はバランスよく摂取することが基本である。大豆に含まれるサポニンもイソフラボンもその他の成分も、私たちの体には過剰に摂ると良くないこともある。ところが大豆には過剰に食べられない仕組みも組み込まれている。過剰に食べると胃に膨満感を感じて食べられなくなるのである。また、大豆の蛋白質の一部には摂食抑制効果を発揮する働きがあることも知られている。しかし、これらは大豆全体を食べたときの反応であって、健康食品のように微量成分だけを抽出してしまえばこのような働きが起こらなくなる。大豆が健康に優れた食品であることは確かではあるが、それには正しい食べ方が前提である。
大豆に含まれているサポニンも抗酸化物質として重要な働きをしている物質です。植物の体は実に微妙なバランスの上に成り立っているのに驚かされます。大豆は、真夏の強い太陽の光と空気中の炭酸ガスを取り入れて酸素を作り出すという光合成活動を行っており、この働きによって葉でいろいろな糖を作り、それを代謝しながら種子の中に20%ほどの油脂を蓄積しています。しかもその油脂は少しの光と酸素で酸化されるという不安定な不飽和脂肪酸として蓄積しているのです。現代の科学をもってしてもこんな芸当は人間ワザでは到底出来るものではありません。こうして我々は人の体で合成できないいくつかの不飽和脂肪酸を大豆などから摂取しているのです。植物が持つカテキン、アントシアン、イソフラボン、ビタミンE、等々の抗酸化力のある微量成分は人間の生活習慣病を予防するために含んでいるのではなく、これら植物体自身の酸化防止システムの一環としてそれぞれが働いているのです。
サポニンは豆類の他に茶、野菜類などに広く含まれる物質で糖と結びついて安定化しつつ、水にも油にも溶ける界面活性作用を持っているのです。そのため、水に溶かすと石鹸のように泡立つことから、ラテン語で石鹸を意味する“sapo”(英語のsoap)からサポニンと名づけられたものです。豆腐屋さんや煮豆屋さんの排水口が泡立っているのをかつては見かけることがありましたが、あれは大豆のサポニンが水に溶けて流れ出ていることによるものです。わが国でも昭和の時代の半ば頃までは、大豆の煮汁を冷ましておいてその煮汁で髪を洗っていたことが知られています。さらに鎌倉時代の始めには曹洞宗の開祖、道元(1200-1253)が寺でのしきたり等を記した「正法眼蔵」があり、そこにはトイレの後で手を洗うことが書かれていますが、その時にマメ科植物の「皀莢(さいかち)」を手に取って両手を合わせてもみ洗うことが記されています。このマメにもサポニンが含まれているので水と一緒にもみ洗うと泡が出て汚れが落ちるのです。現在でも天然の植物サポニンを利用する高級化粧品としての洗剤もあります。
このようにマメ科植物のサポニンはそのサポニンは糖鎖との結びつき方によって3つのグループに分かれており、その形は遺伝しつつ繋がっているために日本大豆、アメリカ大豆、中国大豆など栽培地域によって少し形が異なっていると言われています。
一般的にサポニンは細胞膜の破壊(溶血性)を引き起こす、とされていますが大豆サポニンはほとんどイオン化しないために、大豆を食べても安全とされています。大豆の中のサポニンも、大豆の芽になる胚軸部分に含まれるサポニンと大豆の実の部分である胚乳に含まれるサポニンではその種類と働き方が違っています。胚軸部分のサポニンは大豆を食べたときの不快味の主成分ですが、逆に健康機能では優れた働きをしているのです。一方、胚乳に含まれるサポニンは不快味が弱く、そのため食品用として大豆を利用するときには胚軸を除いて食味を良くする工夫をすることもあります。
サポニンの健康効果
大豆サポニンの健康効果はいくつか知られていますが、特に注目されているのは血中コレステロールの低下作用と抗酸化力です。血中コレステロールは肝臓で代謝されて胆汁酸になりますが、これは大豆サポニンが胆汁酸やコレステロールと手をつないで消化管から吸収されるのを防ぐことによる効果なのです。その結果として、動脈硬化を予防する働きを発揮することになります。また、大豆サポニンの抗酸化作用は、体内での過酸化脂質の生成を抑える働きがあり、老化防止や成人病予防に役立つほか、細胞の突然変異を防ぐ抗変異原性という作用も指摘されており、ガンに対する抑制作用や、さらにはエイズウィルスの増殖抑制作用についても研究が進められています。大豆サポニンが皮膚細胞の紫外線傷害を効果的に抑制する可能性も指摘されています。このように、これまで不明であった生体におけるサポニンの役割は生体防御、情報伝達などの重要な生理作用を担っていることが明らかとなってきているのです。逆に、大豆サポニンが甲状腺腫を促進させるのではないか、との懸念が指摘されたこともあろましたが、過酷条件における動物実験で初めて起こる現象であって日常的な食生活では起こりえないことです。
掲載日 2019.7