加藤昇の(新)大豆の話

59. イソフラボンの健康効果の続き

高血圧、動脈硬化を原因とする循環器系疾患は多くの疾病の原因とされ、世界的にも対策が必要とされてきました。1992年に世界25ヵ国60地域のデーターを調べたところ、虚血性心疾患は男性に多く、女性は男性の3-4割で、動脈硬化からの発症が低いことがわかりました。しかし、女性も更年期になって女性ホルモンが少なくなると血圧、コレステロールが高くなり心筋梗塞が増えることもわかりました。ところが、大豆を食べている日本人や中国人の女性では更年期になっても血圧の上がり方が少ないことから大豆成分に注目が集まりました。そして女性ホルモンに構造が似ているイソフラボンが再び浮かび上がってきたのです。

大豆を食べていない日系ブラジル人に血圧が高い人が多く、その人たちにイソフラボンを毎日50mg(豆腐100gに相当)摂ってもらったところ3-10週間で血圧もコレステロールも下がってきたというテストがあります。コレステロールが下がるのは肝臓で、女性ホルモンが悪玉コレステロールを処理してくれることによるのですが、それをイソフラボンが肩代わりをしてくれているのです。実は血管の内皮細胞で一酸化窒素(NO)ができ、これが血管を拡張させているのですが、このNOを作らせているのが女性ホルモンなのです。だから女性は女性ホルモンがあるうちは血管を開かせることが出来ますが、女性ホルモンがなくなると男性と同様にイソフラボンの助けを借りなければ血圧が高くなるのです。

特に心臓の血管にはNOが大切なのです。狭心症という病気で心臓の血管が収縮するとニトログリセリンを飲んでNOを急いで作らなければならないのですが、イソフラボンは女性ホルモンの代わりになってNOを増やしてくれるのです。私たちはこれらNOを日ごろから増やしておくためには、豆腐にして100g、納豆では50-60g、黄な粉で20g食べていればいいのです。

国立がん研究センターの調査によると、非喫煙者の男性ではイソフラボンの摂取量が多いほど肺がんの発生リスクが低下することが分かっています。この他の対象者についてはまだ確証が得られていませんがイソフラボンを日常的に摂取することが肺がん予防に有効であることが推測できます。

さらにイソフラボンは骨の健康にもいいことが分かっています。女性ホルモンがあると骨を壊す破骨細胞の活動が抑えられるのです。そして更年期になって女性ホルモンがなくなると破骨細胞が骨からカルシウムを放出しはじめて骨粗鬆症になっていくのです。そこでもイソフラボンがその肩代わりをしてくれるので骨粗鬆症を防いでくれます。

ハワイに住む日系沖縄県人会の骨密度を調べたところ、骨密度が高い人の尿にはイソフラボンが多く出ていることがわかりました。さらに詳細に調べたところ、尿にイソフラボンが多い人たちの近所には日系人の豆腐屋さんがあり、毎朝沖縄式の豆腐を入れた味噌汁を摂っていたそうです。一方、豆腐が手に入らない地域の人達の朝食はコーヒーとトーストだったそうです。こうした生活が何年も続いている結果、骨密度に影響してきたと考えられています。

さらにイソフラボンの尿中の濃度が高いほど男性の前立腺がんと女性の乳癌が少ないことも分かってきています。豆腐も大豆も食べていないアイルランドやスコットランドのデーターと比較しても日本人の前立腺がんも乳癌も少ないのです。食生活が欧米化して大豆を摂らなくなればアイルランドのようになり、これらの癌が増えてくる恐れがあります。イソフラボンが乳癌を防ぐのは、イソフラボンにはエストロゲンと同じような作用がありますがその作用は弱く、せいぜい1000分の1程度です。しかし構造がエストロゲンと似ているので、エストロゲンが働く受け口にイソフラボンが先回りして乳腺の細胞をブロックしてしまうために乳癌が少なくなると考えられています。

さらにイソフラボンはあらゆる癌の死亡率を低下させる働きがあることも分かってきています。実験の結果、癌細胞が大きくなるときに、直径1.5mm以上に発育するためには必ずその癌細胞に血管が必要になります。血液の供給を受けないと栄養が充分に来ないので癌細胞は増殖できないのです。だから悪性の癌細胞は自分で血管を作らせる因子を出します。するとこの癌細胞は増えて大きくなり血管を通って全身に広がります。その血管を作らせない働きをするのがイソフラボンだということが証明されつつあります。つまり、大豆を十分に食べておくと、たとえ癌が発生しても、それに血管を作らせないないようにするので、癌細胞はおとなしく留まっている、いわゆる「天寿がん」となるのです

現在、大豆イソフラボンによる健康機能として、骨粗鬆症、乳ガン、大腸がん、前立腺ガン、高血圧、動脈硬化、更年期障害などの予防効果が既に報告されています。

厚生労働省の研究班が行った「味噌汁と乳癌の発症リスク」の関係を調べた研究があります。これによると「味噌汁を一日3杯以上飲む人は乳癌の発生リスクが40%低くなる」とされています。味噌汁は大豆イソフラボンを摂取するのに最も適していると言われています。さらに大豆イソフラボンは、その長い食経験から安全性が高いこともわかっており、摂取に対する安心感が根底にあるのです。現在の「寝たきり」老人の主な原因は脳卒中と骨組髭症による骨折であり、認知症の第一の原因は脳血管性によるものであることなどから大豆イソフラボンが「寝たきり」や「認知症」を予防するとの期待が高まっています。

 掲載日 2019.7

 

 

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