加藤昇の(新)大豆の話

58. 大豆イソフラボン

ここまで述べてきたように大豆には食材として大切な栄養素を豊富に持っています。ここからは大豆食品に含まれている健康成分について取り上げたいと思います。 

  大豆の健康イメージを高めている成分で注目を集めているのがイソフラボンです。その働きは「若さを保つ」「肌の美しさを持つ」として女性たちに人気が高い成分です。イソフラボンはポリフェノールの一種のフラボノイドに属する成分であり、その他の植物にはほとんど見られず、その多くは大豆から摂取されています。

 大豆には12種類のイソフラボンが含まれており、私たちはその混合物として摂取しています。それらは糖と結合している配糖体である場合もあり、非配糖体で含まれているいることもありますが、体内に取り入れられてから腸内細菌によって糖鎖が切断されて体内に吸収されていきます。大豆に多いイソフラボンはゲニスチンとダイゼインと言われるイソフラボンのタイプです。

イソフラボンが多く含まれている所

 大豆の種子の中でイソフラボンが最も多く含まれている場所は、胚軸と呼ばれる新芽が生まれる所です。我々が大豆の実とイメージしている子葉の部分に比べて約7倍の大豆の組織に含まれるイソフラボンの含有量グラフイソフラボンを含んでいますが、それぞれの部位に含まれるイソフラボンのタイプも違っており健康機能もそれぞれ異なっています。

イソフラボンは吸収性が非常に良いことが特徴で、他の微量成分に比べても消化管での吸収率が高いのです。しかし、大豆を加工している間にイソフラボン含量が消滅していくことも知っておかなければなりません。イソフラボンは水溶性であり、アルコールや水に溶けるので、水洗浄などの工程が多い加工法では含量は少なくなってしまいます。例えば、納豆、木綿豆腐についてイソフラボンの含有量を計測したところ、大豆浸漬時ではイソフラボンの損失はほとんどありませんが、納豆になった段階で残存しているイソフラボン量は72%であり、大豆中のイソフラボン量が比較的損失されない食品と考えられますが、木綿豆腐では残留量36%とあまり高くはありません。このようにイソフラボン含量は大豆加工の状態によっても変化していきます。

イソフラボンの健康効果

イソフラボンの生理機能についての研究は古く、1950年代には女性ホルモンに似た作用があることが研究されており、現在多岐に亘る効果が報告されています。そもそもイソフラボンの健康機能が海外で認知され始めたのは、日本において乳ガン、前立腺ガンの発症が少ないという疫学調査が多数報告されたことからでした。大豆を常食としている日本、中国に比べて大豆を食べる習慣のないアメリカでの乳癌発生率は日本女性の約4倍あり、男性の前立腺癌の発生頻度も日本男性に比べて約5倍と高く、その原因を突き詰めている段階でイソフラボンの健康効果が浮かび上がってきたのです。1999年に、FDA(アメリカ食品医薬品局)が大豆食品にコレステロール低下についての表示許可を出したことが、わが国において大豆イソフラボンへの関心が高まるきっかけにつながっていったと考えられます。

 イソフラボンには、弱い女性ホルモン様作用(アゴニスト)を持つと同時に、女性ホルモン過剰な状態では、女性ホルモンの受容体に結合することによって、本来の強い女性ホルモンが結合するのを抑える抗女性ホルモン作用(アンタゴニスト)を示すと考えられています。ここに大豆イソフラボンの主な生理機能を挙げてみました。

1. 骨粗鬆症予防効果
 動物実験で骨粗鬆症を発症する動物に対してイソフラボンを投与することによって骨吸収が抑えられ、その結果、骨密度や骨強度の低下が抑えられ、骨粗鬆症の予防効果を発揮しています。また、更年期の女性を対象にした試験でもイソフラボンを摂取することにより、骨吸収を抑制することが明らかになっています。
2. 循環器系疾患の予防
女性ホルモンはコレステロールの代謝に関係しており、更年期の女性では、血清コレステロールや血圧の上昇がおこることが知られています。しかし、人による臨床試験の結果、大豆イソフラボンの摂取による血圧の降下が認められています。更に疫学調査によるとイソフラボン摂取量が多い地域ほど虚血性心疾患による死亡率が低いことも明らかになっています。このことはイソフラボンが持つ弱い女性ホルモン様作用が働いた可能性を示唆していると考えられます。
3. その他の生理機能
その他にも乳がんや前立腺癌の抑制効果が指摘されています。また大豆イソフラボンの中にはガンの増殖に関わる酵素(チロシンキナーゼ)の阻害作用が見られており、更にはガン組織に栄養を運ぶ血管の新生を抑制することが報告されており、ガン全般にわたる効果も期待されています。
そしてすでに触れた更年期障害の軽減効果が挙げられます。

 

イソフラボンを最も多く含んでいる食材は「黄な粉」とされています。女性は40歳を過ぎると閉経により女性特有の体調変化、感情変化などが現れてきます。これが更年期障害と言われているものです。この傾向をすこしでも和らげ女性らしさを保つために大豆イソフラボンが有効に機能してくれるのです。しかし、1日の摂取量が適正であることを求められ、70-75ミリグラムが目安とされています。通常のバランスのとれた食事をしていれば問題はありませんが、サプリメントなどで摂取しようとする時には必要量の半分の35ミリグラム程度にしておくことが大切です。私たちは無意識のうちに大豆食品を食べており、その都度イソフラボンも摂取しているのです。イソフラボンを摂りすぎてしまうと月経周期の乱れや疾病の原因になることもあり得ますのでサプリメントによる摂取には注意が必要です。

 掲載日 2023.8

 

 

大豆の話の目次に戻る