加藤昇の(新)大豆の話

57. 大豆油の工業的用途

バイオディーゼルと大豆インキ

 大豆油の用途に新たな道が開かれています。その一つは石油原油の高騰により脚光を浴びている大豆油を原料としたバイオディーゼルであり、もう一つは環境問題から期待されている大豆油で作った印刷インキです。

 

 バイオディーゼルは長い間大豆生産者の期待のテーマでした。大豆を人間の口から食べて消費しようとすれば、その消費量は人の胃袋の数に制限されて限界があります。消費量の伸びが低ければ大豆農家にとって高い収入は期待できません。しかし、大豆油が自動車のような運輸機関の燃料として利用出来れば需要は格段に広がってゆきます。ところが思わぬところからバイオディーゼルに脚光が集まりました。地球温暖化の議論の中からバイオディーゼルの原料となる油脂は植物の光合成によって大気中の二酸化炭素から作られているものであり、自動車の排気ガスから出る炭酸ガスはもともと空気中にあった二酸化炭素である、との理屈によってバイオディーゼルの利用は地球温暖化に対する取り組みとして適当であると認められたのです。そのことからいろいろな油脂を原料としたバイオディーゼルが登場してきました。南北アメリカでは大豆油を原料としたバイオディーゼルが主流となっています。

 バイオディーゼルに用いる大豆油はエステル交換という工程を経てメチルエステルとしてディーゼルオイルに混合して使用しています。このようにして作られたバイオディーゼルは、排気ガス中の微粒子、一酸化炭素、総炭化水素量を下げるだけでなく、エンジンの潤滑油の働きやディーゼルエンジンのクリーナーの役割もするとされています。

こうして地球の環境問題と既存のディーゼル燃料の硫黄分除去規制が強まる時代の流れとの両面で大豆油に期待がかかっているのです。しかし、これからは電気自動車などの新しい時代を迎えます。あるいはこれら大豆油によるバイオディーゼルは時代をつなぐ一コマで終わるのか、今後の展開に期待したいと思います。

 

 つぎに大豆インキについて紹介します。印刷用大豆インキが登場したのは1987年にアメリカでの新聞印刷業界においてが最初でした。その背景には1970年代に起きた2度のオイルショックを機に石油系インクから逃れたいとの考えと、毒性が少なく作業環境に優しいインキを求める気運とが合致したことによるものでした。各種天然素材でのテストを繰り返した結果、新聞を印刷するときの技術仕様の全てにおいて大豆油が最も優れている、との結果から大豆インキが誕生したのです。大豆油は農作物を原料としており豊富に存在しており、しかも再生産が可能でもあります。インキ製造業者はこの結果をさらに発展させて新聞用印刷インキに留まらず、その他の用途のインキに大豆油べースの製法を改良し、ユーザーの要求に応えていったのです。

 現在、大豆インキの使用は世界的に急速に広まっています。それは大豆インキの持つ環境に優しいというイメージによるところが大きいのです。2018年に印刷インキ工業連合会が発表した「植物インキの生産比率」によると、2011年には全印刷インキの85%であった植物油インキの比率が、2017年には95.6%にまで拡大しているのです。植物油インキの最大の特徴は、印刷されたインキを乾燥する工程で発生する揮発性有機化合物を減らして、大気・水質汚染などに対応できていることです。さらに古紙をリサイクルする際のインキの抜け具合にも優れているという特徴を持っています。従来、インキに使用される植物油といえばアマニ油、桐油が常識でした。それはインキが植物油に求めていたのが乾性油であることであったからでした。しかし技術開発によって今や半乾性油である大豆油がアマニ油にとって代わったのです。現在では大豆油を筆頭に、亜麻仁油、桐油、パーム油、ヤシ油、米ぬか油などが使われています。こうして大豆油を中心とした植物油インキは時代の要請を受ける形で今や印刷インキの主役の座に上ってきていると言えるでしょう。

 

 掲載日 2019.7

 

 

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