加藤昇の(新)大豆の話

56. 大豆油の生産量

近年、世界の大豆生産量は驚異的な伸びを示していますが、そのことがそのまま大豆から抽出される大豆油の生産量の増大につながっています。2018年の世界の大豆油消費量は約57百万トンと最近20年間で230%を超える伸びを示しており、油脂全体の消費量に占める大豆油の比率は22.5%とパーム油に次ぐ食用油となっています。

 

 

世界の大豆油生産量は他の油脂を抑えてトップを走っていましたが、2004年から2005年にかけてパーム油に抜かれてしまいました。その背景には、大豆も菜種も1年生作物ですがパーム油を作るアブラヤシは多年生の植物であり生産コストが安いことが挙げられます。そのことによってパーム油の価格が大豆油などに比べて安価となり、多量に油脂を使用する油脂調理加工業者の生産コスト削減につながっているのです。こうしてパーム油は低価格油脂として、賞味期限の長い油脂として消費量を伸ばしているのです。これらの動きに対抗するために大豆油の一部に、油脂の酸化安定性が優れている高オレイン酸大豆油に切り替えていこうとする動きが始まっています。しかし、大豆に含まれていたリノール酸は不必要な脂肪酸ではないのです。この点を見逃していることはできません。

それらを総合して眺めると、植物性油脂では必須脂肪酸の多い大豆油と飽和脂肪酸が多いパーム油は対極に位置しているとみることが出来ます。

 

大豆油の消費量

わが国での食用大豆油の使われ方を見ると、消費量の7割がそのままの液状油で食用として使われていますが、残りはマーガリン・ショートニングに加工されたり、マヨネーズ、ドレッシングなどに利用されています。大豆油は必須脂肪酸である多価不飽和脂肪酸が多く健康効果が高く、調理したときの風味が優れていますが、それだけに保存には冷暗所に保存したり出来るだけ早く使い切ってしまうことなどの工夫が大切になってきます。

日本と海外の国民一人当たりの植物油脂の消費量を比べてみると次のようになります。 

 

 国民一人当たり植物油消費量(2011年)

 

年間消費量

最も多い油脂

日本

 19.1kg

 菜種油 44

アメリカ

 42.4

 大豆油 61

ブラジル

 34.8

 大豆油 81

中国

21.0

 大豆油 39

フランス

45.8

 菜種油 53

インド

12.5

パーム油 44

世界

22.0

パーム油 32 

 

2011年の統計を見ると、、日本は年間に19kgの油脂を摂取しており、最も多い油脂はナタネ油で全体の44%を占めています。欧米の肉食グループは植物油脂も多く摂取しており動物油脂と合わせたトータルの摂取量はハイレベルになっていることでしょう。しかし、アメリカ、ブラジル、中国の大豆大国はいずれも大豆油が最も多い油脂になっており、多量に摂取している肉による飽和脂肪酸とのバランスをとっていると言うこともできます。

 しかし世界の植物油脂摂取量のトップは大豆油を抜いてパーム油となっており、この流れを止めることは難しいでしょう。しかし私たちの国は周りを海に囲まれており、身近にある安価な魚から得られる油脂で体の脂肪酸バランスを保っていくことが大切です。

 

大豆油の消費量を超えたパーム油とは

 ここで大豆油よりも消費量が多くなっているパーム油について知っておきましょう。パーム油はアブラヤシというヤシ科の植物の果実から搾って出来る油脂です。パーム油はそのほとんどをインドネシアとマレーシアで作られており、森林を伐採して広大なプランテーションを作って栽培されているもので、そのために日本の九州に匹敵する面積の森林が消えてしまったとされています。

 このようにパーム油の消費量が広がったのは価格の安さにあります。その理由は、すでに述べたようにパーム油を生産するアブラヤシの木が多年性であることによるとされています。 こうしてパーム油が安価な油脂であることにより食品などで広く使われるようになり、スナック菓子、カップ麺、チョコレート、アイスクリームなどの他、マーガリン、ショートニングやバイオディーゼル、火力発電所の燃料などに用途をますます広げています。

  ただ、この油脂の欠点は人の健康を害する飽和脂肪酸が非常に多いことです。飽和脂肪酸の含量が約50%を占めており、1価不飽和脂肪酸と合わせると90%近くになります。このことについては医療関係の学会などから警告が発せられていますが、コストの安さと賞味期間が長く出来るという食品メーカー側の思惑が優先されて、現在も使用量が増え続けています。

 

 掲載日 2019.7

 

 

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