加藤昇の(新)大豆の話
52. 見える油、見えない油
日ごろから油脂の摂取に気を付けている人も多いと思います。油脂の取りすぎはカロリーオーバーで肥満につながると気にしている人が多いからです。しかし私たちはどのように油脂を摂取しているかはほとんどの人はわかっていないのではないでしょうか。
油脂についての多くの話題は、オリーブ油がどうかとか、ごま油はどうかといった油脂の枝葉の差の違いにこだわっていて、もう少し大きく眺めた油脂全体像から見たバランスからやや離れてしまっているように感じられます。確かに油脂には脂肪酸の構成差による影響も大きな問題です。また油脂を構成している脂肪酸以外に含まれているポリフェノール類の違いによる体への影響も見ることが出来ます。
しかし、多くの人は体に取り込まれている実際の油脂の姿には気が付かないまま枝葉の話題に走っているように感じられてなりません。ここで現在の私たちが摂取している油脂の実態を眺めて、どんなことに気を付けていけばいいかを眺めてみましょう。
ここに実際の油脂の摂取状況を示してみました。
(アメリカ大豆輸出協会「ソイオイルマイスター教本」より)
これにみられるように私たちは一日に摂取している油脂57.2グラムのうち、自分で油脂と認識している、目で見える油は10.4グラムであるのに対して、残りの46.8グラムは全く意識していなくて口に入れている見えない油なのです。特に肉と一緒に食べている動物油脂が多く、肉類・卵類・乳類合わせて23.1グラムと、植物油の3倍近く取り入れているのです。これらを見ると油の摂り方で気を付けなければならないのはフライ類やドレッシングのような植物油ではなく、肉に含まれる動物油脂であることがわかります。
自分の健康と油脂に対する認識を
店頭に並んでいる油脂調理済み食品を売っているお店の立場から考えてみると、なるべく賞味期間が長く保つことが出来、さらに電気の光に照らされても長時間耐えられるパーム油のような酸化反応に強い油脂が望ましいと考えるでしょう。パーム油には酸化反応を起こしにくい飽和脂肪酸と、酸化反応がやや弱い1価不飽和脂肪酸が非常に多く含まれており、逆に反応性が高いオメガ6、オメガ3などの多価不飽和脂肪酸はほとんど含まれていません。このような油脂で調理された食品は長時間空気や光にさらされても油の酸敗が起こりにくいので商品の賞味期限を長くすることが出来ますし、店頭に並べた商品にはへたりのない見栄えのいい状態を長く保つことが出来ます。そのために現在はパーム油の消費量が大幅に伸びており大豆油を上回っている状態となっています。しかし、逆にそれらは消費者の健康にとっては、動脈硬化などの危険性が内在しているという別の面を持っていることが指摘されています。一方、魚油や大豆油などの多価不飽和脂肪酸の多い油脂は血管に優しく血液をサラサラにする特徴を持っていますが早く食べてしまわないと油の酸化が進み易く、賞味期間が長く保てないという欠点を持っています。ここに商品を売る立場の企業側と、自分や家族の健康を守る消費者側の立場の差が出てきます。この判断は購入を決める消費者自身がどの立場で判断するかにかかっているのです。油脂加工食品をすぐに食べずに数日間保存しておきたいときは保存に適した硬い油脂で加工したものが良いのですが、その裏側でマイナス部分があることも知っておくことも必要です。しかし一両日のうちに食べてしまう調理食品には健康を優先した大豆油などで調理した食品を選んだ方が賢明なのです。店員に「この調理済食品はどんな植物油脂で作ったのですか」と聞いてみれば調理された油脂は簡単にわかります。人の健康は、自分の体をいかに酸化反応から守るかにかかっていると言うことが出来ます。だから自然界の抗酸化物質であるポリフェノールやビタミンEなどを野菜と一緒に体内に取り込むことは体の酸化を防ぐことに効果があるとされていますが、だからといって酸素に反応しにくい飽和脂肪酸を多く含んだ食品が体にいいということにはなりません。それらは結果的には悪玉コレステロールや動脈硬化などとして体内に残ってしまうことになってしまうからです。私たちは油脂加工食品を店頭で購入する時にはこれらのことを考えておく必要があるのです。
掲載日 2019.7