加藤昇の(新)大豆の話

51. それぞれの脂肪酸には別のはたらきが

体内で必要とされる油は飽和脂肪酸と1価不飽和脂肪酸、さらに反応性の高い多価不飽和脂肪酸のどれも必要なものとされています。魚油や大豆油などに含まれる酸化に対する反応性の高い多価不飽和脂肪酸は空気中の酸素や光による酸化を受けやすいが体の中では独自の生理機能を担当しています。一方、動脈硬化などの危険性がある飽和脂肪酸も体に必要な脂肪酸なのです。だからどれも体にとってなくてはならない脂肪酸と言うことができます。多くの生物はこれら3種類の脂肪酸を持っていますが生育した環境によってそれぞれの比率が違っています。大雑把な言い方をすると、冷たい環境で育った生物には反応性の高い多価不飽和脂肪酸が多く、熱い環境で育った生物には熱に反応しにくい飽和脂肪酸が多くなっているのです。冷たい海水の中に住んでいる魚や北極海のアザラシなどの体にはEPAやDHAのような多価不飽和脂肪酸を多く持っており、低温の環境でも体液の流動性を維持しています。一方熱帯地方に生えている植物には熱や光で酸化されにくい飽和脂肪酸が多く含まれているのです。

これら3種類の脂肪酸群は体内に吸収されてからは各種ホルモンなどに変化して体の機能を分担しています。だからどの生命体も、その比率は違いますがこれら3種類の脂肪酸を併せ持っているのです。しかし、それぞれの生物に適した脂肪酸バランスは違っています。それはその生物が育っている環境や生物固有の遺伝子によって若干の差が生まれているのです。人間には人の体に適した脂肪酸バランスがあります。それらの脂肪酸が食べ物の偏りによりバランスを崩してくると体の健康に影響を及ぼしてきます。

現在、最も懸念されている健康上の課題としては肉類に含まれる動物脂肪や熱帯油脂であるヤシ油、パーム油などからによる飽和脂肪酸の摂り過ぎによる動脈硬化など循環器系疾患の危険性の高まりにあると言われています。ただ、飽和脂肪酸のステアリン酸やパルミチン酸には血管内のコレステロールを下げるというデーターもあり、一概に決めつけられないところもあります。

 

 望ましい油脂摂取量

 油脂の摂取量にもいろいろな見方があります。厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると私たちにとって適切な油脂の摂取量は、全体のエネルギーのうち脂肪からのエネルギーの摂取比率を20以上30%未満とされています。さらに飽和脂肪酸からのエネルギー比率を7%以下を目標量とする、となっています。多価不飽和脂肪酸の摂取比率については、30−49歳男子で見ると、オメガ6系脂肪酸の一日の摂取目安を10gとし、オメガ3系脂肪酸を2.1gを目安としています。つまりオメガ6対オメガ3の比率は4.8:1周辺が望ましい摂取比率とされているのです。この比率は年齢層によって若干違っていますが、ほぼ似たような比率が示されています。

 

男性年齢

脂質(E%

飽和脂肪酸(g/日)

-9脂肪酸(g/日)

-6脂肪酸(g/日)

-3脂肪酸(g/日)

18-29

27.1

16.2

21.6

10.6

2.1

30-49

25.0

15.0

20.6

10.2

2.2

50-69

22.6

13.3

17.9

9.5

2.4

70-

20.6

10.8

13.7

7.7

2.2

男性全年齢

24.6

14.3

18.5

9.4

2.2

女性年齢

脂質(E%

飽和脂肪酸(g/日)

-9脂肪酸(g/日)

-6脂肪酸(g/日)

-3脂肪酸(g/日)

18-29

29.3

14.3

18.4

9.1

1.8

30-49

27.5

13.8

17.7

8.7

1.8

50-69

24.4

11.9

15.2

8.2

2.1

70-

21.8

9.6

12.0

0.8

1.8

女性全年齢

26.0

12.7

15.9

8.1

1.9

男女全体

25.3

13.5

17.1

8.7

2.0

      (平成17,18年国民健康・栄養調査による)

脂肪酸はそのメチル末端から3番目の炭素に二重結合があればオメガ3脂肪酸(ω-3、n-3)と呼びαリノレン酸などを指します。6番目の炭素に最初の二重結合があればオメガ6脂肪酸と呼びリノール酸がこれにあたります。さらに菜種油やオリーブ油はオメガ9脂肪酸と呼ばれるオレイン酸が中心であり、それぞれに体内に吸収されてからの働きが異なります。そのために体内に摂取する油脂の望ましい比率があります。

では実態はどうか、平成8年に調査した国民健康・栄養調査によると、油脂によるエネルギーは総エネルギーの27%とされており、目標値20-30%の範囲に収まっており特に問題にはされていませんが徐々に脂肪によるエネルギー比率が上昇しているのが気になります。さらに飽和脂肪酸の摂取が多いことが注目されており、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に示された目標値7%以下に対して7.8%と大きく上回っています。この傾向はより強まっていると考えられており、飽和脂肪酸の摂取量はさらに大きくなっているものと思われます。またオメガ6対オメガ3の比率は平成29年には4.51となっています。これも厚生労働省が示した「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の4.81の目標値範囲であり、両脂肪酸のバランスには問題がありません。ただ一部専門学会ではもっとオメガ3脂肪酸を摂取すべきだと主張してオメガ6:オメガ3の比率は2:1が望ましいと主張している学者もおり、見方の差があるところです。

これらオメガ3脂肪酸の摂取比率が相対的に少なくなってきたのは、近年の食習慣の変化によって「魚食」を「肉食」が上回ってきたことに起因しているとされています。動物油脂などを控えて魚油や大豆油などの多価不飽和脂肪酸を取り入れながら摂取する油脂のバランスをとることが必要とも指摘されています。

さらに飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の比率を3:4:3が望ましいバランスとされていますが、この比率は2018年現在、3.34.22.5となっており飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸に片寄っていることが明らかです。これは肉食が増え、パーム油などの熱帯油脂の使用が増えてきていることによるものとされています。さらに酸化反応に弱い多価不飽和脂肪酸である大豆油から菜種油とかオリーブ油などオレイン酸が多い油に偏ってきていることにもよるのです。さらに近年は特に調理済み総菜に使われる植物油については、繰り返し使用が可能になるように品種改良して加熱に強いオレイン酸を増やすように加工(高オレイン酸化)してある油もあります。これらのことによっても私たちの摂取している油脂がさらにオレイン酸(オメガ9油)リッチに偏り、油脂全体の摂取バランスが崩れている原因ともなっているのです。やはり魚油や大豆油など多価不飽和脂肪酸の多い油脂もバランスよく摂取していかないと私たちの体に必要な必須脂肪酸の油脂が少なくなり、さらにオレイン酸などに偏ることによる体の変調を起こす可能性が出てきます。オレイン酸に偏ることによるビタミンK不全症などの健康不安説も学会(日本脂質栄養学会)では指摘されているのです。

 先にも述べた通り、冷たい環境に住む魚などは低温でも流動性を保つように不飽和脂肪酸の比率が高くなっています。逆に熱帯地方に生育する植物や体温の高い動物に含まれる油は熱に強い飽和脂肪団の比率が高くなっているのです。人間は体温36℃と比較的穏やかな環境にあるために、体に必要な油も飽和脂肪酸とω-9脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比率も343とバランスの取れた状態になっていると考えられます。この比率を崩してしまうと自分の体調を崩し病気を招く結果となってしまうのです。

 

 掲載日 2020.1

 

 

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