加藤昇の(新)大豆の話

50. 搾油原料から見る油脂の摂取実態

 実際に私たちが摂取している植物油脂はどんなものか、厚生省の国民健康・栄養調査によると必須脂肪酸を多く含む大豆油が熱帯油脂のパーム油よりも少ないという状況になっていることがわかります。このように我が国の植物油脂摂取量は、大豆油よりも熱帯油脂であるパーム油の使用量が多くなったのは2008年からのことです。それから10年経過した2018年の消費傾向は表の通りです。この傾向と国内での動脈硬化、心疾患の発生状況が連動していると警告を発している人たちもいます。

私たちが現在摂取している油脂は次の通りです。

 

我が国の食用油脂消費量 (2017年度、日本植物油協会)

 

年間消費量(千トン)

 

菜種油

 1,075  

 39.0

パーム油

  708

 25.7

大豆油

     480

 17.4

こめ油

      90

  3.3

コーン油

      78

  2.8

パーム核油

      72

  2.6

オリーブ油

      57

  2.1

ごま油

      54

  2.0

やし油

      42

  1.5

ひまわり油

      24

  0.9

棉実油

       7

  0.3

サフラワー油

       6

  0.2

その他の油脂  

      61

  2.2

   計

    2,754

 100.0

 

私たちが摂取している油脂の4割近くは菜種油です。菜種油は江戸時代には灯火の油として「あんどん」などに使われていましたが、江戸時代後半になると食用油脂として広く使われるようになりました。我が国では昭和30年頃までは全国的に栽培され、その「菜の花畑」の光景は童謡にも歌われていましたが、2018年現在では国内で3.6千d栽培されているにすぎず、自給率は0.1%とまったく海外に依存している状態です。わずかに栽培されている国産菜種も、その7割が北海道で栽培されています。

現在は菜種を年間245.5万トン(2018年)、主としてカナダから種子を輸入して国内で搾油しています。現在輸入されている菜種は従来の日本で栽培されていた菜種とは違い、菜種に含まれていた有害物質のエルシン酸やグルコシノレートを含まない菜種を遺伝子組み換え技術で作った「キャノーラ油」と名前を変えた菜種油となっています。

 

菜種油、オリーブ油や大豆油は植物油として店頭で購入することはできます。しかし現在、大豆油よりもはるかに多く日本で消費されているパーム油を私たちは店頭の油脂の棚で見ることはありません。パーム油脂はスーパーマーケットなどの店頭では売っていないのです。すべて直接加工食品として利用されていて私たちの口の中には知らないうちに入っているのです。現代社会において、われわれは加工食品や調理済み食材を避けて生活することは難しいほど一般化しています。これらに多く使われているのがパーム油なのです。すでに見てきたようにパーム油には飽和脂肪酸が50%も含まれているのです。そのためにこれらの油脂で加工された食品は酸化による劣化が遅く、賞味期限が長くなるというメリットがあります。しかし、一方では飽和脂肪酸には血管の動脈硬化などを促進する危険性があります。私たちは血液がサラサラになる多価不飽和脂肪酸が多い大豆油よりもコレステロールの危険が内在している飽和脂肪酸の多いパーム油を多く消費しているのが現実なのです。私たちは自分の健康を保つためにもこれら3種類の脂肪酸バランスを適正に保つ必要があります。そのためには、自分で意識して魚油や大豆油のような多価不飽和脂肪酸の多い油脂を意識的にとるように気をつけておかなければなりません。肉食や外食が多い人は、意識して大豆油や魚料理を多く摂り、自分で体内の脂肪酸バランスを保つように心掛けておかなければなりません。魚油と大豆油などに含まれるリノール酸とリノレン酸は必須脂肪酸と言われており、食事で取り入れなければ健康を害する大切な油脂なのです。

  

  掲載日 2019.7

 

 

大豆の話の目次に戻る