加藤昇の(新)大豆の話
48. 油脂の健康機能
「エエッ!大豆油って健康にいいの〜?」
「だって、油を摂ると太るし、内臓脂肪も心配でしょう。」
「それに美容やダイエットにも悪いじゃない。」
「油を摂らないのが健康じゃないの???」
・・・とまあ、こんな声がいっせいに沸きあがりそう。しかし、東京都老人総合研究所と小金井市が共同で調査した結果の「長生きの条件11ヵ条」の1つに“油脂の料理をよくとる”という項目が入っていたのをご存知でしょうか。また、長寿の県として有名な沖縄を調査した結果、長寿を支えている5つの項目の1つに“油料理がよく好まれている”と、油摂取が長生きの理由に挙げられています。テレビから聞いているイメージとずいぶん違うな、と思われた方もいると思います。確かに油の摂り過ぎはよくありません。なにも油に限ったことではないし、また、油でなくともカロリーを摂り過ぎると、われわれ動物は飢餓に備えて皮下脂肪に貯蔵するシステムになっているのです。
油はカロリーが高いから摂取量に気をつけていなければならないことは確かです。でも、この後で詳しくお話しますが私たちが油の摂取で気を付けなければならないのは肉に含まれている動物油脂や調理済み食材に含まれている熱帯産の飽和脂肪酸の多いパーム油などであって摂取量が少ない大豆油や魚油のような必須脂肪酸はむしろ足りない状態なのです。油脂は体内では欠けてはならない大切な栄養素なのです。体内に油脂が不足すると健康を害してしまいます。
油が体の中で行っている大切な働きを要約すると次の通りです。
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体のエネルギーを生み出す原料として使われています
A
体温の保持をして、一定の体温に保つ働きをしています
B
細胞膜、ホルモン、脳神経細胞などを作る材料となります
C
脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の吸収を補佐しています
D
便秘の改善になります
油脂はこのように生命に直結している役割を演じています。だから油脂が体内に不足してくるといろいろな体調不良を起こすことになります。
例えば
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免疫力が低下し、疲れやすく、病気を招きやすい体になる
A
エネルギーが不足して、痩せた疲れやすい体質になる
B
体温を維持できず、低体温体質になる
C
体が乾燥し、皮膚の荒れやシワが目立つようになる
D
脳機能に影響を与え、無気力やうつ状態に陥ることもある
E
脂溶性ビタミンが不足し、肌や骨の老化を早める
などの症状を起こすことになります。
大豆油の健康機能といっても、ほぼ植物油脂に共通した働きを持っているのですが、それぞれの植物油に含まれる脂肪酸組成によって若干の差異が見られます。大豆油の特徴はリノール酸が約50%と多いことです。リノール酸の他にはオレイン酸が約20%、リノレン酸が8%程度とされています。リノール酸、リノレン酸などは体内で合成できないために必須脂肪酸と呼ばれ、これらが欠乏すると成長阻害や感染に対する抵抗性などに障害を引き起こすことが知られています。更に大切なこととして必須脂肪酸は細胞に流動性、柔軟性、透過性を与えて、全ての組織が正常な機能を果たすように調整してくれているのです。とはいってもリノール酸の摂りすぎもアレルギーなどの免疫異常を引き起こす可能性が指摘されており、偏った食事こそ気をつけておかなければならないことでしょう。
油脂保存の留意点
「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」、若葉が萌え出す春になると江戸時代の俳人、山口素堂の詩が思わず口をつくウキウキした気分になる季節です。この緑の季節とは若葉の中に葉緑体が増殖することによって生まれているのです。葉緑体は植物細胞の中でウイルスのように分裂増殖をして増えていくものであり、あたかも細胞に寄生している姿に見える様子もウイルスに似ています。また、葉緑素は我々の血管を流れているヘモグロビンに似た構造をしており、ヘモグロビンは分子構造の中心に鉄分を抱いているのに対して葉緑素はそこにマグネシウムをもっているのです。葉緑素入り健康食品がもてはやされるのも、この葉緑素とヘモグロビンの構造が似ているために造血効果が期待されているところにもあるようです。
この葉緑素は我々の想像を絶する科学技術力を持っており、食用油脂の中に微量でも混在していると簡単に油を酸化して劣化させてしまう力を秘めています。だから大豆油脂メーカーは食用油を精製する工程で、大豆原油の中に活性白土を混ぜ込んでおいて、これに葉緑素を吸着させながら懸命に取り除いているのです。
私達が食用油脂を家庭内で保存するときに気をつけなければならないことは、パーム油などの熱帯油脂以外はどれにも不飽和脂肪酸が多く含まれており、空気中の酸素や熱で酸化されやすい性質を持っているということです。大豆油は酸化を受けやすいリノール酸など多価不飽和脂肪酸を多く持っているのです。おそらく大豆はこれらの多価不飽和脂肪酸の酸化を防ぐために大豆種子の中に抗酸化効果のあるビタミンEなどをたくさん含んでいたのかもしれません。でも食用油脂として精製する工程で多くのビタミンEは取り除かれてしまいます。だから食用油脂を買ったらなるべく冷暗所などに保存をして油脂が酸化するのを防ぐようにすることが大切です。暗い所に植物油を保存する理由は、油脂の精製工程で万が一にも葉緑素が微量にでも油の中に残っていたとしても、葉緑素が光に反応をして酸素を発生し、油脂を酸化させることのないように安全の為に光を遮断しておくためです。また、不飽和脂肪酸は光を受けるだけでも酸化を起こします。いずれにしても植物油脂に光、熱、酸素は禁物なのです。
掲載日 2019.7