加藤昇の(新)大豆の話
44. 大豆油について
私たちは一人、年間19.48kgの油脂を食べていることになっています。その42%は液状油脂として食べていますが、マーガリンやショートニングなどに加工して摂取しているのが23%、マヨネーズやドレッシングとして食べているのが10%あります。残りの25%はいろいろな加工食品に使われているとされています。
現在日本で最も多く食べている油脂は菜種油です。大豆油の使用量はだんだんと少なくなって現在は全体の17.4%となっています。近年になって大豆を抜いて急速に消費量を延ばしてきたのが熱帯油脂のパーム油です。このことは果たして望ましい姿なのかをこの項目で見てみましょう。
大豆油に入る前に
油脂は動物であれ植物であれ、それぞれの体内で生命活動を維持するために必要な大切な物質です。大豆に含まれる油脂も人に食べられるために種子に蓄えているわけではなく、自分の子孫に命をつなぐために種子の発芽に必要なエネルギー源として油脂を蓄えているのです。大豆だけでなく動物や魚の油脂も、野菜や果物もそれぞれの体内にある油脂は自分の命を支えるために蓄積しているのです。それを人間や動物が自分の体に足りない油脂を補強するために搾取して(食べて)いるのです。
それらの油脂を蓄えている動物や植物はいろいろな環境の中で育っています。その育っている環境の中で自分の体が利用しやすい形で油脂を蓄積しているのです。摂氏5度以下の冷たい海水の中で生活している魚類にはその温度でも自分の体の生理メカニズムで利用できる流動性を保つように低温対応の油脂として蓄積しています。熱帯地方に育つ植物では摂氏50度を越える過酷な環境でも酸化が進まないように構成された油脂を体内に持っているのです。それらは油脂を構成する脂肪酸の組み合わせを変えることによって油の酸化に対する抵抗性や流動性を保っているのです。
油脂をどう見るか
私たちは油脂を論ずるときによく使うのが大豆油、菜種油、オリーブ油、魚油などのように、その油脂が含まれていた素材を見て油脂の区別をしていますが、油脂はいくつかの脂肪酸の組み合わせとして作られているのです。別の原料から作られた油脂でもその中身の脂肪酸の構成が似ていれば、私たちの体内に取り入れられた後の栄養や働きなどの挙動は全く同じとなります。さらに現在では油脂原料の品種改良によって本来の脂肪酸組成の構成を変えてあるものもあります。例えば大豆のリノール酸を減らしてオレイン酸を増やした「高オレイン酸大豆油」、同じようにトーモロコシのオレイン酸含量を増やした「高オレイン酸トーモロコシ油」などは大豆とかトーモロコシの名前がついていますが中に含まれている脂肪酸の構成は菜種油やオリーブ油に似た性質を持っているものに変わっています。つまり油脂の性質を決めているのは、原料となる名前ではなく構成している脂肪酸の比率によってその性質が決められているのです。これらの性質を決めている脂肪酸は大きく分けて飽和脂肪酸、1価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸と区分けされています。別の呼び方では飽和脂肪酸、オメガ9、オメガ6、オメガ3とも称されています。私たちが油の栄養を考えるときに大切なことは、これらの脂肪酸をバランスよく摂取することです。それぞれの油脂原料に含まれている油脂にはその生物に最適な脂肪酸バランスとなっていますが、それは必ずしも人間のバランスとは同じでないのです。近年はオリーブ油を好んで使用している人もいますが、オリーブに必要な脂肪酸バランスと人間の体のバランスは全く違うのです。人には人の望ましい脂肪酸バランスがあり、魚には魚のバランスがあるのです。
また、同じ動物でもその育っている環境によって体内の脂肪酸の組み合わせが大きく違ってくることがわかっています。例えば、同じ魚でも暖流に住んでいる魚と寒流に住んでいる魚では脂肪酸組成が違ってきます。一般的に暖流を泳いでいる魚よりも寒流を泳いでいる魚の方が不飽和脂肪酸の比率が高いとされています。また、牛肉に含まれている油の脂肪酸組成も、その牛が自然環境の中で放牧されて牧草だけを食べて育っているのか、狭い牛舎の中に閉じ込められて穀物飼料を与えられているのかで牛肉の中に含まれる脂肪酸組成が違ってくることが明らかになっています。牧草で育てられている放牧されている牛はストレスが少なく、穀物牛に比べて多価不飽和脂肪酸のオメガ3脂肪酸が多く含まれていることがわかっています。そのためにニュージーランドのような牧草牛にはオメガ3脂肪酸が多く、我が国の牛舎で育つ穀物牛の霜降り肉には飽和脂肪酸が多くなる傾向にあるようです。
次の項で「油の性質を示す脂肪酸組成」に私たちに身近な食用油脂の脂肪酸バランスを取り上げていますが、どの油脂も人間の体にとって望ましいとされるバランス(飽和脂肪酸3:一価不飽和脂肪酸4:多価不飽和脂肪酸3)に合致している油はありません。つまり私たちは1種類の油脂に頼るのではなく、摂取油が偏らないように組み合わせによってバランスを整えなければならないのです。これらの脂肪酸はどれも私たちの体にとって大切な働きをしてくれているのです。
オメガ3脂肪酸(魚油、亜麻仁油、荏胡麻油): 炎症の抑制、細胞膜の柔軟性
オメガ6脂肪酸(リノール酸・大豆油、サラダ油): 炎症の促進、細胞の合成
オメガ9脂肪酸(オレイン酸・菜種油、オリーブ油): 悪玉コレステロールの低下
飽和脂肪酸(動物油脂、熱帯油脂・牛脂、パーム油): エネルギー産生、ホルモンの原料
このようにオメガ3脂肪酸も飽和脂肪酸も私たちの体にとっては必要な油脂ですが、これが体内で片寄ってバランスが崩れると体に異変が起こります。だから私たちは肉も魚も大豆油も菜種油も偏らないように体に取り入れておくことが大切なのです。
次に、油脂は温度によって液状のものと固体のものとがあります。これらを食べて体内に取り入れた時に人の体温の中でドロドロ状態かサラサラ状態かも油脂を摂取するときに気を付けておかなければならない視点です。そのことについても触れていきたいと思います。さらに、油は酸素や光で酸化されやすい性質をもっているものもあります。油が酸化されると健康のために良くない反応を体内で起こします。それらを防ぐには酸化反応に抵抗性の強い油脂で加工する方法もありますが、しかし、熱に強い飽和脂肪酸は血管内では動脈硬化や心疾患などの心配があり安心はできません。やはり、油脂加工品や油調理の総菜は長く保存せずに早く食べてしまうことが大切なことです。
これらについては逐次話していきたいと思います。
掲載日 2020.1