加藤昇の(新)大豆の話

43. 大豆ペプチドについて

 大豆蛋白質の働きを研究しているうちに派生的に生まれてきたものがこの大豆ペプチドというタンパクの一種です。栄養学的に食品タンパク質の優劣を考えるときに、そのタンパクを構成するアミノ酸の優劣を基準にしてきました。しかし、私たちの口に入って消化されていく状態を考えたときにタンパク質は種々の消化酵素で分解されながら吸収され、栄養となっていくのですが、全ての蛋白質がアミノ酸まで完全に分解されているのではなく、いろいろな分解レベルで混在している状態であり、それぞれの分解レベルに応じていろいろな働きをしていることがわかってきました。このように蛋白質が完全にアミノ酸にまで消化されないで小さい断片にとどまっているものをペプチドと呼んでいます。最近の栄養学ではペプチドがアミノ酸と違った吸収のされかたをしており、さらにペプチドの形で生理機能を発揮しているものがあることも知られるようになりました。今やペプチドの研究はアミノ酸研究を超えるほどに熱を帯び、発展してきています。

 まず、大豆ペプチドの一番分かりやすい特徴として、消化吸収しやすいことが挙げられます。それは、ペプチドがアミノ酸とは違った吸収のされ方をしながら小さな塊として吸収されていくことからも容易に想像されるところでしょう。この吸収されやすいペプチドは、消化吸収力の弱っている病人や老人にとって効率よく蛋白質を摂取できることから注目されています。次にエネルギー代謝の促進効果や体脂肪の蓄積抑制効果が指摘されています。例えば小児肥満の減量治療などに活用して皮下脂肪量が減少することも明らかとなっています。

 

大豆ペプチドには高血圧患者の血圧降下効果も認められています。また血中コレステロール低下作用やコレステロールの吸収阻害、免疫能の増強効果なども報告されています。さらにβ-コングルシニン由来の短鎖ペプチドには脂質代謝改善作用や糖尿病予防効果なども見られています。

このほかにタンパク質よりもペプチドに分解しておいた方がアレルギー作用も低いことが知られています。食物アレルギーの原因物質はほとんどの場合蛋白質です。しかしこの蛋白質を酵素などで分解しておけばアレルギー作用物質はほとんどなくなってしまいます。たとえば味噌などのように大豆タンパクがペプチド状態に分解された食品ではアレルギーは起こらないのです。さらにペプチドにはストレスホルモンを抑制することにより集中力が向上してリラックス状態となり脳波のアルファ波が多くなるという報告もあります。

 

大豆ペプチドの利用

大豆ペプチドはその機能性を活かした利用が広く行われています。その主なものを挙げると次のようなものです。

 

大豆ペプチドの主な用途

利用分野

応用例

一般食品

ヨーグルト、発酵マーガリン、発酵クリーム、パン、ハム

ソーセージ、すり身、調味料、

高齢者食品

ペプチドゼリー、デザート

乳幼児食品

ベビーフード、抗アレルギー食、乳頭不耐性用ミルク

タンパク強化食品

クッキー、スープ、濃厚ペプチド飲料

スポーツ食品

スポーツドリンク

医薬品

経腸食、流動食、肝臓病食、アミノ酸代謝異常食

健康食品

ペプチドパウダー

機能食品

降コレステロール機能食品、生理活性利用剤

化粧品分野

クリーム、養毛剤、シャンプー、リンス

 

 このようにペプチドの持つ生理的・物性的機能を活かした利用開発が広がっています。

スポーツにおける大豆ペプチドの効果はすでに多くのトレーニングの現場で実践されています。京大の伏木名誉教授らの研究で大豆ペプチドには、脂肪の代謝を促進する働きがあり、マラソンなど持久力の必要な競技にとって有利なことが明らかになっています。また筋肉量を増やす働きもあり、柔道部の選手に大豆ペプチドを与えることで、フクラハギの筋肉と膝の下の筋肉がはっきりと有意に太くなるという効果も報告されています。また、大豆ペプチドには酸化を防ぐ働きがあり、陸上選手を対象に大豆ペプチドを飲ませたグループと飲ませなかったグループに分け、10km走らせた後、筋肉の損傷を調べたところ、大豆ペプチドを飲んだグループは筋肉の損傷が少なく、筋肉の分解を抑制していることが分かっています。

 柔道や重量挙げ、あるいはレスリングなど体重制限の中で、筋肉を使って行う競技は、厳しい食事制限と筋肉量の増大という2つの要素を満たさなければなりません。大豆ペプチドは、低カロリー食を作った場合でも基礎代謝を落とさないという報告が多くされていますが、それは脂肪の代謝を優先的に促進することで、筋肉の分解を抑えていることによるものと考えられています。このように大豆ペプチドは、食事制限のつくスポーツ選手にとって今や重要なタンパク源となっているのです。

さらに大豆ペプチドのリラックス効果も指摘されています。脳の疲労を回復させてリラックスさせてくれることによりストレスを軽減する働きがあるのです。

 

 大豆ペプチドは、ペプチド調製に使う酵素の種類、調製法によって様々なペプチドが作成できることから、さらに新規のペプチドが出来、その機能性が付け加わる可能性があります。このようにして、今後さらに大豆ペプチドの研究は広がってゆくことが期待されていますが、これらの研究は現在、わが国が世界に先駆けて切り開いており、今後その成果が楽しみな領域です。

 掲載日 2019.7

 

 

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