加藤昇の(新)大豆の話

4. 大豆を注意深く観察してみよう(大豆の組織について)

 まず、大豆を肉眼で見て分かるところから始めましょう。大豆種子は種皮と胚から出来ており、種皮は硬い層で覆われています。この種皮によって大豆は過剰な水分の蒸散を抑え、周囲からの吸水の速度も調節し、さらに病害虫類からの防御などをしながら種子を守っています。種皮には臍(へそ)があり、また胚は子葉・幼根・幼芽・胚軸から成り立っていることは簡単にわかります。そして当然のことながら大豆は生き物であり、種皮にある臍(へそ)は種子が莢の中で登熟していくときに親の大豆植物から栄養をもらっていた、人間で言えば臍の緒の痕跡といえるものなのです。そして大豆の種子が充分な栄養を蓄えられた時が完熟になります。これ以上の栄養補給が必要なくなると莢の中で種子につながっていた管が外れてしまいます。大豆の種子を振ると種子が莢の中でコロコロと音を立てて動くようになると種子の収穫時になります。

子葉と言われる部分は種子重量の90%を占めており、食品としての大豆とはこの部分を指しています。発芽時には子葉に蓄えられている栄養素をエネルギーに変えて本葉が4枚くらい開くまでの栄養を供給しているのです。子葉細胞を顕微鏡で眺めると多数の穎粒(プロテインボディ)が観察されます。プロテインボディの組織の中にはいくつかの種類の蛋白質が含まれていますが、主なものはグリシニンとβ-コングリシニンと呼ばれるものであり、これらは大豆の健康機能のいくつかを担っている主要な蛋白質です。プロテインボディの間隙を埋めている細かい穎粒がオイルボディ(スフェロゾーム)という大豆脂質の貯蔵庫であり、大豆油はここに貯められているのです。大豆の組織全体はプロテインボディを主体とする水系組織で成り立っておりその中に油脂の組織が共存している状態なので、油脂の組織はレシチン二重膜で包まれて安定化しています。レシチンは水系組織とも油系組織とも手を結ぶことが出来る両親媒性物質と言われています。

大豆は種皮の色でも区別されている

食品大豆は用途に応じて品種が多岐にわたっています。国産大豆の生産は北海道が中心になっていますが、それでも各地の気候に適した大豆が開発されており、北海道から九州まで多くの品種が栽培されています。それらの分類の仕方もいろいろありますが、見た目で簡単に大豆の種皮の色で分ける方法もあります。

大豆を熟した種子の色で分けるとこのように5種類に分けられます。その主な品種を取り上げると次のようになります。

 黄大豆: 最も一般的な大豆で古くから栽培されていました。 主な品種はフクユタカ、エンレイ、ユキホマレなどです。

 青大豆: 登熟しても皮が青いままで、主に北海道・東北地方で栽培されています。 主な品種は音更大袖、くらかけ豆

 黒大豆: 近畿地方・中国地方で栽培されており、煮炊きしても型崩れしないので煮豆として使われています。 
        丹波黒が有名です。

 茶大豆: だだちゃ豆として知られており、山形県庄内地方の特産品です。

甘味と香りがあり枝豆として使われています。 人気の品種は白山です。

 赤大豆: 種皮にアントシアニンが含まれています。主に西日本で栽培されていますが生産量は多くありません。 
       主な品種は紅大豆です。

これらの大豆は色の違いを活かしながらいろいろな食品用途に利用されています。

大豆は生き物

 大豆は、地球の北半球では秋の10月前後に収穫されます。日本で使われている国産大豆とアメリカ産大豆は秋に収穫されたものであり、次に収穫されるのは翌年の10月頃となりますから、今年の秋に収穫された大豆を翌年の秋まで使い続けなければなりません。秋に収穫された、とれたての大豆は生きのいい元気いっぱいの大豆と表現することが出来るでしょう。しかし、その大豆を1年間使い続けるために大切に穀物倉庫に保管している間も大豆は呼吸をし、生き続けているのです。大豆は呼吸をし生命活動を続けることで熱を発生させて体力を消耗していきます。収穫されてから10か月の保存期間を過ぎて体力を消耗した頃に迎えるのが高温の夏です。その頃になると大豆は相当体力を消耗していることでしょう。大豆の疲れ具合がよくわかるのは、これらの大豆で豆腐を作ってみるとてきめんにわかります。大豆のたんぱく質が熱変性することによって凝固剤との反応性に力がなくなってきます。そのために豆腐のキメの細やかさや凝固する力などが衰えてきます。それでも豆腐を作る技術者たちは長年の経験によって見栄えの良い豆腐を作るように努力をしているのです。年間にわたって豆腐を作り続けている人たちには、この生きた大豆の体力消耗の手ごたえは身に染みて感じていることでしょう。このことは豆腐に限らず、生きた大豆を使って作るあらゆる大豆食品に、程度の差はあるにしてもあらゆる場面で起きている現象なのです。近年では少しでも生きている大豆の体力を消耗させないように食品用大豆は冷蔵倉庫に保管して熱変性を防ぐ努力をしています。ちょうど私達が暑い夏の間、涼しい高原や避暑地に行って体力を温存しているのと同じです。私たちは大豆を生き物として見ておくことも大切なことです。

                        掲載日 2019.7

 
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