加藤昇の(新)大豆の話

27.  含まれている油が分離してこない豆腐と豆乳

凍り豆腐は豆腐を凍結乾燥させたものです。この中には大豆中のほとんどの蛋白質と油脂が移行しています。生大豆には約20%の油脂を含んでいるのですが、この油脂は豆腐を作る過程でほとんどすべて豆腐の中に留まっています。だから豆腐の成分は、乾物換算で蛋白質55%、脂質35%を含んでいるのです。普通の食品で油分35%あればどうだろうか。凍り豆腐にこれだけの油脂を含んでいるとは想像できないのではないでしょうか。同じくらいの油を含んだ肉や魚を加熱すると油が分離して、ポタポタとたれてきますが豆腐や凍り豆腐を煮ても焼いても、油が流れ落ちてくるようなことはありません。また、豆腐を食べても食感としても多量の油が含まれているとはとても思えません。当然ながら、豆乳にも多量の大豆油が含まれていますが、水と油に分離することもないし、湯豆腐の湯の中に油が浮き上がってくることもありません。何故でしょうか?

 まず頭に思い浮かぶことは、大豆中に乳化力の強いレシチンが含まれているからだろうと想像しますが、勿論間違っているわけではありませんが十分な説明にはなっていません。実は大豆の中にはあまり知られていない秘密兵器が仕組まれているのです。それはオレオシンという特殊な大豆タンパク質です。大豆の種子中で油脂は小胞体となってオイルボディという塊を形成しています。オイルボディは周囲をリン脂質(レシチン)の二重層に囲まれていますが、この中性脂質塊に蛋白質の鋲が打ち込まれて大豆子葉中で安定状態となっているのです。この打ち込まれている鋲の働きをしている蛋白質がオレオシンと呼ばれる蛋白質です。

 

 大豆の中には2種類のオレオシンがあり、これらが強い乳化安定性を発揮しているのです。オイルボディというのはさきにも言ったように、大豆中で油を蓄積している油房を指しているのですが、豆乳を作るときに大豆を磨砕して水抽出した豆乳中では、オイルボディの大部分は大豆蛋白質と結びついて巨大粒子を作っています。このときにオレオシンが重要な役割を演じているのです。大豆タンパクにはグリシニンとβ-コングリシニンという大きなタンパク群がありますが、これがオレオシンの働きによって、まず脂質がグリシニンと結合し、さらにβ-コングリシニンが仲立ちして巨大粒子を形成して安定化しているのです。オレオシンタンパク質の熱変性点は130℃付近であり非常に熱に強く、100℃以下の加熱による豆乳の調整では熱変性が起こらず強力な乳化力を維持しています。そのため豆乳中の脂質は極めて安定で、長期保存や再加熱などによっても分離することはないのです。

 

 このようにして出来た豆乳に、さらにニガリを添加して豆腐を作ることになるのですが、豆乳をオレオシンが安定させたように豆腐のカードを作るときにもオレオシンが大活躍しているのです。オイルボディの表面のオレオシンは中性領域に等電点を持つことから、凝固剤のニガリを添加されるとオレオシンとタンパク粒子がまず結合し、さらにそのネットワークを広めながらさらに周りの蛋白質がこれに集結し、水を抱き込んだ状態のカードを形成することになります。結局、脂質はオイルボディの形で粒子、さらに蛋白質に囲まれ、ネットワークの中心に深く埋め込まれて安定な形をとっているのです。そのため豆腐中の脂質は煮ても焼いても出てこないほど奥にしまい込まれているのです。豆腐を食べても油っこさを感じないのはこのように幾重にも包み込まれた状態で安定していることによるのです。

 

 掲載日 2019.7

 

大豆の話の目次に戻る