加藤昇の(新)大豆の話

22. 豆腐の健康機能について

 豆腐は、かつては安価で手軽に購入できる食材として親まれていましたが、今ではいろいろな健康機能があることが豆腐を購入する大きな動機になっているようです。豆腐の中には大豆が持っている成分の多くがそのまま移行しているので、大豆の持つ健康機能がそのまま豆腐の中に移っているといえます。さらに豆腐には凝固剤として硫酸カルシウム(すまし粉)、塩化マグネシウム(にがり)や塩化カルシウムが使われています。これらの成分もミネラル分として体に吸収されていきます。大豆の持っている健康成分としては、タンパク質、油脂の他にも、レシチン、イソフラボン、ビタミンB1B2、ビタミンEK、食物繊維、トリプシンインヒビター、サポニンなどが多彩に含まれていますが、この中で水溶性成分とされるビタミンB群、イソフラボン、サポニンなどは豆腐製造工程中に多少の減少が起こっています。さらにおからが取り除かれるときにおから成分として炭水化物が除かれ、それと一緒に油溶性成分も多少は取り除かれていきますが、ほとんどの成分は豆腐の中に残されています。これらの成分による豆腐の健康機能には、いろいろな生活習慣病の予防や治療の効果があるとされています。

 

木綿豆腐、絹ごし豆腐100g中の成分 (日本食品標準成分表・5訂 )

項目

木綿豆腐

絹ごし豆腐

エネルギー

72kcal 

56kcal

水分

86.8 g

89.4g

蛋白質

6.6 g

4.9g

脂質

4.2 g

   3g

炭水化物

1.6 g

   2g

ナトリウム

13 mg

   7mg

カリウム

140 mg

150mg

カルシウム

120 mg

43mg

ビタミンB1

0.07 mg

0.1mg

ビタミンB2

0.03 mg

0.04mg

ビタミンE

0.6 mg

0.3mg

葉酸

12 μg

11μg

 

 豆腐に含まれる豊富なたんぱく質には人の体を構成する骨格、筋肉、酵素など最も大切なものの材料として働きます。これらのたんぱく質を構成しているアミノ酸のバランスが素晴らしく、私たちの体を効率的に補強してくれています。大豆のたんぱく質の約20%を占めているβ‐コングリシニンには肝臓にある中性脂肪をエネルギーに変えることによって脂肪肝を予防する働きも知られています。

次に大豆油ですが、必須脂肪酸を多く含む大切な油脂で出来ています。実はさっぱりとした冷奴の中にも大豆油はたっぷりと含まれているのです。豆腐を形作っているたんぱく質に匹敵する油脂が含まれていることは上の表からも読み取ることが出来ます。そしてこれら大豆油は血液中のコレステロールを減らし、血管を動脈硬化から守ってくれる大切な働きをしているのです。また、バランスの良い脂肪酸の摂取は体内のホルモンなどの原料となり、体全体の機能を守る大切な働きをしています。油がリンと結合した複合脂質である大豆レシチンも含まれています。レシチンにはいくつかの種類が混在していますが、その中のいくつかは脳の神経細胞を活性化させる働きをしてくれています。また、体を作っている細胞自身ももリン脂質による脂質二重膜により作られており体の組織にとって大切な働きをしているのです。

イソフラボンは女性ホルモンに似た構造を持っており、更年期障害など女性ホルモンが不足した時の補給材料として大切な役割をしています。ビタミンB群は体内でエネルギーを産生するときのサポート役として体温の維持や活動のエネルギーを生み出す働きをしています。ビタミンEは抗酸化物質として体の若さを保つ働きをしています。私たちは毎日呼吸をして酸素を取り入れています。そのために体内では酸化反応が絶えず起こっているのです。この反応の過程で過剰に酸化されて組織が老化するのをビタミンEが防いでくれているのです。ビタミンKは、私たちの骨が過剰に老化していくのを防いでくれており、骨粗鬆症の予防としても大切な働きをしています。 

  さらに豆腐を作った時に出来る「おから」にも健康食材としての関心が高まっています。おからには高たんぱく、低糖質としての機能が知られており、高血糖に対する予防に役立つ食材として期待されています。大豆の食物繊維は腸内細菌にとって重要な栄養源となり、免疫機能を助けたり便通の改善にも力となっています。ただ、生のおからには水分が多く含まれており保存性がないのが欠点です。その点を改良したものとして、乾燥された「おからパウダー」に調整されているものがあり、ある程度の保存は可能となっています。それぞれの乾燥状態にもよるので、個々の商品で保存期間を確認しておくのが良いでしょう。

 

また、豆腐を作るときに凝固剤として使われるニガリやすまし粉にはマグネシウムが含まれており、体内に入ってミネラルとして各種の役割を演じてくれます。マグネシウムは体の細胞に含まれている基本的なミネラルであり、細胞の代謝を促進させて血液中のブドウ糖を消費してくれる働きをしています。厚生労働省「国民健康・栄養調査(2017)」などから現代の30-40代の男女のマグネシウム摂取量を見ると男子で240mg、女子で210mgとされています。これに対して国が定めたマグネシウムの推奨量は、男子で370mg、女子で290mgと約100mg不足しているとされています。マグネシウム不足は血管の平滑筋の柔らかさを損なう恐れがあり、末梢血管への血液の循環が衰えて老化を促進すると言われています。豆腐には大豆に含まれているマグネシウムと凝固剤によって加えられるマグネシウムによって、体に不足しているマグネシウムを補強するのに優れた食材と言えます。

豆腐には90%近い水分があり、栄養分が少ないように見えますが、トリプシンインヒビターのような直接摂取すると体が過剰に反応してしまうような微妙な酵素を、水分の多い状態の中で上手に摂取できるメリットにもなっています。そしてそのことが膵臓の働きをサポートするなど、いろいろな効果をもたらす結果となっているのです。詳しくは別の項目で取り上げます。

 このような豆腐に含まれる健康機能によって癌、高血圧、動脈硬化、心臓病、糖尿病さらには成人病、肥満などの予防効果が注目されています。

 

掲載日 2019.7

 

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