伝統的な大豆食品である豆腐、味噌、醤油の生産量が横這いか、あるいは下降線を辿っている中で、豆乳が人気を集めている。近頃スーパーマーケットへ行くと豆乳の棚が牛乳を越える勢いである。テレビや新聞を見ていても、豆乳を使った商品の紹介がやたらと目につく。我が家でもすっかり馴染みとなっている豆乳鍋に留まらず、各種豆乳飲料、青汁豆乳や寒天豆乳、さらには豆乳クッキー、豆乳ローション、豆乳石鹸、はたまた豆乳風呂まで豆乳にあやかった商品のなんと多いことか。どうやら豆乳にはダイエット、美容、健康のイメージが定着している様子である。このような現在の豆乳ブームはなにも日本に限った現象ではない。
1999年にFDA(米国食品医薬品局)は、大豆食品が健康維持とりわけ心臓病・脳卒中の予防に有効であるとして積極的に摂取するよう奨励した。このことがアメリカにおいて、豆乳などの大豆ブームに火をつけたのである。しかし、このようなアメリカの動きとは別に、豆乳には現在もっと大きな流れが始まっている。広く世界の国々を眺めてみると、我々の想像以上に豆乳が愛用されていることに驚かされる。
農水省のデーターによると、2003年の我が国の国民1人当り年間豆乳消費量が1.01リットルであったのに対して、2016年では2.9リットルと大きく飛躍している。一方アメリカでは2003年に一人当たり1.48リットルと我々よりも豆乳を飲んでいたのが1.0と逆に減少している。日本豆乳協会のデーターから2016年で消費量の多い国を探してみると、タイの11.3リットルを筆頭に、台湾の6.2、韓国の3.9、ベトナム、マレーシアの3.8リットル、スペインの2.5リットルとなっている。下のグラフは日本の豆乳生産量の推移である。まさに最近の豆乳ブームの様子をよく示しているとおもわれます。豆乳はその成分によって豆乳、調整豆乳、豆乳飲料に区分されているが、それらを合わせた豆乳全体の消費量は、平成29年(2017)には339千㎘と過去最高の生産量を示しておりさらに拡大していく様相を呈している。さらにその内訳を見てみると、タンパク質含量が最も高い豆乳が26.6%を占めており、消費量を大きく伸ばしている。それに続く調整豆乳が53.6%、豆乳飲料が19.8%となっている。この傾向は消費者が豆乳に健康効果を求めていることを示していると見ることが出来るであろう。
わが国の豆乳は1983年に一度大きなブームを起こしている。そもそも、わが国における豆乳の歴史は長く、古くより各地の豆乳信奉者によって飲まれ続けてきた。妊娠をすれば母体と胎児の健全な成長のために豆乳を飲む風習が各地に見られるなど、豆乳の健康効果はある程度知られていたのである。しかし、長い間大豆製品を食べ続けている日本人でも豆乳の持つ青くさい匂いには抵抗があったので、深く浸透していくことはなかった。1983年の豆乳ブームもその延長線上にあったように思われる。しかし、現在起こっているわが国の豆乳ブームは過去と様相を異にしている。それは過去10数年間の大豆の健康機能についての研究が大豆に対する意識を大きく変えていることと、豆乳から大豆臭を除去する技術が格段に発達したことによるものである。
大豆には不快味成分と呼ばれている成分がいくつか含まれている。その主なものは大豆イソフラボンとサポニンである。これらの成分を除去したり分解することによって飲みやすい豆乳が出来るのだが、これらは大豆タンパク質と結合していて簡単には除去できず、長い間消費拡大の壁となっていた。しかし、これらの壁を乗り越えることが出来た現在、豆乳の持つ健康機能が大きくクローズアップされ、豆乳ブームにつながっているのではないだろうか。
豆乳の中には、大豆の持つ健康要素のほとんど全てを含んでいる。体脂肪を効率よく燃焼させる大豆タンパク、血管のコレステロールを適正値に戻したり善玉コレステロールを増やす不飽和脂肪酸、肝臓細胞や脳機能を守るレシチン、癌や骨粗鬆症を防ぐイソフラボン、抗酸化効果や活性酸素の作用を抑えるサポニン、体内の余分な塩分(ナトリウム)を排泄するマグネシウム、その他老化を防ぐビタミンEや脳機能を維持するビタミンB群など、わが国の高齢化社会にとって、なくてはならない働きを全て含んでおり、今後さらなる消費拡大が見込まれている。現在わが国の豆乳市場は530億円とされているが、アメリカでは既に1000億円市場を形成しており、その市場規模は倍増すると予測されている。わが国の豆乳にも大きな期待が寄せられており、これからが楽しみである。
2018年3月改訂