加藤昇の(新)大豆の話

17. 日本人に親しまれてきた豆腐

 豆腐は日本人にとって最も親しみのある大豆食品です。政府の発表する家計調査では、大豆加工品の中で、最も多く購入されているのが豆腐で、次いで納豆となっています。その豆腐料理も江戸時代からバラエティに富んだ食べ方が広く知られており、大衆に親しまれていた様子が見えてくるのです。

 

豆腐がいろいろな豆腐料理に姿を変えて使われており、姿を変えて私たちの日常生活の中に深く入り込んでいます。その様子を昭和の俳人、荻原井泉水は見事に詠っています。

 

      「豆腐哲学」       荻原井泉水

『豆腐ほど好く出来た漢(おとこ)はあるまい。彼は一見、仏頂面をしているけれども決してカンカン頭の木念人ではなく、軟らかさの点では申し分がない。しかも、身を崩さぬだけのしまりはもっている。煮ても焼いても食えぬ奴と云う言葉とは反対に、煮てもよろしく、焼いてもよろしく、汁にしても、あんをかけても、又は沸きたぎる油で揚げても、寒天の空に凍らしても、それぞれの味を出すのだから面白い。又、豆腐ほど相手を嫌わぬ者はない。チリの鍋に入っては鯛と同座して恥じない。スキの鍋に入っては鶏と相交わって相和する。ノッペイ汁としては大根や芋と好き友人であり、更におでんに於いては蒟蒻や竹輪と協調を保つ。されば正月の重箱の中にも顔を出すし、仏事のお皿にも一役を承らずには居ない。彼は実に融通がきく、自然にすべてに順応する。蓋し、彼が偏執的なる小我を持たずして、いわば無我の境地に到り得て居るからである。金剛経に「應無所住而生其心」とある。これが自分の境地だと腰を据えておさまる心がなくして、与えられたる所に従って生き、しかあるがままの時に即して振舞う。此の自然にして自由なるものの姿、これが豆腐なのである。

 豆腐には、悟りきった達人の面影がある。それは、厳しい環境の中で心身ともに鍛えられる禅の修行のように、重い石臼の下をくぐり、細かい袋の目を濾してさんざん苦労してきたからだ。私たちなど、その豆腐にくらべればまったくおよびもつかない。そんなことを、私は夕食の湯豆腐の鍋の前でしみじみと思い、また豆腐に教えられる。』

 

 なんと 荻原井泉水は豆腐をうまく表現したものか、まさに豆腐は今や私たちのあらゆる場面、あらゆる料理に顔を出している食材であり毎日の生活を支えてくれている食品といえるでしょう。

 豆腐は日本人にとって最も親しみのある大豆食品であることは先に示した政府の家計調査「食品用大豆用途別使用量」にも示されています。大豆加工品の中で、最も多く購入されているのが圧倒的に豆腐なのです。豆腐に次いで多いのが納豆となっていますが首位の豆腐には大きく離されています。豆腐料理は江戸時代に大きく花開き、バラエティに富んだ食べ方が知られるようになりました。豆腐の料理本「豆腐百珍」などによって大衆に親しまれていた様子が見られます。

 

豆腐は、かつて安価で手軽に購入できる食材として親しまれていましたが、今ではいろいろな健康機能があることが豆腐を購入する大きな動機になっています。豆腐の中には大豆が持っている成分の多くがそのまま移行しており、大豆の持つ健康機能がそのまま豆腐の中に移っているといえます。大豆の持っている健康成分としては、タンパク質、油脂、レシチン、イソフラボン、ビタミンE、ビタミンK、食物繊維、トリプシンインヒビター、サポニンなどがありますが、これらの中で豆腐を製造する工程でおからとして取り除かれたり、水に溶けて失われたものもありますが、ほとんどの成分は豆腐の中に移っているのです。これらの成分による豆腐の健康機能には、いろいろな生活習慣病の予防や治癒があげられています。

 さらに豆腐を作るときに使われる凝固剤にも健康効果が指摘されています。脳卒中を必ず起こすとされる遺伝子をもったネズミに大豆タンパクの餌を与えたところ、ネズミの寿命が倍に伸びたのですが、さらに、ニガリの主成分である塩化マグネシウムを混ぜた大豆タンパクを与えた場合、ネズミの寿命は脳卒中を起こすことなく4倍も長生きした、という実験結果があります。この実験結果が京都大学におられた家森教授によってNHKの番組で紹介されたことによって、にがりで固めた豆腐は風味のよさだけでなく、健康に良いと注目されるようになってきたのです。

 

 いまや、豆腐は、健康食「Tofu」として世界的に認知され、広まっています。それは、豆腐の味にクセがないことから各地の料理にも取り入れられるようになったことにもよりますが、それにもまして最近の研究から、優れた健康機能が次々と明らかにされたことにより、欧米の人たちにも豆腐のよさが認識され、日々の食材の中にも浸透し始めたからでしょう。私たちは誰でもいつまでも若さを保ち、健康で暮らしたいと思っているはずです。私たちの身の回りにある食品の中で、この希望を最もかなえてくれそうな食品のひとつが豆腐なのです。ところがわが国の豆腐の生産量、購入金額ともに、最近は下降傾向を辿っています。肥満や循環器系疾患を気にしているアメリカで豆腐の消費量が伸びているのと対照的です。私たちはもう一度豆腐について見直す必要があるのではないでしょうか。

 

世界に広がる豆腐、だけど国内では

 いまや、豆腐は、健康食「Tofu」として世界的に認知され、広まっています。それは、豆腐の味にクセがなく、その他の材料と混ぜ合わせることにより調理の幅を広げていくことが容易だったことにもよりますが、それにもまして、最近の研究から、優れた健康機能が次々と明らかにされたことにより、欧米の人たちの間にも豆腐のよさが認識され、彼らの食生活の中にも浸透し始めたからでしょう。私たちはいつまでも若さを保ち、健康で暮らしたいと願っているはずです。私たちの身の回りにある食品の中で、この希望を最もかなえてくれそうな食品のひとつが豆腐です。ところがわが国の豆腐の生産量、購入金額ともに、最近の数年間は下降傾向を辿っています。

 

 

肥満や循環器系疾患を気にしているアメリカで豆腐の消費量が伸びているのと対照的です。私たちはもう一度豆腐について見直す必要があるのではないでしょうか。

 

 

                 掲載日 2019.7

 

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