加藤昇の(新)大豆の話

15. 私たちの健康に直結している大豆食品

わが国の大豆食品

大豆には「畑の肉」と呼ばれるほど優れたたんぱく質が多く含まれています。植物性タンパクは日々の運動と合わせて摂取することによって筋肉の衰えを防ぐ働きがあることが分かっており、寝たきりの人の筋力の衰えや高齢者の体力維持に期待されています。

我が国の大豆使用量は、年間約330万トンあり、そのうちで食品用として使われる大豆の消費量は年間約95万トンであり、残りのほとんどは油脂原料として大豆油を生産するために利用されています。食品用大豆のうちで最も多い用途は豆腐・油揚げ用原料として使われています。大雑把なとらえ方として豆腐用原料に食品用途の約半分の45万トンが利用されており、次いで味噌、納豆合わせて約3割とみることが出来ます。

ここに国内で利用されている食品用大豆の用途別使用量を上げてみました。

 

      食品用大豆用途別使用料  (2017年、単位 千トン)

 用途

使用量

比率

豆腐・油揚げ

  451

47.0

味噌

  133

13.9

納豆

  132

13.8

豆乳

47

4.9

醤油

   32

3.3

凍り豆腐

31

 3.2

煮豆・総菜

   19

2.0

きな粉

   18

 1.9

その他

   96 

10.0

合計

  959

100

 

 これら約95万トンの食用大豆の内、国内で生産されている大豆(国産大豆)は、その4分の1にあたる20万トン強であり、残りの75万トン前後はアメリカを中心とする海外から輸入されています。2018年の食品用大豆の輸入先を見ると、アメリカ大豆が50%、カナダ大豆が46%、中国からの大豆が3%となっています。

 

 大豆食品の健康機能

動物性食品に比べて植物性食品の特徴は食物繊維を同時に摂取できることにあり、またコレステロールを取り入れることがないことです。だから大豆食品を選ぶことにより、タンパク質など多くの栄養素を取り入れることが出来るだけでなく大豆に含まれる食物繊維を取り入れることが出来るという効果があります。水溶性食物繊維は腸内細菌によって分解されて酪酸や酢酸という短鎖脂肪酸に変化し、これらはエネルギー源になると同時に交感神経を刺激して食欲を抑えてくれる方向に働いてくれます。

 

大豆の加工食品にはそれぞれに大豆の健康成分が移行しており、各食品の中にあって健康効果を発揮しています。さらに納豆では納豆菌による発酵効果が加わり、凍り豆腐ではレジスタントプロテインが生成することにより新たな機能が、味噌ではペプチドたんぱくによる健康機能が追加されて特有の働きをしています。主な大豆食品の健康機能は次のようなものです。

 

大豆製品

健康機能

豆腐

良質のたんぱく質で筋肉など体の骨格を作る。その他大豆の油脂、イソフラボン、レシチンなどが健康効果を発揮

豆腐凝固剤

凝固剤のマグネシウム、カルシウムは骨粗しょう症の予防・改善に効果

納豆

ビタミンK2を含み、骨粗しょう症、動脈硬化予防

納豆キナーゼは血栓溶解作用

凍り豆腐

難消化性たんぱくは血中中性脂質濃度調節効果

おから

整腸作用、大腸がん抑制作用

味噌

がん予防、活性酸素消去、抗放射能、

醤油

抗腫瘍、血圧降下

豆鼓

糖尿病予防、血中コレステロールの濃度低下

テンペ

血中コレステロール濃度低下、アレルギー抑制

 

 大豆には私たちの健康を支えてくれる多くの成分が含まれていますが、私たちの細胞を増やす効果のある体内物質「ポリアミン」も大豆に多く含まれている健康物質として注目されています。また、大豆タンパク質の約20%を占めるβ-コングルシニンには肝臓にたまる中性脂肪を消化して脂肪肝になるのを防ぐ働きも知られています。これは大豆たんぱくが肝臓にたまった中性脂肪をエネルギーに変換する働きによるものです。このように多くの健康機能を併せ持っている食材は大豆以外では見当たりません。なお、これら大豆加工食品に比べて丸大豆や黄粉などのように大豆そのままの形で食べると豆腐、豆乳などに比べてイソフラボン、食物繊維が豊富に含まれており、大豆タンパクについても納豆と同等の含量を含んでいるとされています。また丸大豆でも水煮大豆よりも蒸し大豆の方がそれぞれの成分がより含量が高まるともいわれています。

 

食品大豆の分類

 用途別に大豆を分類することもあります。その時には大豆の使われる商品によって求められる品質特性が違ってきます。大豆の用途別に求められる品質は次のようなものです。

 

豆腐用大豆; 豆腐の製品歩留まりを重視するために 蛋白質含量の多いもの。

  主な大豆品種は「里のほほえみ」「ふくゆたか」「エンレイ」など

煮豆用大豆; 煮豆の粒の大きさ、味、色、見栄えを重視する。 大粒で糖分含量が

高く外観品質が良いもの。 「ゆきほまれ」「いわいくろ」など

納豆用大豆; 納豆の粒の大きさ、色、硬さを重視する。  粒揃いが良く、

外観品質が良いもの。 「ゆきしずか」「納豆小粒」など

味噌用大豆; 味噌の色調を重視する。   大中粒で糖分含量が高く、

汚損・着色粒を含まないもの。  「あきまろ」など

 

 こうした分類を見ても、日本人は日常の食生活の中で、大豆の特徴を上手に利用しており、またそれぞれの大豆製品に対応する品種も細かく改良されていることがわかります。こうして我が国では大豆を使ったいろいろな食品が作られているのです。

ただ、今までは国と都道府県の農事試験場がうまくタイアップして、それぞれの地域に適応した種子開発が進められてきましたが、国からの予算も削減され、2018年には「主要農作物種子法」が廃止された現在では従来のような種子開発に対する取り組みが難しくなってくるのではないかと危惧の声が上がっています。一方、アメリカなどではゲノム編集技術など新しい技術を使った大豆の品種改良がバイオベンチャーを中心にして積極的な展開が始まっています。ゲノム編集による大豆の品種改良は開発コストも比較的安く、開発期間も短時間にできるために多くのベンチャー企業を巻き込んだ激しい競争になっています。これからの我が国の大豆を守っていく取り組みについてはいくつかの課題が横たわっているのではないでしょうか。

 

 国民の健康増進に関する基本的な目標を定めた「健康日本21(第1次)」では、豆類を1100g摂取することを推奨しています。平成29年度「国民健康・栄養調査」では1日の摂取量が62.8gとなっており、さらなる摂取を呼び掛けています。しかしこれでも5年前の平成24年度の56.6gに比べて11%の伸長を示しており、国民の豆類、特に大豆に対する意識が高まってきていることが示されています。

 

ちなみに現在の大豆の規格では大粒大豆は7.9mmの篩の目の上に残る大豆を指し、中粒大豆は7.3-7.8mmの篩上に残る大きさとされ、極小粒大豆は4.9-5.4mmサイズとされています。すでに紹介したように大豆は、その祖先であるツルマメから生まれたのですが、この両者の豆の大きさにはすでに大きな差があります。ツルマメの実は直径が3mmにも達しない小さなものであり、このツルマメに端を発した野生のダイズは最初のうちはまだ、現在私たちが目にする大豆に比べても小さなマメであったと想像されます。

 

            掲載日 2019.7

 

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