加藤昇の(新)大豆の話

14. 大豆はどのように利用されているのか

私たちが大豆の利用について思いめぐらすと、それは大豆を全粒のまま調理するか豆腐や黄粉のように粉砕して大豆の組織を活かした利用の仕方が中心でしょう。しかし主としてアメリカを中心としたこれまでの大豆の研究は大豆を蛋白質や油脂という大豆成分を純粋に取り出してその価値を高めていくという、蛋白質化学であり油脂化学的な色彩が強く感じられるものでした。このように日本・中国の伝統的な大豆の活用法の展開と欧米で展開を始めた分析化学的な大豆研究が相まって大豆の利用の幅は大きく広がってきています。そしてそのことがさらに大豆の価値を高めていくことにつながっていきました。 

 大豆の主な用途

 これから大豆の話題をいろいろと紹介して行くのに先立ち、私たちが現在どのように大豆と接しているのか、大豆利用の全体像をつかんでおきたいと思っています。そこで大豆がどんな使われ方をしているのかを簡単に網羅しておきたいと思っています。 

大豆の使い道は想像以上に広く、また専門的な利用についてはそれぞれの分野の解説を見てもらわないとわかりにくいと思っています。そこで、ここでは一般的な使われ方について表にまとめ、その中から必要に応じて順次取り上げていきたいと思っています。ここにまとめてある一覧表は、日本植物油協会が独自にまとめてパンフレットに掲載してあるものを一部拝借したものです。非常に上手にまとめてある資料なので、これで皆さんに紹介することにしました。

 

http://www7b.biglobe.ne.jp/~rakusyotei/clip_image0028.gif

 

この表を見ても、大豆の用途のうちで比較的日常生活で私たちの目に付きやすいものと、それぞれの分野で仕事をしている人でないと気がつきにくい専門的な使われ方をしているものとがあります。

 

わが国の食品用大豆の使われ方を2017年度の農水省のデーターから見ると次のようになっています。
食品用大豆の総使用量98万8千dの内訳は、豆腐・油揚げなどには47%を、納豆に15%、味噌に14%、豆乳用途に5%、醤油に3%、煮豆に3%、その他に14%となっています。
 ではこれらの大豆はどこからきているか、最も多いのはアメリカからの契約栽培大豆で70万トン程度に、国産大豆が25万トンなどとなっています。国産大豆は全て食品用に利用されていますが、その生産量はここ10年は年間20-25万トンの間を上下している状態です。そのために食品用大豆の国産自給率は22-24%に、我が国の大豆消費量全体の自給率は7%となっています。この図式は戦後の一時を除いて我が国がたどってきた姿と言えましょう。
 江戸時代までは自国産大豆だけでまかなっていた食品用大豆は明治時代の後半からは徐々に中国東北部(旧満州)からの輸入に頼り、わが国の大豆自給率は一気に低下していきます。第2次世界大戦に敗れ、満州からの輸入の道を断たれると一時的に農民たちの必死の努力によって40万トンの生産量を取り戻したこともありましたが、それも束の間で、アメリカからの大豆輸入に頼るようになり、現在の国産自給率7%の状態が続いていると言えます。2018年の我が国の大豆の輸入先は、アメリカ大豆が72%、ブラジル大豆が17%、カナダ大豆が10%という状態になっています。

 

大豆で利用されている食品については比較的簡単に気がつきやすい分野に広がっていることでしょう。食品以外の用途は、主として大豆から食用油脂を抽出する工程で分別される成分をそれぞれの用途に分けて整理したものです。油脂の利用も搾油工程で原油を抽出し、それを精製する各段階で分別された各種成分を利用したものであり、その利用の幅の広さには驚くばかりです。こうして大豆の成分をそれぞれの機能に合わせて用途をたどってみると、大豆で利用できなかった最後に残ったものは、大豆に紛れて込んでいた土ぼこりと夾雑物だけだったことがわかります。大豆成分では厚い皮までなくてはならない働きがあるのです。この表からは省略されていますが、大豆の種皮にはキノコ類の培地として利用されており、その生育には特別な効果が認められており、それらの特許も出されていたほどです。

 

大豆の工業的利用
 大豆の用途のうちで比較的日常生活で私たちの目に付きやすい使われ方をしているものと、それぞれの分野で仕事をしている人 でないと気がつきにくい専門的な使われ方をしているものとがあります。大豆蛋白質の利用については比較的気がつきやすい分野に属しているでしょうが、食品分野以外では案外気がつかない使われ方もしています。それらは接着剤として、屋根や浄化槽の防水塗装として、皮革の代替品、ペンキ、パーティクルボードや合板、プラスチック、ポリエステルなどの繊維類に使われています。さらに使い捨ての食器容器にも生分解性プラスチックとして利用されています。
 大豆油の利用については食品以外の用途が広く展開されており、それらは化学原料の一部として捉えられており、その分野に精通している人しか分からないものが多いように思います。大豆油も大豆リン脂質(レシチン)もいくつかの機能を併せ持っている高分子化合物なのです。これらのうちのどの働きを利用するかで用途が大きく違ってきます。これらは総括して油脂化学と称されていますが、化学産業の大きな分野を占めているほどです。

  大豆油ベースの印刷インキの話題やバイオディーゼルなども今日的な話題です。大豆油ベースのエンジンオイルも、使用後に天然の生物によって分解されることから環境にやさしい潤滑油として話題を集めています。さらに大豆油をメチル化した大豆メチルは引火点が高いことから防災上の安全性が高い溶剤として使われています。その他に絶縁材、変圧器油、油圧油、切削油、エポキシ樹脂などのポリマー原料、発泡断熱材、壁板、屋根のコーティング剤、防水セメント、リノリウムの裏張り、接着剤、抗腐食剤、工業用洗剤、ペンキ、ペンキはがし剤、パテ、隙間をふさぐコーキング剤、消毒剤、殺菌剤、食品機械用潤滑油、粉塵防止剤、防錆剤、着色剤などにも大豆油が利用され、いずれも環境にやさしい点が評価を高めています。私たちの身の回りにある商品としても大豆油が進出しており、手洗い洗剤、ワックス、ヘアケアからビニール、クレヨン、ローソクに至るまで大豆油でつくられる商品は目白押しです。アメリカの化学会社ダウケミカル社は大豆油を原料としてソファーや寝具などインテリアに利用を広げようとしています。大豆レシチンからはモーターの潤滑油の沈殿物防止剤として、あるいはガソリンなどの中に沈殿物が生じないための溶剤として使用されています。さらにレシチンは化粧品や石油掘削用液体を乳化させたり、皮革の柔軟剤、各種の消泡剤にも使われています。

 大豆がこのように用途を広げられるのは有用成分を多く含んだ穀物であり、なお且つ国際的に大量に生産されているからでしょう。このように大豆は今や従来の石油製品にとって代わる役割を演じようとしており、人類の幸せに貢献してくれることは嬉しい限りです。

 

                掲載日 2019.9

 

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