加藤昇の(新)大豆の話

13. 大豆の中に含まれている栄養成分

  ここからは大豆の栄養について、健康機能などについて触れていくことになりますが、その前にまず、大豆の中に何が含まれているのかについて概略眺めておきたいと思います。ここに大豆に含まれる主な成分についてまとめて見ました。

 

    大豆100グラム中の成分

成分

含量

人体への機能

タンパク質

33

筋肉や骨格、血液・リンパ液の原料

脂質

22

必須脂肪酸が多く各種ホルモンに

炭水化物

29

糖質と食物繊維、エネルギ^−源に

食物繊維

20

短鎖脂肪酸に、腸内環境を整える

ビタミンB1

0.71mg

糖質の代謝の補酵素として

ビタミンB2

0.26mg

エネルギー生成、脂質の代謝

ビタミンC

3.0mg

コラーゲンの生成に関与、抗酸化

ビタミンE

25mg

抗酸化効果、生殖機能向上

葉酸

260μg

造血ビタミン、DNAの合成

カリウム

1900mg

体内のナトリウムを排出

カルシウム

180mg

骨や歯の形成

マグネシウム

220mg

骨の成分、体内代謝に関与

リン

490mg

骨や歯を形成、核酸の成分

6.8mg

血液ヘモグロビンの成分

 

 まず、大豆の最も大きな特徴は豊富なたんぱく質を含んでいることです。大豆100g中に含まれるたんぱく質を牛肉100g中に含まれるたんぱく質と比較しても牛肉には23g程度であるのに比べて大豆には33gと非常に多く、そのために昔から大豆は「畑の肉」と呼ばれていました。しかも、そこに含まれているタンパク質も「アミノ酸スコア100」と評価されているように、人の体に必要な必須アミノ酸をバランスよく含んでいる優れたタンパク質なのです。 あとで詳しく触れますがこの「アミノ酸スコア100」と称されるたんぱく質を持っている食材はあまり多くないのです。特に植物性タンパクとしては非常に貴重な食材と言えます。                       

 

 さらに、大豆に含まれている油脂は20%を超える高含量であり、しかもその油脂を構成している脂肪酸は必須脂肪酸と言われるリノール酸を50%も含んでおり、またα−リノレン酸も7%ほど含んでいる油脂であり、体に欠乏しやすい多価不飽和脂肪酸を取り入れて体の脂肪酸バランスを整えるために大切な役割を果たしているのです。現代の食生活では魚離れが進んでいることも一つの懸念材料とされており、必須脂肪酸が欠乏しつつあるとされています。それに対して肉類が増えることによって逆に飽和脂肪酸の摂取比率が増えていくために動脈硬化や心疾患などの循環器系疾患の危険性を高めていると指摘されています。大豆油は私たちの健康を守るためにも大切な油脂なのです。

 

 炭水化物としては糖質が少なく食物繊維が多いことも大豆の特徴です。大豆に完熟する前に食べる枝豆には糖分も多く残っていますが、完熟するときにこれらの糖質は消化されてしまいます。でんぷんも未熟種子や枝豆では少量含まれていますが、成熱種子では通常ほとんど存在していません。これらは水溶性食物繊維と不溶性食物繊維などに形を変えて私たちの腸内細菌にとっての繁殖のための栄養源となるのです。

 

大豆に含まれるその他の微量成分

大豆にはこれら三大栄養素の他にも微量成分を含めると非常に多くの健康成分が含まれています。 人のホルモンに似た働きをするイソフラボンや体内で抗酸化物質として働いているビタミンC、Eなど、私たちの健康に必要ないろいろな機能性素材を提供してくれていることも分かっています。また、大豆に含まれるサポニンには界面活性の働きが知られており、昭和30年の半ば頃までは大豆の煮汁を使ってご婦人の洗髪剤として利用が盛んにおこなわれていました。

 

  ビタミン類はビタミンDを除く各種ビタミンをもっており、特にビタミンEが豊富であることも大豆の特徴です。ビタミンEについては後の項で詳しく書きますが、ここではもう一つの大豆製品に特長的なビタミンKについて触れたいと思います。ビタミンKにはK1からK5まであり、大豆にはビタミンK1が、納豆にするとその納豆菌の中にはビタミンK2が含まれています。ビタミンK2は骨粗鬆症の治療薬としても利用されているもので、納豆を食べることでこれらを摂取できるために骨粗鬆症を予防することができます。テレビなどでも紹介されているようにこれら納豆に含まれるビタミンKの働きによって、納豆を食べる習慣のある地域の人たちは食べない地域の人たちに比べて骨折の頻度が低いことが知られています。

 

これらのほかに大豆に含まれている健康機能成分としてレシチンがあります。レシチン類は数種類の混合物として含まれていますが、それぞれに体内での働きが違っています。その主な働きに脳の神経細胞の活性化が挙げられますが、レシチンについては後の項で詳しく説明することにします。次に大豆サポニンですが、その基本的な働きは抗酸化作用にあります。その働きによって体内で悪影響を及ぼす活性酸素を除去し、脂肪の酸化を防ぐとともに悪玉コレステロール(LDL)を下げる効果があり、動脈硬化の予防や血流の改善などが認められます。

 

また、大豆にはカルシウムの他、鉄、マンガン、カリウムなどのミネラル類も豊富に含んでいます。そのために妊娠している女性に大豆や豆乳を食べさせる風習がいろいろな地域に残っていました。大豆は健やかな赤ちゃんを産むためにも欠かせない食べ物のひとつとされているのです。胎児は妊娠初期の1-3ヶ月の間に骨や歯の基礎が形成されることから、その間に母親が胎児にどれだけ栄養分を供給できたかによってその後の胎児の体質に影響するとされています。

 

 もう一つ、大豆で取り上げておかなければならない成分としてトリプシンインヒビターと呼ばれる蛋白質を含んでいることです。このタンパクは人や動物の蛋白質の消化を阻害するものとして目の敵にされており、大豆を食べるときに加熱するのは、この蛋白をこわして不活性化するためでもあるのです。しかし、このやっかいもののタンパクも思いもよらない働きもしてくれていることも分かってきています。また、大豆のレクチンも面白い働きを示しています。これらについては個々の項で取り上げていきたいと思っています。

 まさに大豆はホームランバッターから小技に秀でた渋いバッターまでバランスの取れたラインナップを取り揃えている全員野球のチームにたとえることが出来そうです。

 

            掲載日 2019.7

 

 

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