加藤昇の(新)大豆の話

106.  宇宙食の期待がかかる大豆

近い将来には火星に行くことも今や夢ではなくなっています。世間には、往復に3年間もかけて、約13000万キロ離れた火星へ行って戻ってくる、そんな価値がどこにあるのかといぶかる人もいるだろう。しかしフロンティア精神に富んだ科学者たちは、ギリギリの可能性に挑戦し続けており、それを参加各国は国の威信をかけて後押ししているのです。ところが火星で生活するために克服しておかなければならない課題は並大抵ではありません。その中でも重要な課題が食糧をどう供給するかです。片道1年半もの距離にある火星へ食糧を地球から運ぶわけにはいきません。火星までの宇宙船の中では用意された宇宙食でまかなえるかもしれませんが、火星での食糧補給のためには火星で栽培できる作物が必要になってきます。宇宙ステーションの機内か火星で食糧を作ることが出来なければ、これらの計画も絵に描いた餅になってしまいます。その食糧候補の一つとして大豆が取り上げられているのです。

大豆に含まれているイソフラボンが宇宙における無重力状態で起こる骨量減少を防止できることを明らかにしています。火星の重力は地球の約3分の1であり、このような環境の中で生活すると骨量の減少が懸念されます。また大豆タンパクにも低加重の環境で筋肉量が減少するのを遅らせる働きも見つけられています。しかし大豆には、これで十分だとは思えませんが、骨を作るのに役立つ成分を多く含んでいます。それに加えて今まで触れてきたように大豆には蛋白質、脂肪、ビタミンその他の各種ミネラルを含有しているバランスの良い食品であることです。

この貴重な大豆の性質に目をつけたのが宇宙開発を進めているNASA(アメリカ航空宇宙局)です。窒素ガスを栄養に利用することの出来る根粒菌と共生する大豆は、酸素の少ない宇宙環境における食糧としてはうってつけなのです。また、納豆菌には骨粗鬆症を防ぐビタミンK2も含んでおり、重力の少ない宇宙基地での栽培作物として最適なのです。
 種子会社パイオニア社では、国際宇宙ステーションで大豆を栽培する実験を行い、見事に成功しているのです。それは、宇宙ステーションの中で97日間に亘る栽培試験を行い、種子から開花、結実をさせて地球に持ち帰ってきたのです。そして、それらの品質検査をしたところ、宇宙で栽培した大豆も地上の大豆と、生物的性質、生育率、大豆組成、収率などに差がなかったことを明らかにしています。これにより、大豆は宇宙での重力なしの環境の中で生育できることが明らかとなり、宇宙食としての可能性が高まってきています。

 

 掲載日 2019.7

 

 

 

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