加藤昇の(新)大豆の話

101. 遺伝子組み換え技術

 遺伝子組み換え技術とは、ある生物に別の生物由来の遺伝子を挿入したり、逆に元もと持っていた遺伝子の機能を抑制したりすることを可能にする技術です。この技術を利用することによって従来の品種改良技術では作ることに時間がかかっていた新しい有用な性質をもった品種を短時間で開発できるようになりました。

 

 遺伝子組み換え作物についての安全性審査については国際基準を決めており、「これまで食べてきた経験のある作物や食品を基準として遺伝子組み換え作物の安全性を評価する」という“実質的同等性”の考え方がその基本となっています。つまり、今までの大豆と比べて安全性を脅かす余計な物質がなければ、その遺伝子組み換え大豆は安全であると評価されることになっています。現在も新たな遺伝子組み換え作物が開発されていますが、すべてこの基準に照らして安全性を判断しているのです。

 

 現在の遺伝子組み換え大豆には除草剤耐性や害虫抵抗性などの機能を付加しており、農家の農薬散布の労力を軽減したり、収量を向上させることに貢献しています。しかし、2011年にはこれら除草剤耐性が見つかっています。そしてその耐性雑草は徐々に広がり、当初は限られた量の除草剤グリホサートで十分に駆逐される見込みでしたが、現在ではその見方が大きく後退しています。しかし遺伝子組み換え技術による収量の向上は大きな成果として、今も世界の大豆生産を力強く支えています。

 

 2017年時点ではアメリカは生産される大豆の94%は遺伝子組み換え大豆であり、大豆輸出大国のブラジルは97%が遺伝子組み換え大豆となっています。これらの國から大豆を輸入している我が国では、、2017年度の大豆輸入量322万トンの73%が遺伝子組み換え大豆となっています。ただ、これらの大豆はすべて食用油脂原料として使われており、大豆加工食品として店頭で購入している大豆食品には利用されていません。

 

遺伝子組み換え技術に対する不信感

 遺伝子組み換え作物は現在、大豆、トーモロコシ、ナタネ、綿花の4種類が商業的栽培作物となっています。特に大豆は1996年に最初の遺伝子組み換え作物として登場して以来、着々とその栽培面積を広げており、今や世界の遺伝子組み換え大豆の作付面積は大豆栽培全体の77%にまで拡大しており、その大部分がモンサント社の除草剤耐性大豆「ラウンドアップ・レディ」の種子を使っているものです。この大豆はモンサント社が販売している強い除草剤でも枯れないように遺伝子操作をしてあるために、それまで農家が頭を悩ましていた除草作業をこの除草剤と大豆種子を組み合わせることにより解決してくれるというものになっているのです。

 

 とは言ってもさすがに雑草は強いもので、前の項で述べたように、この除草剤が効果があったのは15年間で、2011年には「グリホサート抵抗性雑草」が大豆畑に出現しております。結局、これら抵抗性雑草を駆除するためには、改めて数種類の除草剤を散布しなければならず、本来の目的であった除草の手間が半減するということは遠ざかってしまった感があります。やはり生命が生き延びる「雑草の力」のすごさを感じずにはいられません。

 

そもそも遺伝子組み換え大豆に対する不信感がヨーロッパで起こった発端は、1988年にモンサント社などがヨーロッパで特許申請した「牛成長ホルモン(rBST)」に端を発したということが出来ます。これは牛の成長ホルモンを遺伝子組み換え技術を用いて大量に作り、動物医薬品として販売しようとしたものでした。この成長ホルモンを子牛に与えると「肉牛の成長が早まり短期間で農家は売り渡すことが出来」、さらに乳牛では「成長後の雌牛に与えると、牛乳の生産量を約10%増やすことが出来る」、と謳われたものでした。これに対して欧米の学者から反対が起こり、「牛乳に入った成長ホルモンが人のホルモンに影響を与えるのではないか」、「牛肉や牛乳に成長ホルモンが影響を与え、それが女性と子供に対して乳癌を発生させる恐れがある」などの反対意見が巻き起こりました。しかし、モンサント社は強力な議会工作を展開してアメリカ食品医薬品局(FDA)の許可を取り付けることに成功し、さらにこれらの食品に対して表示義務を不要とする、とする認可を取り付けたのでした。これに対してEUでは、米国産牛肉は成長ホルモンを使用しているとして輸入を阻止したのでした。米国はEUの輸入停止措置は国際協定違反だとして国際貿易機関(WTO)に提訴し、ここから両者の対立が始まったのです。

 

 掲載日 2019.7

 

 

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