加藤昇の(新)大豆の話

100. 大豆米と大豆いも

 大豆タンパク質には優れた健康機能があることは既に書いてきたとおりです。これらの健康機能は最近の研究によって次々と明らかにされています。大豆タンパクの健康機能が知られるようになったのは血清コレステロール調節機能の改善が最初であり、その後わが国において多角的に研究が進められ、今や大豆タンパクは機能性食品研究の中心となっています。現在では大豆タンパクには多くの健康機能が知られるようになっており、主なものとして、まず肥満にたいする予防や治療的効果があげられます。それは大豆蛋白質を分解して出来るペプチドが交感神経を活性化して褐色脂肪細胞に熱を発生させ、体に蓄積されている脂肪分を燃焼して肥満の改善に結びついているからとされています。さらに動脈硬化の予防効果も指摘されています。このようにして大豆タンパク質は特定保健用食品として認可をうけているのです。

 さらに大豆タンパクから大豆ペプチドの研究へと広がり、新たな健康機能を提案しつつあります。運動と大豆ペプチドを組み合わせることにより、脂肪の代謝を活性化して体脂肪率や内臓脂肪も減少させることや、筋肉量を増やすという働きも確認されています。最近の研究で大豆タンパクの一種であるβ-コングリシニンも摂食抑制効果を発揮して体脂肪率を引き下げることが明らかにされています。このように大豆タンパクには抗肥満効果をもつことから、U型糖尿病の予防に効果のあることも知られるようになっています。

 そもそも大豆蛋白を我々が日常的に利用するようになったのは、なによりもその栄養価の高さとともに食品への加工特性の広さにあります。大豆タンパクの加工特性として私たちが無意識のうちに利用しているのは、豆乳やスープ類に発揮されている乳化性、ハンバーグ類やドーナツ類に応用される脂肪吸収性、パン・ケーキ類や麺類に応用される保水性、ソーセージ・蒲鉾に応用されるゲル化能力、ホイップドトッピングなどに応用される起泡性、その他に粘着性、結着性、弾性、フイルム形成性など多彩な働きを持っています。 このように優れた働きを持った大豆タンパクをより広く私たちの食材として利用したいと考えることは当然でしょう。そんなことを可能とする新しい技術として、遺伝子組み替え技術を利用した事例を紹介することにしました。遺伝子組み替え技術と聞いただけで目くじらを立てる人達がいることを承知の上で、新しい潮流を身近な大豆に応用した研究として紹介します。

 まず最初に、大豆タンパクを米の中に導入して、大豆タンパクを含んだ米を作った京都大学の故内海教授の研究を紹介します。

すでにご存知の通り、わが国の米の消費量は長い間下降傾向が続いており、それを反映して米の作付面積が制限され、水田が放置され、そして水田を介した水の循環環境、生物環境などが崩れようとしています。これらはわが国が誇ってきた田園の風景であり、豊かな自然環境でもあったのです。日本農業が得意としてきた稲作に、加工特性が優れている大豆タンパクを作らせる、というのがこの研究の狙い目です。これが実現したら食品産業も新しい道が拓けてくるのではないだろうか、と夢が広がります。また大豆蛋白質には米に不足しているリジンを豊富に含んでおり、米の栄養価値をさらに高める効果も持ち合わせることになります。したがって大豆蛋白質を米の中にある程度以上のレベルで蓄積させることが出来ると、米の栄養価の改善と加工特性および健康効果の付与という一石三鳥となることになります。内海教授らは、大豆タンパク質を米に導入する遺伝子組換えを行い、これに成功すると共に、これらの品質及び安全性評価試験も農水省と共同で行っており、コメの中に発現した大豆タンパクが消化胃腸液により分解されることなど安全性も確認出来ています。この大豆コメではタンパク質含量が20%増大し、それらのほとんどは大豆グリシニンによるものと考えられています。米と大豆は日本だけでなくアジアの農業を支えている大切な農作物です。大豆を利用したアジアの稲作農業の変革が出来れば夢はさらに広がってゆくものになるでしょう。

 ジャガイモについても大豆タンパクの遺伝子導入が研究されています。ジャガイモは私たちの食材を支える主要な農産物であるとともに世界の食料でもあるのです。それだけに、ジャガイモの栄養価値・加工特性が高まることには大きな意味があります。この研究も内海教授によって達成され、未来の可能性として準備されています。

 現在の世界の大豆は、モンサントやデュポンなど一部の欧米企業が、アジアから持っていった大豆を材料とし、それらを遺伝子組み替えすることにより新しい大豆を開発し、特許として独占しており、アジアの国々はその大豆を購入するという図式になっています。わが国からもアジアの農業にふさわしい大豆の利用技術を発信していく姿勢が求められていると思うがどうであろうか。

 

 掲載日 2019.7

 

 

 

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