43 憧憬




金糸のあいだから覗く紅い聖痕を、いつも忌々しい思いで見ていた。


何故ならそれは、『選ばれし』ことの証だったから。
俺以上に『実の親を知らない』境遇さえも。
『三蔵法師』へと至る道だったとしたら、つまらない出自など分からないこともいっそ幸いだと。

そんなふうに思う自分を蔑み、思わせる三蔵を憎んだ。

望んでも望んでも与えられなかった、『何者か』であること。
それを手にしていながら、ちっともそれに執着していなくて。
目的を果たしたならこんなものには未練はないのだと、こともなげに言い放って。

失うことが出来る人間は幸せだ。
失うということは、一度は手にしたということなのだから。

それなら。
一度たりとも、ひとつたりとも手に入れたことのない人間は、何を思って生きろというのか。

殊更深く考えていたわけでもない。
考えなくても日々は過ぎていくし。
それなりにやり過ごすことも出来たのに。

三蔵が。
眩し過ぎる黄金の光が。
俺の手を無理矢理開かせ、それが空っぽなことを俺に突きつけた。

『人はそう簡単に変わらねぇ……変われねえよ』

三蔵。
お前はあんまりご立派過ぎて。
ほら。
こんなに胸が苦しい。




そして、今も苦しい。

お前が傷つくたびに、孤独(ひとり)になりたがるたびに。
三蔵であることに恍惚の欠片もないお前の、細い背中を見るたびに。
その重みに折れそうになりながら、進むことを止めないお前の。

お前を縛る紅い印(いん)を、苦い思いで見つめている。

嫌悪しながら憧れている。
小さなそれに。
いや。




……お前に。






53titleの目次に戻る
お題の番号順に読む
書かれた順番に読む
初出時のやりとりを読む