機動警察Kanon 第208話












  「動け! 動きなさいよ!!」

 みちるはグリフォンコクピット内で必死に操縦桿を握りしめて、動かそうとする。

 だがスタンスティックの電流によって内部回路が破壊されてしまったために全く動き出す気配はない。

 ただひたすらコクピット内に警報音が充満しているだけだ。

 「まだみちるは戦えるんだから!!」

 その時、頭部・左腕が完全に脱落してボロボロになったKanon一号機……けろぴーが近づいて来る様子が

 メインモニターではっきり見て取れた。

 「後、ちょっとなんだから頑張りなさいよ!!」

 だがみちるの呼びかけにグリフォンが応えることはもう無かった。









  『油断するなよ、名雪!』

 祐一の指示に名雪はこっくり頷いた。

 「油断なんかしないよ、祐一。もっとも…もう動けなさそうだけど……」

 地面から見上げる祐一と違い、全高8mもあるKanonのコクピットから見下ろしてる名雪には今のグリフォンが

 もはや何の驚異でもないのははっきり見て取れたのだ。

 それゆえに慎重ではあるが、全くおそれることなくグリフォンに近寄り、そしてコクピットを強制的に開放

 しようとグリフォンの側に跪いた。









  「あははは〜、ただいま帰りましたよ〜♪」

 「…戻った」

 現場を脱出した佐祐理さんと舞がさんぐりあ号に戻るとすでにそこには企画七課のメンバーが戻っていた。

 「課長、無事でしたか」

 「お帰りなさい、課長」

 だがその顔色はみな一様に青い……特に医療担当の遠野美凪の顔は青いを通り越して真っ白だ。

 「あははは〜、どうしたんです?」

 佐祐理さんの呼びかけに美凪は涙をこらえながら口を開いた。

 「みちるが…みちるが……」

 その様子に佐祐理さんはため息をつくと、開発スタッフの一人に尋ねた。

 「グリフォン、負けてしまったんですか?」

 すると開発スタッフは無言で頷いた。

 「まさか二度も同じ相手に負けてしまうとは思いませんでしたね〜」

 その言葉に美凪はきっと顔を上げると佐祐理さんにお願いした。

 「…みちるを一人にはしておけないから……」

 「出頭するつもりですか?」

 佐祐理さんの言葉に頷く美凪。

 だが佐祐理さんとしてはそれはどうしても避けなければならない。

 必死に頭をフル回転させ、そして良いアイデアを思いついた佐祐理さんは美凪に提案した。

 「美凪さん、警察に出頭するともう二度とみちるとは会えなくなってしまいますよ。

 それより佐祐理に良い考えがあります〜♪」

 美凪の耳元に口を近づけ、他の人には聞こえないようにささやく佐祐理さん。

 そして佐祐理さんの言葉を聞いた美凪はぱっと表情を明るくするとポケットから何かを取り出した。

 「お米券進呈」

 「…あははは〜♪ 佐祐理はこの後海外に高飛びするのでお米券は遠慮しておきますね〜♪」

 「…残念」

 ちょっとしょぼんとする美凪はちょっと置いておいて、佐祐理さんは他のメンバーに尋ねた。

 「みなさん、この後はどうします?」

 佐祐理さんの言葉に顔を見合わせる面々。

 だがここまでつきあっていた以上、今更そう易々と堅気に戻れるはずもないのだ。

 「どこまでも課長について行きますよ」

 「課長と一緒にいると退屈とは無縁ですからね」

 「死ぬまでお供しますよ」

 「あははは〜、みなさん佐祐理と一緒で頭が弱いみたいですね〜♪

 でも佐祐理はうれしいです。それじゃあさんぐりあ号出港準備急ぎましょう〜♪」

 「「「「「お〜っ!!」」」」

 一斉に船内へと走り出す一同。

 その姿を笑顔で見守っていた佐祐理さんに舞が話しかけてきた。

 「佐祐理、あれを残したままというのはまずくない?」

 「あれと言いますと……グリフォンのことですか? それなら大丈夫ですよ♪」

 そう言うと佐祐理さんはポケットから何かを取り出す。

 それはホテルで舞から取り上げたはずの爆弾の起爆装置であった。

 「それは使えないって佐祐理が……」

 「あははは〜、嘘ですよ〜♪」

 佐祐理さんは朗らかに笑うと安全装置をあっさりはずし、起爆スイッチを押し込んだ。







  グキューン


  「わっ!」

 動きを止めていたはずのグリフォンが突然動いたことに名雪はびくりした。

 あわててグリフォンから離れようとする。

 だが離れるまもなく


  バァーン!!


  轟音とともにグリフォンから何かが吹っ飛んだ!!

  「祐一!?」

 『脱出しやがった!!』

 高度100m以上まで飛び上がり、そしてパラシュートが出てくる以上それ以外に考えられない。

 そして何故この期に及んで脱出するのかと疑問に思った瞬間、祐一はグリフォンに向かって走り出した。

 「祐一、何するの!?」

 名雪の疑問に応えずグリフォンのコクピット内をのぞき込む祐一。

 そして祐一は気がついた。

 そこには本来レイバーに積まれるはずのない、短い時を刻むものの存在を……。

 『爆弾だ!! 残り時間50秒!!』

 「爆弾!?」

 祐一の言葉に名雪は全身に鳥肌が立つような感覚を覚えた。

 爆弾の威力はわからないが、ホテルの目の前で爆発したら……とんでも無い大惨事になってしまう。

 『名雪、やれるか!?』

 「やるよ!!」

 考えている間などなかった。

 残り50秒……そんなわずかな時間では解体も出来ない。

 出来るとすれば爆弾をホテルやその他地上に影響の出ない海中に投棄するだけだ。

 残ったけろぴーの右腕を使ってもはや動かないグリフォンを引きずりながら海へと近づいていく。

 『残り30秒!』

 「…30秒あれば200mだってゆとりなんだよ!!」

 『残り20秒!! 名雪、もう間に合わないから待避しろ!!』

 「今更逃げられるわけないよ!! けろぴー、あとちょっとだから頑張って!!」

 名雪はそう叫ぶと操縦桿・フットレバーを思いっきり踏み込んだ。

 けろぴーの体が沈み込み、そして反発するように一気に跳ね上がるとグリフォンの体は宙に浮いた。

 「行け〜!!」

 




  ドガァアアアアーンンンン





  海中から巨大な水柱が立ち上り、地上に大粒な雨を降らせる。

 「名雪!?」

 「名雪さん!?」

 「名雪、大丈夫!?」

 「うぐぅ!?」

 思わず叫ぶ祐一・栞・真琴・あゆの四人。

 だがすぐには返事が返ってきた。

 『うぅ〜、もうけろぴー動けないよ〜』

 あわてて堤防の上に駆け上がった四人の眼下には、度重なる衝撃に耐えかね、もはや自力では動けない

 けろぴーが横たわっていた。





  「さて、レイバー二台をどうやって回収したら良いんでしょうね?」

 グリフォンを無事取り押さえた今、新たな現実が待っている。

 今やまともに稼働するレイバーが一台も無くなってしまった特車二課。

 今後のことを考えると課長ならずとも頭が痛くなってしまう秋子さんなのであった。






あとがき
次回で最終回です。

ということで今回はこれくらいでおしまいです。



2004.09.06
 

感想のメールはこちらから


「機動警察Kanon」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る   TOPへ