機動警察Kanon 第207話






  「きみのやっていることは犯罪なんだよ!! 遊びやゲームじゃ済まされないんだよ!!」

 怒りに我を忘れた名雪にはもはや周りの姿などまるで見えていなかった。

 周囲の被害、そしてけろぴーの被害を完全に忘れてただどつきにかかる。

 この洗練されたとは言い難い名雪の攻撃にみちるの乗るグリフォンは押されていた。

 「そんなの関係ないわよ!!」

 だが次々とけろぴーの拳が叩き付けられ、後ろへ後ろへと後退していく。

 「バカァ!!」

 ものの見事にけろぴーから繰り出されたエルボーがグリフォンを捉え、衝撃で機体がふるえる。

 そしてついにみちるも切れた。

 「調子に乗るのもそこまでなんだから!!」

 けろぴー同様あやとりだって、そしておそらくは織物だってできるであろう繊細な機能を持つ

 マニュピュレーターをぎゅっと固く結ぶとけろぴーを殴りつける。

 「絶対に逮捕するよ!!」

 「出来るもんならやってみなさいよ!!」

 「大人の言うことは素直に聞くんだよ!!」

 だがそう言われて大人しくなるような子供はそもそもこんなことはしない。

 そしてその場合に帰ってくる返事はこれまた名雪を激昂させるだけのものであった。

 「年増だからって威張るんじゃないわよ!!」

 「…年増って言ったね……」

 「そうよ、年増年増年増〜!!」

 怖い者知らずのみちるは名雪に対して「年増」と連呼する。

 だがこれがある一定の年齢を超えた女性に言ってはならない言葉ということをみちるはまだ知らなかった。

 「……………」

 「何よ、言葉も出ないほど図星!?」

 「……………」

 「ちょっとみちるは無視!?」

 だが名雪はみちるを無視していたわけではなかった。

 ただひたすら怒り、激昂のあまり思考が停止していたのだ。

 「年増言うな〜!!」

 それはまるで別人のような動きであった。

 今までまるで生きた人間のごとく軽やかに動いていたけろぴー。

 それがまるで鬼神でも乗り移ったかのように恐るべき早さで攻撃に移ったのだ。

 「それでこそやりがいあるのよ!!」

 そして怒り狂った名雪を嬉々としてして迎え撃つみちる。

 かくして周囲の損害はどんどん広がっていく。

 まるで城門での戦いの時のように二機のレイバーはただひたすら殴り合う状態へと突入したのであった。







  「名雪さん、押しているね」

 あゆの言葉に祐一は憮然としたように呟いた。

 「怒りに我を忘れているだけだ、何だあの様は」

 指揮者としては今の名雪のけろぴーの操縦は納得いかないのであろう。

 だが女性陣にとっては名雪の怒りは心底から同意出来る代物であったのだ。

 「名雪が怒るのも無理無いわよ」

 「ですよね。いくら子供だからといって言って良いことと悪いことがあります」

 「だからってけろぴーも、周りの被害も馬鹿にならんぞ」

 祐一の言葉に秋子さんはうなずいた。

 「確かに祐一さんの言うとおりです。

 一応警察も予算で動いていますからあまり壊されてしまっても困ってしまいますからね」

 そして無線機のマイクを取った。

 「雪見ちゃん、お願いできますか?」

 『出来なくはないかもしれませんけど……』

 『うかつに手を出すと邪魔しちゃいそうだよね』

 深山雪見巡査部長と川名みさき巡査部長の懸念はもっともであった。

 頭に血が上っている二人の戦いにうかつに介入したら同士討ちに遭ってしまうかもしれない。

 「仕方がないですね、機会が出来たら支援お願いします」

 『了解です』

 『了解だよ』

 「まあお聞きの通りです」

 「仕方がないですね」

 指揮する対象が暴走してしまっているために、することがない祐一なのであった。







  「あははは〜、お待たせしました〜♪」

 車に乗り込んできた佐祐理の第一声に舞はぼそっっと呟いた。

 「思っていたよりも遅かった」

 「あははは〜、それはですね」

 佐祐理さんは手錠のついたままの右手を挙げながら笑った。

 「結局、美汐さんに会っちゃったんですよ♪」

 「…大丈夫だった?」

 舞の言葉に佐祐理さんはポケットからスタンガンを取り出しながら笑った。

 「あははは〜、危なかったですけどこれのお世話になりましたからね♪」

 「佐祐理、それは酷いと思う」

 「こんど美汐さんに会ったら謝らないといけないですね〜♪」

 「…謝ってもきっと許してもらえないと思う」

 「あははは〜、でしたらさっさと逃げないとまずいですね〜♪」

 「了解」

 そして二人はホテルを後にしたのであった。







  「やっぱりお姉ちゃんとの一戦が一番おもしろいよ」

 みちるの言葉に、だが名雪は頷いたりはしなかった。

 「簡単に勝てると思っていたかもしれないけどね、わたしは負けたりなんかしないよ!」

 「口だけならなんとでも言えるよ!」

 「うぅ〜、許さないんだよ〜!!」

 グリフォンを捕まえようと必死に迫るけろぴーだったが、性能差は如何ともしようがなかった。

 素早くよけるとけろぴーに一撃、また一撃と鋭い攻撃を加えてくるグリフォン。

 そのため、致命傷こそ負っていないものおけろぴーは今や満身創痍の状態であった。

 さすがにこの状況では黙って静観している場合ではない。

 そう判断した雪見はみさきに指示した。

 「みさき、あの黒いやつの足を今度こそ止めるのよ!!」

 「わかったよ!!」

 グリフォンの背後にすかさず回り込もうとする三号機。

 だがグリフォンを操るみちるはその動きを完全に読んでいた。

 「甘い、見え見えなんだから!!」

 けろぴーと三号機で挟み撃ちしようとしたその攻撃をグリフォンはあっさり避けた。
 
 こうなると挟み撃ちしようとしていた二機のけろぴーは慣性の力に従いぶつかるだけ……。

 だがともに腕利きのレイバー乗りな名雪とみさきの二人は常人には到底出来ない絶妙なバランスで

 衝突を回避する。

 だがそれこそがみちるの狙い通りであった。

 「もうお姉ちゃんとのゲームを邪魔しないで!!」

 かろうじて体勢を立て直したばかりの三号機に襲いかかるグリフォン。

 そしてそれはもはや三号機では到底回避など出来ようはずがなかった。
 

 ドガシャン!!


 三号機はねじれるように吹っ飛び、そして背中から勢いよくホテルの壁へと突っ込んだ。



  「みさき、大丈夫!?」

 すかさず飛ぶ雪見の安否確認に、みさきは涙混じりの声で応答した。

 「……ううっ、痛いよ。眼がちかちかする」

 「あんたはどうやら大丈夫そうね。三号機は?」

 あっさり言い放った雪見にみさきは抗議の声を上げた。

 「ひどいよ、雪ちゃん……」

 「いいからさっさと被害報告しなさいよ」

 「うぅ……」

 うなったみさきは不満に思いつつ、機体チェックし、そして叫んだ。

 「大変だよ、雪ちゃん。RAMユニットが壊れちゃったよ!」

 「なんですって!!」






  『というわけで三号機もリタイアだ、がんばれよ』

 「がんばれよ、っと言われても〜」

 祐一の言葉に名雪は思わず弱音を吐いた。

 実際のところさっきからほとんど防戦一方で、とても有効な攻撃を加えられるような状態ではないのだ。

 そして邪魔者をかたづけたみちるは意気揚々だった。

 「邪魔者は片付けたし、これで終わりよ!!」

 そう叫ぶやいなやグリフォンは一気にけろぴーに突っ込んできた。

 「くっ!」

 それはもはや避けようがない、深い踏み込みだった。

 グリフォンの右手はけろぴーの胴体を、そしてその勢いを殺さずにけろぴーの胴体を粉砕した!

 だがそれは同時にチャンスでもあった。

 懐に飛び込んできたグリフォンをけろぴーはがっちり捕らえると持てる力を振り切って持ち上げた。

 「わたしのけろぴーは、わたしが毎日毎日こつこつと鍛え上げてきたんだよ。

 遊び気分で乗るようなレイバーになんか絶対に負けないんだから!!」

 そしてけろぴーはグリフォンをバックドロップ気味に背中越しに大地に叩き付けた。


  ドガシャーン!!


  無数の破片を飛び散らせながらグリフォンは吹っ飛ぶ。




  「やったか!?」

 「まだだよ、祐一くん!!」

 「ここで仕留めるのよ、名雪!!」

 「名雪さん、あと一息です!!」



  実際のところグリフォンはやはり高性能であった。

 普通のレイバーであればもはやまともい動くことすらままならないような強力な攻撃を受けつつ

 まだ動くことが出来たのだ。

 ギィギィ異音を立てながらもけろぴーから離れて体勢を立て直そうとする。

 だがここで体勢を整えられては頭部を破棄されセンサー系統が使用できない状態のけろぴーには勝ち目がない。

 そう思った名雪はすかさず股間部に取り付けられているワイヤーを引き抜くと、グリフォンに向かって

 投擲、そのワイヤーはけろぴーの器用さを裏付けするかのようにグリフォンの腕に絡みついた。

 「逃がさないよ!!」

 「みちるは逃げたりなんかしないんだから!!」

 距離を置いて体勢を立て直すのをあきらめたグリフォンはけろぴーに迫る。

 とそのときけろぴーの右腕がシールド裏に装着されたスタンスティックに伸びた。

 「とりゃああー!!」

 「負けないよ!!」

 二機のレイバーはまるでチャンバラで剣豪が斬り合うときのように交錯する!!





  「笑った方が負けよ!!」

 「レイバーが笑うか!!」

 「うぐぅ、何言っているのかわからないよ」

 「今度、ドラマとか映画を見せてあげますね」



  ズガァーン



  けろぴーの左腕が引力に引かれて大地に落ち、そして勢いよくけろぴーとすれ違ったグリフォンの右脇腹

 にはけろぴーの右腕にあったはずのスタンスティックが深々と突き刺さっていたのだ。

 「そんな……みちるが……みちるのグリフォンが負けるの?」

 スタンスティックによって致命傷を負ったグリフォンはもはやただの鉄のかたまりでしかなかった。

 自ら作り出した運動エネルギーをもはや支えられなくなったグリフォンはそのまま勢いよく大地に崩れ落ち、

 そしてもう二度と立ち上がることは無くなったのであった。









あとがき
グリフォンとの対決もこれにて終わり。

あとちょっとで三年以上続いてきたこの「機動警察kANON」もおしまいです。

とはいえハングアップにより再度書き直ししたりして結構難産でした。

予定では残り二話……なるべく早く完結させたいですね。



2004/9/5

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