機動警察Kanon 第206話












  「みさき、あのグリフォンとやらの足を止めるのよ!!」

 「了解だよ、雪ちゃん!」

 雪見の指示にグリフォンの足を止めようと進路を遮るKanon三号機。

 だが慣れないみさきが操縦するKanon三号機、まして片腕を失っているのだ。

 あっさりはじき飛ばされると大地に吹っ飛ばされた。





 「みさきさん!!」

 その様子に名雪は思わず叫ぶと、フットレバーを踏み込んだ。

 「いい加減にするんだよ!!」

 まるで真琴が乗り移ったかのように猪突猛進するけろぴー。

 だが素早いグリフォンに当然そんな攻撃が通用するはずもなかった。

 突っ込んでくるけろぴーの動きを生かし、柔道の肩車風に担ぎ上げるとけろぴーをぶん投げた。

 そのままけろぴーはホテルの池にとダイブ、池の水が周囲にまき散らされる。

 そしてグリフォンはその瞬発力を生かして、あっさりホテルの壁を乗り越えると池の畔に立った。

 


  「まだだよ、お姉ちゃん」



  「うぅ〜、許さないんだよ〜!!」




  名雪はもう何も考えずにただひたすらグリフォンに向かって突進する。

 その様子に指揮者の祐一は思わず叫んだ。

 「いかん、怒りに我を忘れている!!」

 「目は赤くないですけどね」

 「青き衣も金色の野にも降り立っていないよ」

 「それはもっと後よ、あゆあゆ!」

 「それは別の話だ!!」

 栞・あゆ・真琴に思わず突っ込む祐一に、秋子さんは笑った。

 「あら、良いじゃありませんか。私も好きですよ」

 「いやですからそう言う問題ではなくて……」

 困り果てる祐一に秋子さんはほほえんだ。

 「大丈夫、ああなった名雪は結構やるんですから。親馬鹿の贔屓目無しでですよ」

 「そうだとしても周りの被害も馬鹿になりませんよ!!」

 そう言ってけろぴーとグリフォンの格闘戦現場を祐一は指さした。

 そこは木々は倒れ、庭石は吹っ飛び、芝生はえぐれ、コンクリートの破片が無数に散らばっていた。

 それだけではない。

 ほとんど外傷がないグリフォンに反して、けろぴーの外観は傷だらけで、どちらが有理かは一目瞭然な状態だ。

 「…まあ何とかなるでしょう」

 「何とかなるってそんな無責任な……」

 唖然とする祐一であった。







  「あはは〜、外部スピーカーを付けたのは失敗でしたね〜♪」

 佐祐理さんのその言葉に舞はこくっとうなずいた。

 「みんな反対していたのに佐祐理が『Last regrets』や『風の辿り着く場所』を奏でつつ歩かせたいから

 と言って無理に載せた」

 「…しまった」

 佐祐理さんの珍しい一言に思わず舞は振り向いた。

 「佐祐理、どうしたの?」

 「あははは〜、まだそれやるの忘れてました♪」

 この期に及んでもそんな台詞を吐ける佐祐理さんに舞はため息をつくとエレベーターのボタンを押した。

 「先に降りて車を用意してくるから佐祐理は目立たないように」

 「あははは〜、了解です♪」

 佐祐理さんは舞の言葉にうなずくと、人の気配がしない廊下を歩き続け、そして一室へと足を踏み入れた。





  そこは電気もついていない真っ暗な部屋……よく目をこらすと掃除用器具やらゴミがおいてあった。

 どうやらホテルの準備室らしい。

 その暗闇をまっすぐ奥に進んでいく佐祐理さん、と目の前にエレベーターが姿を現した。

 「舞を待たせちゃいけませんよね♪」

 下へ降りるボタンを押そうと手を伸ばす佐祐理さん。

 と突然、背後から昔なじみな声が聞こえてきた。

 「お久しぶりですね、リリー=田。それとも倉田佐祐理さんとおっしゃった方が良いですか」

 「あははは〜、お久しぶりですね美汐さん」

 直接言葉を交わすのは数年ぶりになる二人であった。







  「あなたは相変わらずですね、いつも事態を引っかき回すだけ引っかき回して後を去る」

 美汐の言葉に佐祐理さんは苦笑した。

 「あははは〜、なんだか酷い言われようです♪」

 佐祐理さんのその一言に美汐は不愉快そうに眉をひそめた。

 「人が真剣に話しているのに茶化さないでください」

 「茶化しているつもりはないんですけどね……」

 困ったような佐祐理さん。

 だが佐祐理さんを無視して美汐は続けた。

 「なぜ再び私の前に姿を現したのです? あの冬のことは忘れたつもりだったのに……」

 「…ただの偶然ですよ。佐祐理だって美汐さんと再び再会するとは思っていませんでしたからね。

 しかもまさかあのような場所でなんて……。

 そういえばあの時はごめんなさい、おけがは大丈夫でした?」

 「大丈夫でなかったらあなたの前には立っていません」

 美汐はそっと脇腹を押さえながら答えると一歩前に進んだ。

 「お話はこれくらいにしましょう。あなたを黒いレイバー事件の重要参考人として緊急逮捕します」

 そう言うと美汐は銀色に光る手錠を取り出した。

 「あははは〜、こうなっては仕方がないですね♪」

 佐祐理さんは笑うと両手を前に突き出した。

 「…………」

 美汐は無言で佐祐理さんの片手に手錠を当て、力を入れて押し込む。


 ガシャン


 薄暗い部屋の中に鈍い金属音が鳴り響いた。

 そしてもう片方の手にも手錠をかけようとしたその時、佐祐理さんが突然美汐に抱きついた。

 「な、何を!?」

 「あははは〜、美汐さんの久しぶりの身体ですね〜♪」

 「ご、誤解を招くような言い方をしないでください!!」

 暴れる美汐。

 だが警察官としてかなりの格闘技に精通しているはずの美汐なのに、佐祐理さんの上での中から抜け出す

 ことがどうしても出来ない。

 「は、離してください!!」

 叫んだ美汐の耳元に佐祐理さんはささやいた。

 「何であなたは警察官だったんですか?」

 「えっ!?」」

 佐祐理さんの言葉に美汐は思わず動揺した。

 「そうでなければ良い関係でいられたでしょうにね……」

 「…………」

 何も言えなくなってしまう美汐……と急にその首筋にショックが走った。

 「な、何を……」

 思わず崩れ落ちる美汐は、佐祐理さんの手に握られているものを見てしまった。

 「ス、スタンガン……」

 「あははは〜、ごめんなさいね美汐さん」

 さっきまでの神妙な態度は何処へ行ったのやら?

 それはもういつもの佐祐理さんと何ら変わりなかった。

 「佐祐理はまだやりたいことがいっぱいありまして、こんなところで捕まるわけにはいかないんですよ〜♪」

 そう言うと背後に開いたエレベーターの中に足を進めた。

 「もう二度とあなたの前には姿を見せませんから、あの冬の出来事は野良犬にかまれたことだとでも思って

 忘れちゃってくださいね〜♪」

 「か、勝手なことを……」

 しびれる身体で何とか反論する美汐。

 だがその状態では佐祐理さんを止めることは出来ず、美汐の目の前でエレベーターの扉が閉まった。

 「あなたを私は絶対に許さない……」

 自分の無力さに美汐はただそう呟くことしか出来なかった。








あとがき
 結局、佐祐理さんと美汐の関係はこの期に及んでも決めかね、ぼかして描写することに。

 また香港返還な1997年は無関係な年代のため、ただ香港と言うことにした結果、細かい描写までも

 流用が聞かない羽目に……。

 やっぱりノリと雰囲気だけで突っ走ると後々設定が破綻しちゃうな。

 今後の参考にさせていただきます。



2004.08.22

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