機動警察Kanon 第204話













  コツコツコツ

 軽い足跡を立てながら美汐と、そしてホテルの従業員はある部屋の前に立った。

 そしてホテルの従業員は無言でドアをノックしようとし、そしてその手が止まった。

 「…一切の責任は私が負います。この部屋には黒いレイバー事件の重要参考人がいるのです」

 美汐はそう言うとホテルの従業員の顔をじっと見、ぺこっとお辞儀した。

 見汐の真剣なまなざしに気圧されたホテルの従業員はコンコンコンとドアをノックした。

 当然のことだがすぐにはドアは開かない。

 「もうお休みなのでは……?」

 「表であれほどの騒ぎが起こっているのにですか?」

 30秒……1分……それくらいが経過した頃だろうか。

 『707』と書かれたプレートの付いたドアがすーっと開いた。

 一瞬緊張し、手に腰をやる美汐であったが丸腰なのにすぐに気が付き、いつでも飛びつけるよう身構える。

 だがドアの向こう側から姿を現した顔を見て美汐は表情をこわばらせた。

 「一体どういう事なんだ、これは」

 詰め寄る男に困ったホテルの従業員は、美汐に助けを求めた。

 「そ、それはそのこちらの警察の方が……」

 だが美汐はそんなホテルの従業員を無視すると、707号室へと足を踏み入れると部屋の中を一瞥した。

 しかしそこには美汐の追い求めている人物の姿は全くなかった。

 「申し訳ございません!!」









  ピシッピシッ

 グリフォンを取り押さえているKanon三号機の腕がきしむ。

 と間もなく「バキン!!」という鈍い音ともに腕の装甲が弾けた。

 メインモニターに「Warning」の赤い警告メッセージが表示される。

 「わっ、壊れちゃったよ」

 『みさき、本気で限界よ。一時黒いのから離れてモーターを休ませないと焼き付くわよ』

 「うぅ〜、そんなこと言われても……」

 あっさり離れることが出来るなら苦労はしない。

 なんせ今黒いレイバーの手には37mmリボルバーカノンが握られているだから。

 「浩平くんたちの援護はどう?」

 『思いっきり警戒されているから難しいわね』

 「そうなんども引っかかってはくれないよね」

 『まあ無理でしょうね』

 「なら仕掛けてみるよ」

 みさきはそう言うとKanon三号機の操縦桿をぐっと押し込んだ。

 その動きにあわせてkanon三号機はグリフォンの懐に潜り込むと、ひねりこみ37mmリボルバーカノンを

 グリフォンの手から奪い取った。

 『みさき、ナイスよ!!』

 「見事でしょ〜♪」

 37mmリボルバーカノンの照準を合わせながらグリフォンから距離を取ろうとするみさき。

 だがそれはグリフォンには何の意味もないことであった。

 「逃がさないんだから!!」

 グリフォンの手刀がKanon三号機を襲う!!

 「そうはいかないよ!!」

 何とか回避しようとするみさき。

 だがその鋭い一撃を完全に避けきることは出来なかった。

 グリフォンの攻撃はKanon三号機の左腕を貫き、そして爆破とともに左腕は脱落した。

 「くっ、まだ左腕がやられただけだよ!!」

 残る右腕で37mmリボルバーカノンの照準をあわせようとするみさき。

 だが片輪になってしまったKanon三号機にはもはやその性能を生かし切ることは出来なかった。

 あっという間にグリフォンに懐に飛び込まれると為す術もなく、吹き飛ばされた。

 「あいたたた…」

 衝撃にうめき、だがすぐに反撃しようとしてその手に37mmリボルバーカノンがないことに気が付いた

 「あれ? どこへ行っちゃったのかな?」

 『みさき、落としたわよ。あんたから2時の方向!』

 「あっ、あったよ」

 だがその前に黒いレイバー……グリフォンが立ちはだかったのだ。

 これでは37mmリボルバーカノンを手にするのはほぼ絶望的だ。

 「どうしよう、雪ちゃん?」

 『そうね……って三号機の右足に銃は収納されているんじゃ……』

 「あっ、そういえばそうだったね。すっかり忘れていたよ」

 奪い合っていた37mmリボルバーカノンは一号機が落としたもの。

 今回の出撃にあたって三号機も37mmリボルバーカノンを装備して出撃し、それは右足に収納されたまま。

 それを使えば形勢逆転出来るはず……だったが

 「うぅ〜、銃を抜いて狙いを定めるまでにやられちゃうよ〜」

 『佃島で柚木さんがやられているものね……』

 「どうしよう?」

 『……何かある、みさき?』

 「雪ちゃ〜ん!!」

 もはや雪見にも打開策が出てこない。

 そうこうしているうちにグリフォンが三号機にとどめを刺そうと構えた。

 「くっ!!」

 思わず目をつぶり、衝撃に耐えようとするみさき。

 だが10秒経っても衝撃が加わることがない。

 「どうしたんだろう?」

 目を開けモニターを見たみさきの目に飛び込んできたのは全力で駆け寄ってくるKanon一号機の姿であった。






  「今度こそ決着をつけるよ!!」

 機体には多少の損傷はあるものの動作に不具合があるほどではない。

 そしてバッテリーはフル充電されているのだからもはや電池切れを心配する必要もないのだ。

 やる気マンマンな名雪はグリフォンと真っ正面から対峙する。

 とそのとき、海岸の向こう側で花火が打ち上げられ始める。

 『あけましておめでとう、名雪』

 無線機のマイクから聞こえてきた祐一の言葉に名雪は苦笑した。

 「あけましておめでとう、祐一。ところでこんな場面でその台詞は変じゃないかな?」

 『それを言うなって。それよりさっさと目の前のそいつを取り押さえて正月はゆっくり休もうぜ』

 「わたしは寝正月が良いな」

 『21世紀最初から寝正月、何となく平和そうだな』

 名雪と祐一の緊迫感の無い会話に、深山巡査部長が苦笑しながら会話に加わった。

 『目の前にまだ黒いレイバーが健在なのにずいぶん余裕ね』

 『無駄に緊張しても失敗するだけだろうからな』

 『それもそうかもね。ほら、みさき。さっさと起きて二機がかりで仕留めるわよ』

 『わかったよ、雪ちゃん』

 そして立ち上がるkanon三号機。

 とその時、突然黒いレイバーから大きな声が鳴り響いた。

 「なんでみんなしてみちるとグリフォンの邪魔するのよ!! 

  これはみちるとお姉ちゃんのゲームなんだから手出ししないでよ!!」

 その聞き覚えのある声と名前に名雪は思わず愕然とした。

 「そ、そんな……」






  だがそれは事情を知らないみさきにとっては絶好のチャンスであった。

 素早く37mmリボルバーカノンを抜くとグリフォンに照準を合わせる。

 「これで終わりだよ!!」

 「待って!!」

 だが名雪はみさきのその行動を阻止した。

 37mmリボルバーカノンをつかみ、銃口を跳ね上げる、と同時に銃声が天に轟いた。

 そしてその隙を逃すまじとグリフォンが二機のkanonを吹き飛ばす。

 『な、なゆちゃん!!』

 『水瀬巡査、どういうつもり!?』

 「祐一、説明して!!」

 二人の巡査部長の言葉に名雪は叫ぶと、速やかに起きあがりグリフォンと向かい合った。









  「佐祐理、みちるは危険と口が酸っぱくなるほど言った……」

 ホテルの一室から観戦していた舞は佐祐理さんに換言した。

 だが佐祐理さんは相変わらず笑顔のまま応えた。

 「危険に見合うだけの戦果は上げてくれましたよ、みちるは♪」

 「それは今までの話……」

 舞はそう言うとスーツの内ポケットから携帯電話を一回り小さくした何かを取り出す。

 だが佐祐理さんはその何かを見ても表情一つ変えなかった。

 「あははは〜、舞♪ 言っておきますけどその起爆装置は使えませんよ〜♪」

 「えっ!?」

 佐祐理さんの言葉に舞のポーカーフェイスは一瞬崩れた。

 「水口さんから電話がありましてね、全部話は聞いちゃいました♪」

 「…全部?」

 「はい、全部です♪ 佐祐理に隠し事なんて感心できませんね〜♪」

 そう言ってはいとばかり手を出す佐祐理さん。

 その手にグリフォンに仕掛けたはずの爆弾の起爆装置を渡しながら舞はつぶやいた。

 「…佐祐理に隠し事をしてドキドキしていた私って一体……」

 「あははは〜、詰めが甘いですよ、舞〜♪ 

 それにですね、これを使うのはみんなにみちるの声を聞かれる前でないと意味無いですよ〜♪」

 「それはそうだけど……」



 プルルルルル プルルルル




  突然ホテルの電話が鳴り出したため、舞が受話器を取った。

 「はい」

 『707の明石です。来ました』

 「わかった。客に紛れて撤退して」

 舞は簡潔に指示を出すと受話器を置き、佐祐理さんに声をかけた。

 「保険が有効に働いたみたい」

 「あははは〜、美汐さんが来ちゃったんですか。日本の警察は侮れませんね〜♪」

 ちょっとだけ表情を硬くした佐祐理さんは無線機を取り出すとみちるに指示した。

 「あははは〜。みちる、長居出来ない理由が出来たのでさっさと片づけちゃってくださいね〜♪」

 だが今のみちるには佐祐理さんの一言ですら神経を逆撫でするものでしかなかった。





  「佐祐理までみちるの邪魔するの!?」

 『あははは〜? なんで佐祐理がみちるの邪魔をするんですか?』

 「みちるは勝つまで絶対にやめないんだから!!」

 みちるは決意を新たにするのであった。







あとがき
今年の夏は本当に暑いですね。

去年の冷夏が懐かしくなってしまいますね。



2004/07/25


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