機動警察Kanon 第203話












  バッテリー切れで動けないけろぴーを載せて一号キャリはひたすら逃げる。

 そしてその後を追うグリフォン。

 その距離を広げることは出来ず、むしろ徐々に狭まってくる状態だ。

 『名雪さん、脱出してください!!』

 すぐ背後まで迫ったグリフォンに栞は叫ぶ。

 だが名雪は首を横に振った。

 「そんなこと出来ないよ!!」

 『動けないけろぴーにとどまるのは危険ですよ!!』

 「栞ちゃんを置いて逃げるわけにはいかないよ!!」

 『名雪さんがけろぴーのコクピット内にいる限り私が先逃げるわけにはいかないんですよ!!』

 「し、栞ちゃん……」

 栞の本音に思わず絶句する名雪。

 『私を助けると言うことで速く脱出してください〜!!』

 「うぅ〜、どうしたらいいんだよ〜!?」

 迫りくるグリフォンと栞の言葉にパニック状態の名雪は思わず叫ぶ。

 すると

 『騎兵隊の登場だよ!!』

 と無線機から声が聞こえてきた。

 「な、何!?」

 『援軍です、名雪さん!!』

 それは道にの脇から飛び出てきた三号キャリアと、そしてKanon三号機の姿であった。






  「この間はやられちゃったけど今度はそうは簡単にいかないからね」

 第一小隊の川名みさき巡査部長はけろぴーとグリフォンの間に割ってはいるとそう叫んだ。

 『みさき、無茶はするんじゃないわよ!!』

 指揮者である深山雪見巡査部長の言葉にみさきは頷いた。

 「まかせておいてよ、雪ちゃん。一号機の電池交換がすむまでの時間稼ぎだけだからね、無茶はしないよ」

 『しっかりしなさいよ!』

 『先輩、及ばずながら援護するぜ!!』

 『佃島の仇は舞浜で取る!!』

 『精一杯嫌がらせしてあげよう〜♪」

 「みんな無茶しないでね。それじゃあ第一小隊、第二小隊の援護にはいるよ」

 『『『お〜っ!!』』』






  「これは一体……」

 突然現れた三号機に第一小隊の面々の登場に呆気にとられる名雪。

 すると一号キャリアのすぐそばに止まったメガ・クルーザーから整備班班長美坂香里が降り立った。

 「お待たせ名雪、電池持ってきたわよ」

 「香里……」

 思わず感動する名雪だが、香里はそんな名雪ににっこり笑うと叫んだ。

 「一班は速やかに電池回収!! 二班は新品の電池を降ろしなさい!! 

 一秒だって時間は無駄に出来ないわ!! クズクズしていると舞浜大橋の大穴から叩き落とすわよ!!」

 もうすぐ年も明けようと言う冬の夜に海に叩き落とされてはただでは済まない。

 香里の言葉に発憤して急いで電池の換装にかかる整備員たち。

 そこへ一号キャリから栞が降りてきた。

 「お姉ちゃん……」

 「栞、待たせたわね」

 そう言ってほほえむ香里の顔を見た栞は思わず涙ぐむと、香里の胸に飛び込んだ。

 「お姉ちゃ〜ん!!」

 「栞〜!!」

 がっちりと抱き合う姉妹二人。

 ちょっと感動的な画面と思いきやそうは問屋が卸さなかった。

 「い、痛いです〜!!」

 「痛いじゃないわよ、痛いじゃ!! 何よ、さっきのあんたの台詞は!!」

 「か、軽いジョークですよ、ジョーク!!」

 「それにしては真に迫っていたわよ!!」

 「ド、ドラマ見て勉強しました…痛い、痛いですぅ〜!!」




 「二人ともこの状況下で仲が良いんだね……」

 「全くだな」

 栞にウメボシを決める香里の姿に名雪と、そして合流した祐一は苦笑するだけであった。
 








  「一体何がどうなっているんだよ!!」

 「ちょっと責任は誰が取ってくるの!?」

 「逃げ道は無いの、逃げ道は!!」

 「落ち着いてください!!」

 自己の事しか考えない無責任で愚かな人間が詰め寄せるフロントで、美汐は宿泊名簿に目を通していた。

 「……これは」

 指を止めた美汐。

 そこには英語にて紛れもなく「リリー=田」の文字が書かれていたのだ。

 「ルームナンバーは707……ですか」

 そして美汐は黙り込むと考えこんでしまうのであった。








  「あのKanonの登場はシナリオに無かった。相手にするにはリスクが大きいと思う」

 ホテルの窓からKanon三号機の登場を見た舞は佐祐理さんにそう提言する。

 だが

 「あははは〜、リスクが大きいほどお客さんは喜ぶんですよ〜♪」

 そう言うと佐祐理さんはごっつい無線機を手に取った。

 「みちる、聞こえます? どんな手を使っても良いからさっさと片づけないと年が明けちゃいますよ♪」

 『そんなの言われなくてもわかっているわよ。こいつはみちるの相手じゃないんだから』





  とはいうもののKanon三号機はかなりしぶとい相手だった。

  『みさき、がんがん前に出なさい!! 一号機との距離を作るわよ!!』

 「了解だよ」

 特車二課でもトップクラスの切れ者である深山雪見巡査部長の指揮の下、三号機と第一小隊の面々が

 とことん嫌がらせ攻撃を加えていたのだ。



 「邪魔よ、どけ〜!!」

 みちるの駆るグリフォンが三号機に迫る、っとそこへ

 ボシューン!!

 シュポーン!!


 突然、グリフォン側面からネットが飛んでくる。

 「な、何よ!?」

 あわててネットをよけるみちるだが、そこへすかさず三号機が襲いかかってくる。

 「くっ!!」

 仕方が無く交代し距離を開けると、ネットが飛んできた方向に視線をやるみちる。

 するとそこにはネットランチャーを肩に背負った特車二課隊員の姿があったのだ。

 「あんなので邪魔するなんて……」

 ギリギリ歯ぎしりを立てるみちる。




 その一方、見事にグリフォンの動きを邪魔して見せた浩平と七瀬は満面の笑みを浮かべていた。

 「見たか、必殺ネットランチャーの攻撃を!!」

 「装備開発課から調達したときは使えるのか疑問だったけど結構行けるわね、これ」

 「二人とも、早く移動しないと狙われるんだよ」
 
 重火器を使用したら速やかに場所を移動するのは鉄則だ。

 瑞佳に促された二人は速やかに暗闇へと紛れ込む。




  「ゆ、許さないんだから!!」

 頭に血の上ったみちるは小癪な三人を追おうとし、だが目の前のKanon三号機に阻まれた。

 「そうはいかないよ!!」

 「くっ……」

 立ちはだかる三号機に動きを止めるグリフォン。

 とそこへポポンポンと草むらから何かが投げつけられ、グリフォンにぶつかると弾けた。

 「ほら茜、しっかり投げないと」

 「嫌です」

 「みゅみゅみゅ〜♪」

 何発かのカラーボールがグリフォンの頭部を襲う。

 「邪魔しないでよ!!」

 たかがカラーボールとはいえメインセンサーやカメラのレンズを汚してしまえば視界は狭まる。

 相手にするにはばかばかしいが、放置するわけにはいかない。

 腕で頭部を守りつつ草むらの三人を追い払おうとし、だがKanon三号機は無視できなかった。

 「何でみんなみちるの邪魔するのよ〜!!」

 接近する三号機にじりじりとグリフォンは後退を呼び無くされるのであった。
 






  「うぐぅ、またやるの?」

 第一小隊がグリフォンの行動を妨害している頃、真琴とあゆはけろぴーが落とした37mmリボルバーカノンと

 格闘中であった。

 「こんな大きくて重い銃、真琴ちゃんやボクだけじゃなくて祐一くんた名雪さんや栞ちゃんや美汐ちゃん、

 みんなそろってでないと到底支えきれないよ〜。それにホテルの目の前で発砲だなんて……」

 だが真琴はそんなあゆの弱音を一括した。

 「口は動かさなくて良いから手を動かしなさいよ、手を!!」

 「うぐぅ、だって……」

 「あゆあゆは黙ってなさいよ!!」

 「うぐぅ……」

 真琴に一括され、黙り込むあゆ……だがすぐに悲鳴を上げた。

 「ま、真琴ちゃん!!」

 「うるさいわよ、あゆあゆ!!」

 そう叫んで顔を上げる真琴だったがその表情は一瞬に固まった。

 「あうっ!?」

 巨大な手が二人の元に迫ってきていたのだ。

 あわてて逃げる二人。

 すると黒いレイバー……グリフォンが素早く37mmリボルバーカノンをつかむとKanon三号機に銃口を向けた。

 「死にさらせ〜!!」

 だがレイバー格闘戦においてはトップクラスの経験を積んでいたみさきは慌てなかかった。

 グリフォンがリボルバーカノンに手を伸ばした瞬間に一気に懐に飛び込んでいたので、トリガーを引き絞る

 前にリボルバーカノンのシリンダーをがっりち押さえ込んでいたのだ。

 こうなってしまえばもはや37mmリボルバーカノンなど全く恐るに足りなかった。

 「離しなさいよ〜!!」

 みちるの苦し紛れの一撃をあっさり交わすと三号機はグリフォンの腕をがっちり捕らえ、押さえ込んだのだ。

 そのまま二機のレイバーは互いに押さえ込み、力を駆使して離れよう、離されまいと鬩ぎ合う。

 その様子に指揮していた雪見は指揮者から警告した。

 「そのままだとモーターが長くは持たないわよ」

 『なゆちゃんの一号機が復帰するまで保てば十分だよ。それに負荷がかかっているのは相手も同じだしね』

 「三号機まで壊れたら課長泣くわね」

 第一小隊のAir三機にKanon二号機までもがメーカー修理行きなのだ。

 これに高額さではダントツのKanon三号機までメーカー修理になった日には予算が足りるわけ無いだろう。

 課長のことをちょこっとだけ同情した雪見であった。







  「おい名雪、眠くはないか?」

 夜に弱い名雪にはもうとっくにおねむな時間帯だ。

 祐一がそう声をかけるとけろぴーのコクピットから返事が返ってきた。

 『くぅ〜くぅ〜』

 「お、おい名雪!! この状況で寝るんじゃない!!」

 慌てて祐一が叫ぶと無線機の向こう側からクスクス笑う声が聞こえてきた。

 『冗談だよ、祐一』

 「お前が夜にそれをやると本気でしゃれにならないからやめてくれ」

 祐一が懇願すると名雪はコクピット内でちょっくらむくれた。

 『うぅ〜、祐一それどういう意味だよ〜』

 「言葉通りだよ」

 『それ香里の台詞……』

 「俺が使ったって別に良いじゃないか」

 「あたしとしては構わないわよ、名雪」

 とそこへ香里がやってきた。

 「相沢くん、電池の交換終了したわ。いつでも行けるわよ」

 「サンキュー、香里」

 祐一はそう言うと名雪に対して叫んだ。

 「よし名雪、反撃開始だ。黒いレイバーに目にものを見せてやるぞ!!」

 『了解だよ!!』

 そしてけろぴーはキャリアから立ち上がると、奮戦中の三号機の元へと歩き始めたのであった。








あとがき
前回後書きに書いたPCの不調ですが、熱管理をしっかりしていたら何とか平気でした。

それにしてもノースチップ用のクーラーってあまりありませんね。

ファンレスでないとうるさくて論外なのですが、種類少なくて……。

ALPHAで良いヒートシンク作ってくれないでしょうか?



2004/7/17

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