機動警察Kanon 第199話











   バラバラバラバラバラバラ

 

  強力なサーチライトで海面を照らしながら周囲を捜索する警察のヘリコプター。

 だが

 「こちら107ハヤブサ、未だに目標発見できず」

 そうあっさり発見できれば苦労はしない、警察による捜索はまだまだ続くのであった。






  「派手にやっちゃいましたね」

 秋子さんは舞浜大橋のど真ん中にデカデカと開いた大穴を見下ろしながらそう言った。

 大穴の下は夜の海……さらにその下にはKanon二号機が水没しているはずだ。

 「あう〜っ、秋子さんごめんなさい……」

 さすがの真琴にも自分がやらかした失敗が問題になるのは理解出来た。

 一日に舞浜大橋を通過する車両は一日に何万台あることか……。

 橋の修復が完了するまでの期間は周辺の交通網にも多大な影響を与えるはず。

 今までに真琴がやらかした失敗の中でも今回はとびっきりでかい失敗だったのだから。

 だが秋子さんは首を横に振った。

 「真琴が気にすることはありませんよ。責任は……」

 「秋子さん!!」

 秋子さんがそこまで言いかけたとき、そこに突然美汐が頭を下げながら謝罪した。

 「申し訳ありませんでした。私のミスです」

 「み、美汐のせいじゃないわよ!!」

 「いえ、真琴。責任は指揮者である私にあるんです」

 「カッとなって美汐の指示に従わなかったのが悪いのよ〜!!」

 真琴と美汐の二人はお互いに自分の責任であると言い張り続ける。

 そんな二人をほほえましそうに眺めていた秋子さんは言いかけて止めてしまった言葉を続けた。

 「二人とも、責任の一切は隊長であるわたしにあるんですから気にしなくて良いんですよ」

 「で、でも!!」

 「しかし!!」

 「そのためにみんなよりも良い給料をもらって居るんですからね。

 でも今はそんな責任云々言っている場合ではありません、まだ黒いレイバーを捕まえていないんですからね」

 「それはそうだけど……」

 「確かにそうなんですが……」

 愛機と、指揮する対象を失ってしまった二人になるかやれることはあるのか。

 「けろぴーのサポートや捜査、まだ二人に出番はあるんですよ」

 秋子さんがそう言っているとそこへ一台の覆面パトカー止まり、そして私服警官が二人降りてきた。

 「いらっしゃい、国崎さんに観鈴ちゃん」

 やって来たのは警察庁広域犯罪捜査官国崎往人と神尾観鈴の両捜査官であった。

 「どうも、捜査会議がありまして遅れました。ところで黒いレバーに逃げられたというのは本当ですか!?」

 今や捜査の手がかりは黒いレイバーぐらい。

 その黒いレイバーに逃げられてしまったのでは事件が迷宮入りしてしまうかもしれない……。

 そう思った往人が秋子さんに尋ねると秋子さんは笑った。

 「大丈夫ですよ。この後第二ラウンドがありますからね。そしておそらくその場所に……」

 「その場所になんなんです!?」

 往人が叫ぶと、相棒の観鈴が往人を窘めた。

 「にははは〜。往人さん、少しは落ち着こうよ〜」

 「落ち着いてってな。すでに一年以上黒いレイバーにの捜査に関わっているのに逃げられていたまるか!!」

 ヒートアップする往人に秋子さんは優しく諭した。

 「佃島の時、お二人が追っている方々はすぐ近くで観戦していたんじゃないか、って言っていましたよね」

 「今回もこのすぐ近くで観戦していると言うんですか?」

 「ええ。おあつらえ向きな場所があそこにありますし」

 そう言って振り向く秋子さんの視線の先には湾岸地域ではかなりメジャーな一流ホテルが建っていた。

 「あそこは……」

 「あそこは確かシャフト系列のホテルでしたよね」

 「例の連中はあそこにいると?」

 「はい」

 頷く秋子さんに往人はじっと考え込み、そして頷いた。

 「確かにやってみる価値はありそうですがしかし二人では……」

 観鈴をちらちら見ながら言う往人。

 たしかにたった二人では捜査はそうは進まないであろう。

 だがそれは秋子さんの予想範囲内であった。

 「こんな事もあろうかと昔のつて手でこんな物用意しておきました。

 あゆちゃんと栞ちゃんは例の物をここに」

 「うぐぅ〜、重たいよ」

 「えう〜っ、重すぎです〜」

 そう言いながらあゆと栞が持ってきた物はかなり高性能そうな撮影機材であった。

 「これは?」

 「見ての通りカメラです。

 かなり高性能ですからちゃんと場所さえ間違えければホテルの部屋の中の人をしっかり撮る事が出来ますよ」

 「これで観戦している連中を確認しろと?」

 「証拠にはならないでしょうが、捜査の切っ掛けにはなると思いまよ。そう思いませんか、美汐ちゃん」

 「そ、それは……」

 「そうですよね」

 「…はい、そうですね」

 口には出さなかったが秋子さんの意図を読んだ美汐は頷いたのであった。








  そしてちょうど同じ頃。

 「そうかわかった」

 らふれしあ号からグリフォンの状態を確認した舞は頷くと佐祐理さんに伝えた。

 「佐祐理、どこにも損傷無いみたい。すぐに次の面に進める」

 「あははは〜、それは良かったです♪ でみちるの調子はどうですか?」

 「みちるは佐祐理以上にやる気満々」

 「それは何よりです。舞、電話お願いします」

 「はい」

 「あははは〜、佐祐理ですよ〜♪」






  『みちる、聞こえるか?』

 グリフォンのコクピット内で待機していたみちるは、司令室からの声に不満を漏らした。

 「ちょっと、まだ出られないの!」

 『課長からの伝言だよ』

 「佐祐理から? 何なのよ」

 すると司令室の方でスイッチを切り替えた。

 『あははは〜、みちる。お姉ちゃんと決着つけて新年を明るく迎えましょうね〜♪』

 「任せなさいよ」

 佐祐理さんの言葉にみちるは頷くとグリフォンを機動させた。

 目の前のディスプレイに『OPERATING SYSTEM ASURA』の文字が浮かび上がる。

 「システムコンディション、オールグリーン。みちる、行くよ」

 『がんばれよ』

 そしてグリフォンはらふれしあ号船底から東京湾へと躍り出たのであった。

 







  「今夜中に来ますかね?」

 祐一の言葉に秋子さんは頷いた。

 「絶対に来ますね。特製ジャムを賭けても良いですよ」

 秋子さんの言葉に祐一はあわてて首を縦に振った。

 「も、もちろん来るに決まっていますよ!! わざわざ賭けるまでもありません!!」

 「そうですか?」

 ちょっとがっかりした秋子さんは腕時計にちらっと見、そして祐一に指示した。

 「今のうちにバッテリー交換しておいてください」

 「はい」

 祐一は頷くと、けろぴーコクピット内の名雪に叫んだ。

 「名雪!! バッテリー交換するからキャリアに戻れ!!」

 「わかったよ〜」

 けろぴーをキャリアに戻そうとする名雪。

 とそこへキャリアで無線機をモニターしていた栞が叫んだ。

 「警戒中のヘリより入電!! 海面下を舞浜方向に進行中の物体を発見とのことです!!」

 「何!?」

 「なんてタイミングの悪い!!」

 「来ましたか…」

 栞の言葉に第二小隊の面々は唇をかんだ。

 バッテリー交換しようとしたまさにその時に発見の報告とは……。

 しかし発見してしまった以上、今更どうしようもなかった。

 「名雪!! 搭載急げ!!」

 「で、でも祐一さん!! 私たちだけで交換していたのでは間に合いませんよ」

 「移動中に急速チャージする!! 雀の涙ほどの回復でも0よりはマシだ!!」

 「わかったよ!!」

 祐一の指示に名雪は従い、けろぴーをキャリアに搭載した。

 「しおしお!! こっちは真琴たちがやるから早く出しなさいよ!!」

 「えう〜っ、しおしおではありません〜」

 「名雪!! 全電源をカットしろ!!」

 「わかったよ。全電源カットするね」




  一号キャリアで慌ただしい動きを見た秋子さんは呟いた。

 「本当は水際で阻止したいんですけど……」

 だがすぐに気を取り直すとミニパトに乗り込み、エンジンをかけると無線機のマイクを手に取った。

 「あゆちゃん、移動です。もしかするとキャリアをバリケードにするかもしれませんので」

 『わかったよ』

 『美汐ちゃん、国崎さん、観鈴ちゃん、準備は良いですか」

 『準備完了です』

 『いつでも行けますよ』

 『OKだよ』

 「特車二課第二小隊、出撃ですよ」

 そして秋子さんは20世紀最後の出撃命令を口にしたのであった。









あとがき
あと1回で200回、あとちょっとで完結ですからがんばります。



2004.05.27

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