機動警察Kanon 第196話













  ファォンファォンファォンファォン

  ミニパト一台、指揮車二台、キャリア二台がサイレンを鳴り響かせ、雪の東京を走り抜けていく。

 その間にも雪はシトシト降り続け、場所によってはうっすら積もっている状態だ。

 その様子をキャリアの助手席で眺めていた白い手袋で汗を拭うと「はぁ〜」とため息をついた。

 「ヒーター強すぎました?」

 キャリアを転がす栞の言葉に名雪はあわてて首を横に振った。

 「あ、うん平気、ぜんぜん大丈夫だよ」

 「…やっぱり緊張しますか?」

 「…ちょっとね」

 今度は名雪は首を縦に振った。

 「新鋭機で装備した第一小隊が負けちゃったんだよ。それが二機のKanonで勝てるかなって……」

 「勝てるのか、じゃありませんよ名雪さん。勝たなければいけないんです」

 「うぅ〜、栞ちゃん簡単に言ってくれるよ〜」

 「だって名雪さん、去年は一対一で引き分けに持ち込めたじゃありませんか。

 今度は真琴さんの二号機だっているんですから余裕ですよ、余裕。

 真琴さんが足を引っ張らなければですけど……」

 真琴が聞いていたら無茶苦茶怒るようなことをあっさり言ってのける栞。

 だが栞のそんな言葉に名雪は笑った。

 「ありがとう、栞ちゃん。そうだよね、今度は真琴も一緒だし楽勝だよね」

 「はい、知恵と勇気と根性があれば勝てると決まっているもんです」

 そんなことを二人で話していると、進行方向に赤色灯の点滅が見えてきた。



  『ただいま今の時間、高速湾岸線・357号線ともに荒川−浦安間が閉鎖されています。

  船橋方面の方は14号線へ迂回してください』

 パトカーとバリケードによって道路を閉鎖した警官が、車を次々と迂回させていく。



  「あの先に黒いレイバーがいるんだね……」

 「決戦の時は迫る……やっぱりドラマみたいで格好いいです」

 「栞ちゃん、ドラマと一緒にしないでよ……」

 ちょっとずれている栞に名雪が苦笑していると先行していたミニパト・指揮車がブレーキをかける。

 道路を閉鎖しているためちょっとした渋滞が発生していたのだ。

 そのため名雪・栞の乗る一号キャリア、そして後続の二号キャリアもブレーキをかけて止まる。

 「見えた」

 「見えましたね」

 二人の視線の先には一目見てわかる特徴的なあの黒いレイバーが軽やかな足取りで前浜方面へと足を
 
 進めていたのだ。

 『緊急車両が通過します! 速やかに道路の左側に移動してください。立ち止まらないでください!!』

 一号指揮車の祐一が拡声器で呼びかけ、何とか進路を確保する。

 すると二号指揮車の美汐が周辺情報を確認しながら秋子さんに提案した。

 『秋子さん、舞浜に行かれるとやっかいです。あそこは』

 『今夜は深夜営業ですからね』

 『はい。ですから旧江戸川を防衛戦にするよう提案します。

 一号機を舞浜側に、二号機を葛西側の押さえにして目標を挟撃すれば戦闘は舞浜大橋の限定できます」』

 『了承』

 「お母さん……」

 「やっぱり秋子さんですね……」

 予定調和のごとく、美汐の提案は秋子さんによってあっさり了承されたのであった。









  コンコン

  「入ってますよ〜♪」

 ドアのノックに佐祐理さんが朗らかに反応する。

 すると音もなくドアが開き、そして舞がすっと入ってきた。

 「佐祐理、遅くなってごめん」

 「あははは〜、遅くなんかありませんよ〜♪ それよりこの位置からだとよく見えないのが気になります。

 お客様からクレームが出たりしませんか?」

 双眼鏡を手に窓辺に立つ佐祐理さんに舞は答えた。

 「頼みもしなくてもテレビが勝手にケアしてくれると思う」

 「それでは報道屋さんの活躍に期待しましょうね♪」

 昔の出来事以来、テレビ嫌いな舞の一言に佐祐理さんはにっこり微笑んだ。







   

   ファォンファォンファォンファォン

  高速道路を一号指揮車と一号キャリアがサイレンを鳴らしながら突っ走る。

 「うぅ〜、これってやっぱり無茶だと思うよ〜」

 名雪の弱音に、祐一は反論した。

 『そうは言うが前に回るにはこれが一番手っ取り早いんだぞ』

 「それはそうだけど……」

 『それにだ』

 「それに何?」

 『秋子さんの言うとおりだとしたらやつは起動前のKanonには手を出さないだろ。見えたぞ!!』

 祐一の鋭い声に名雪は思わず姿勢を正し、目の前を凝視した。

 そこには一年前、バビロンの城門にて死闘を繰り広げたあの黒いレイバーの姿があった。

 「…どうかわたしのけろぴーに手を出したりしませんように」

 情けない願いを口の中で名雪はつぶやく。

 その間に一号指揮車と一号キャリアはあっさり黒いレイバーの足下を通り抜けた。






  「はぁ〜、良かったよ〜」

 緊張から解放され、大きなため息をつきながら名雪は思わず言葉を漏らす。

 すると無言のままキャリアを転がしていた栞がうなずいた。

 「本当ですよね。もし秋子さんの読みが外れていて、あの黒いレイバーに襲われたらと考えたらドキドキ

 して心臓が止まってしまうかと思いましたよ」

 「栞ちゃんの場合、それ洒落にならないよ〜」

 名雪の言葉に栞は頬を膨らませて抗議した。

 「そんなこと言う人、嫌いです。昔と違って今はもう大丈夫ですから」

 「それは知っているけど」

 栞の過去を知っている名雪としてはいくら冗談でも笑えないというものだ。

 まして親友のあんな姿をみているのだから。

 「それより名雪さん、そろそろ準備しなくて良いんですか?」

 「そっか、けろぴーの準備しないとね」

 栞の言葉に名雪はうなずくと、長い髪の毛をまとめ、ヘッドギアをかぶった。

 「ふぁいとだよ」

 いつもの習慣で気合いを入れると名雪はけろぴーのコクピットへと移動したのであった。






  ウィーコン ウィーコン

  ズン!! ズン!!



  デッキアップした二号キャリアから真琴の駆るKanon二号機が大地に降り立った。

 「いつでも行けるんだから!!」

 実にうれしそうな真琴の声だがそれも無理はなかった。

 なぜならばKanon二号機の手には真琴が切望して止まなかったライアットガがあったからである。

 「真琴は後方より目標を牽制、一号機を支援してください」

 「まっかせなさい〜!! 真琴が黒いレイバーを蜂の巣にしてやるんだから〜!!」

 美汐の指示に大張り切りの真琴。

 これにはさすがに美汐も不安を覚えたとみえ、真琴を牽制した。

 「真琴、発砲許可は私が出します。それまでは発砲しないように。良いですね」

 「……了解……」

 一気にトーンダウンしてしまう真琴。

 そんな真琴に危惧を覚えたのは美汐だけではなかった。

 それほど銃を撃ちたかったのであろうか?

 「真琴ちゃんにアレ、持たせちゃって良かったのかな?」

 アレとはむろんライアットガンの事だ。

 あゆのそんな言葉に美汐は自分を納得させるかのように言葉を紡いだ。

 「真琴は私が押さえます」

 「うぐぅ、でも!!」

 「名雪さんの方が暴走はしないでしょう。でも射撃の腕前は二号機の方が上だって知っていますよね」

 「それはそうだけど……」

 美汐がいなかったとき、真琴の指揮をやっていただけにあゆは心配で仕方がないようだ。

 だが

 「それでは後はお任せします。真琴行きますよ」

 「任せなさい!!」

 そして二号指揮車&二号機は舞浜方面へと進撃して行ったのであった。









  「ねえ秋子さん、大丈夫かな?」

 「まあたぶんきっと大丈夫でしょう」

 さすがの秋子さんも大丈夫とは断言できないようであった(笑)。






あとがき
仕事がシフト制に移行したため、更新も不規則になりました。

というわけでこれから先、気が向いたときに更新しますのでよろしくお願いします。

まああとちょっとでお終いですけどね。



2004.05.17


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