機動警察Kanon 第194話











  ズキューン ズキューン ズキューン 

 ズキューン ズキューン ズキューン



  埋め立て地に銃声……というよりも砲声が響きわたり、海面に水柱が立つ。

 特定の射撃場を持たない特車二課では滅多に行われない射撃訓練が、埋め立て地堤防上にて海面に浮かぶ

 ドラム缶を標的に見立てて行われていたのだ。




  「あうっ〜、こんなのじゃ全然物足りないわよ〜!!」

 与えられた六発の弾丸を早々に消費してしまった真琴は思わず吠えた。

 「移動目標に対する射撃訓練もやらせなさいよ〜!!」

 しかしその要望がかなえられることは決してなかった。

 『弾丸にそんなゆとりはありません。第一、何を目標にして発砲するというのです』

 美汐に即座に否定された真琴は、だがすぐにはあきらめきれなかった。

 「それじゃあライアットガンの訓練を……」

 『ライアットガンの弾丸はリボルバーカノン以上にゆとりがありません。

 真琴は訓練を終了、すぐに機体のチェックを受けてください』

 「で、でも!!」

 「デモもストもありません!! いついかなる時に出動がかかるのかわからないんですよ。

 第一小隊がいない今、首都圏の治安は私たちの肩に掛かっているんです、わかっているんですか真琴!!」

 「あうっ〜、わかったわよ……」

 美汐の正論に首を縦に振らざるを得なかった真琴は渋々2号機をハンガーへと向けさせた。

 「デモもストも……って美汐が冗談言ったの?」





  「なかなかおもしろいものを見せてもらったな。天野の寒い冗談も聞かせてもらったことだし」

 大きな声でわざわざ美汐に聞こえるように独り言を言う祐一。

 すると

 「そんな酷な言い方はないでしょう…」

 美汐が恨めしげに言ってきたが、祐一はにやにやしたまま答えず、名雪に指示を出した。

 「それじゃあ名雪、いっちょやるぞ」

 「了解だよ〜」

 2号機と入れ替わり1号機……けろぴーが埋め立て地堤防上に歩みを進めた。

 「全弾命中させるんだよ〜」

 あまりそうは見られないかもしれないが気合いを入れた名雪はしっかり足場を確認すると

 37mmリボルバーカノンを取り出し、標的であるドラム缶に照準を合わせようとする。

 とその時美汐が注意した。

 「名雪さん、ちょっと待ってください。船が通ります」

 確かにドラム缶の向こう、37mmリボルバーカノン射線の先を一隻の漁船が横切ろうとしているところであった。

 「うぅ〜、せっかく気合い入れたのに〜」

 気がそがれた名雪はちょっとテンションが下がってしまう。


  ポンポンポンポン


 やがて船は完全に通り過ぎ、命中させようとしても絶対に無理な位置へと移動する。

 「…そうだ!」

 何かを思いついた名雪は手にしていた37mmリボルバーカノンを機体に収納した。

 だがその思いついた何かを知らない祐一は驚きの声を上げた。

 「おい、名雪。何をするつもりだ?」

 「ちょっと思いついたんだよ」

 「思いついたって何を?」

 「見ていればわかるよ」

 「見ていればって……おい名雪……」

 祐一の言葉を無視して名雪は真剣まなざしを浮かべた。

 「…………………」

 緊迫した空気が流れる……とやがて名雪が動いた。

 ズキューン ズキューン ズキューン 

 ズキューン ズキューン ズキューン

 それは一瞬の抜き撃ちであった。

 6発の弾丸を標的のドラム缶目掛けてぶっ放したのだ。

 たちまちドラム缶は水の中に消え去る。

 「ざっとこんなもんだよ。どう祐一?」

 ちょっぴり自慢げな名雪だが

 「…一発も命中してないぞ」

 という祐一のつっこみに驚いた。

 「嘘!?」

 「嘘ついてどうする。よく見ろよ」

 たしかに海面の波が収まったそこには標的のドラム缶が相も変わらずぷかぷかと浮いていた。

 「うぅ〜」

 「『うぅ〜』じゃないぞ、名雪!! 弾の無駄遣いしてどうするつもりだよ!?」

 「だぉ〜」

 「寝言言えばごまかせると思っているのか!!」

 やっぱり緊張感が今ひとつ足りない第二小隊であった。







  そしてちょうど同じ頃。

 特車二課には人のお客さんが来ているところであった。

 「昨日の情報の続き、調べてきましたよ」

 国崎往人の言葉に秋子さんは嬉しそうに頷いた。

 「どんなことがわかりました?」

 「そうだな……なぜ黒いレイバーが佃島に上陸したかわかりますか?」

 往人の質問に秋子さんは首を横に振った。

 「残念ながらわからないですね。

 今度の黒いレイバーは水中仕様とはいえもわざわざ佃島を上陸地点に選ぶ必要はありませんからね」

 「ツインタワービル。シャフトジャパンはあそこに部屋を持っている」

 「なるほど、あそこでしたらAIRと黒いレイバーの戦いはよく見えたでしょうね」

 現場の地図を頭の中に思い浮かべた秋子さんは、往人の言葉に頷いた。

 「俺はだからこそあそこに黒いレイバーが上陸したと確信しているよ。

 まあこの程度じゃシャフトにガサ入れする根拠にもならないがね」

 「シャフトの方から手がかりを掴むのは大変そうですね」

 秋子さんの言葉に今度は往人が頷いた。

 「全くだよ。手がかりは倉田佐祐理って女と、後はASURAぐらいなものだな」

 「ASURA……そう言えば前に国崎さんに伝えましたっけ」

 「調べてみるとなかなかおもしろい発見があったな」

 「どんなものです?」

 「古柳教室の面子、全てって言う訳じゃないが結構な人数がシャフトに勤めてる」

 「ここでもシャフトですか」

 秋子さんの言葉に往人またもは頷いた。

 「まあこれも残念なことに決定打にはならないんだよな」

 「黒いレイバーにADURAが載っているとは決まったわけではありませんからね」

 「そういうことだ」

 往人はそう言うと立ち上がった。

 「まあ今回は国外から来たレイバー関係者という手がかりがあるんで、しばらくはこっちから追うさ」

 「今はどこにいるんです?」

 「都内のホテルに宿泊中。まあこっちも人手が足りないんで今は観鈴が一人見張っているよ。

 いくらぼんくらでも動きがあれば俺に連絡することぐらいは出来るからな。

 まあこの後俺も合流するから平気だろう。何かあったら連絡するさ」

 「お願いしますね」



 そして往人は特車二課を後にしたのであった。







あとがき
ASURAの事を忘れていたので取って付けたかのように出てきました。

本当はもう少し前にやるべきでしたね。




2004.04.25


感想のメールはこちらから


「機動警察Kanon」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る   TOPへ