機動警察Kanon 第193話












  「あはは〜、おはようございます♪」

 復帰後、第一戦を見事に勝利した佐祐理さんはご機嫌気分でグリフォンの格納庫に現れた。

 「佐祐理、おはよう」

 そんな佐祐理さんに対し、グリフォンの整備状況を眺めていた舞は頷きながら返事を返す。

 「舞、昨夜は楽しかったね〜♪」

 「…佐祐理は浮かれすぎ」

 舞が苦言を呈すると、佐祐理さんは笑った。

 「あはは〜、舞は心配性ですね〜♪」

 「佐祐理が楽観的すぎるんだからこれでちょうど良い」

 「そうですか? …それもそうかもしれませんね〜♪」

 「…そう」

 そう言って黙り込んでしまう舞に、佐祐理さんは尋ねた。

 「そういえばみちるはどうしています?」

 「…よく寝ているみたいです。さすがにみちるも疲れたみたい」

 それは舞の言葉ではなかった。

 「あはは〜、さすが主治医さん。みちるの事はよくわかっているみたいですね〜♪」

 「ぽっ」

 そこにいたのはみちるの健康管理の一切を仕切る遠野美凪その人であった。



  「みちるの調子はどうです?」

 佐祐理さんの質問に美凪はこくんと頷いた。

 「さすがに三機のAIRを相手にしたので疲れているみたいです」

 「みちるが疲れているんですか。それでしたら2、3日は大人しくしてくれそうですね」

 元気いっぱいのみちるには佐祐理さんだって時々手を焼かされることがある。

 そう思っての佐祐理さんの発言に美凪は頷いた。

 「三日間は絶対休養です。グリフォンの格納庫にだって入れてあげません」

 「それが一番ですね〜♪ 次はいつやりましょうかね?」

 佐祐理さんが「あはは〜♪」と笑おうとしたその時、舞が佐祐理に声をかけた。

 「佐祐理に電話」

 そう言って舞は佐祐理さんにスクランブル機能付きの携帯電話を手渡した。

 「あはは〜、どなたでしょうね?」

 佐祐理さんは携帯電話を受け取ると素早くボタンを押し電話に出る。

 「あはは〜、倉田ですけどどちら様です〜?」

 すると電話機の向こうからどこかで聞き覚えのある、男の怒鳴り声が響いてきた。

 『倉田くんかね!! 今さっき警察がここにも来たよ!!』

 「あはは〜専務ではありませんか。久しくお会いしていませんがお元気ですか〜?

 それはそうと不祥事続きの日本の警察にも優秀な人がいるんですね〜」

 佐祐理さんのその一言は火に油を注ぐような物であった。

 『ふざけている場合じゃない!!』

 「あはは〜、佐祐理の鼓膜が破れてしまいますよ〜」

 専務の怒声に受話器を離す佐祐理さん。

 だがヒートアップした専務の声はその程度では防ぎようがなかった。

 『いいかね、倉田君!! 君は昨年の事件以来、ずっと警察にマークされているんだ!!』

 「あはは〜、だからこそ佐祐理はこうして船の仲で大人しく隠れているんですよ。

 佐祐理ってなんて健気なんでしょう〜」

 『耳障りだからその「あはは〜」と「佐祐理」は止めたまえ!!

 君のやっていることは紛れもない犯罪だ!! くれぐれも本社には迷惑のかからないようにな!!

 それと倉田君、健気と言うのはどういう意味だか辞書でよく調べておくことだな!!』



  ガチャン



 「あはは〜、言いたいことだけ言ってくれましたね〜」

 佐祐理さんはガチャ切りされた電話を手でもてあそびながら笑った。

 「でもね、専務。あなたのそういう一言一言が佐祐理をますます手のつけられない物にしているですよ〜♪」











  トントントントン

 軽快に包丁で切り刻む音が炊事場に響き渡る。

 「栞ちゃん、タマネギの皮剥いたよ」

 あゆがボール一杯のタマネギを渡すと栞は頷いた。

 「ありがとうございます、あゆさん」

 そして嬉しそうにタマネギを切り刻む栞に、大鍋一杯のみそ汁を作っていた名雪が声をかけた。

 「栞ちゃん、楽しそうだね」

 「そうですか?」

 栞は首をかしげ、そしてすぐに頷いた。

 「ここだといっぱい料理を作ってもみんな喜んで食べてくれますからね。

 作った料理をおいしく食べてもらえるのは作り甲斐がありますよ」

 「そうだね。みんなお代わりまでしてくれるもんね」

 意気投合して盛り上がる名雪と栞。

 だがその背後では

 「うぐぅ、ボクは…ボクは……」

 消し炭を得意とする為、下拵えしかやらせてもらえないあゆは俯いて床にのの字を書く。

 そこへ秋子さんが顔を出した。

 「あら、あゆちゃん。何をしているんですか?」

 「あ、秋子さん。な、何でもないよ!」

 まさか料理できないのを苦にして……とは言えずに慌てて手をぱたぱた横に振るあゆ。

 いつもならばこんなことでは引っ込まないであろう秋子さんだったか、今日は違っていた。

 「名雪、ちょっと良いですか?」

 「今料理中だからちょっと待って…」

 名雪がそこまで言いかけた時、栞が口を挟み込んできた。

 「私に任せてください、名雪さん」

 「え、でも……」

 「いいんですよ、名雪さん。さあ母娘の語りをたっぷりとどうぞ」

 そう言って栞は名雪をぐいぐいと押し炊事室から追い出した。

 「それでは秋子さん、名雪さんをお渡ししましたよ」

 「ありがとうございます、栞ちゃん。こんどアイスおごってあげますね」

 「ありがとうございます♪」

 なにやら意気投合する二人に今度は名雪が

 「うぅ〜、なんだかのけ者にされているよ〜」

 と拗ねるのであった。





  「え〜、美汐ちゃんに!?」

 秋子さんから呼び出された用事を聞いた名雪は困った表情を浮かべた。

 「わたしじゃ力不足だよ〜」

 「私もそうは思うんですけどね」

 秋子さんの悪気はない、しかし辛辣な一言に名雪の心はえらく傷ついた。

 「うぅ〜、お母さん酷いよ〜!」

 「冗談です」

 しかし秋子さんはしれっとあっさり受け流すと続けた。

 「まあとにかく話だけはしてみてね」

 「うぅ〜、気が進まないよ〜」

 「ちゃんと美汐ちゃんも名雪もフォローはさせてもらいますから」

 「…フォローって何?」

 「美汐ちゃんについてはおいおい、名雪についてはイチ……」

 「やる!! 絶対やるよ!!」

 「はい、お願いしますね」

 うまく話に乗せたと思う反面、こんな風に育ててしまって良かったのかしら、と思う秋子さんであった。









   それから一時間あまり後。

 秋子さんは星の瞬く仲、ベランダに佇む美汐に声をかけた。

 「美汐ちゃん、寒くないんですか?」

 その問いかけに美汐は首を横に振った。

 「昔に比べれば暖かいぐらいだと思います」

 「それもそうですね」

 たしかに雪に包まれるあの町に比べれば、東京の夜などたいした寒さではない。

 「…名雪と何かありました?」

 秋子さんがそう尋ねると美汐ははぁ〜とため息を付いた。

 「秋子さん、小細工は止めてください」

 「何のことでしょう?」

 すっとぼける秋子さんではあったが美汐にはすべてお見通しであった。

 「普段の名雪さんがあんな事聞いてくるわけありませんから」

 「美汐ちゃんにはバレバレでしたか。人選失敗しましたかね」

 とはえいえ第二小隊の面子では誰に頼んだところで不自然さは消えなかったであろうが。

 「…リリー=田と倉田佐祐理は同一人物です。そう考えて間違いありません」

 美汐はきっぱりそう言い切り、そして続けた。

 「ですが私が知っていることで捜査に役立ちそうな物は何もありません。

 秋子さんであってもこれ以上は私に関わらないでください」

 きっぱりと拒絶する美汐に、秋子さんは

 「そうですか」

 ただ一言のみ言葉にし、後は黙りこくるのみであった。







あとがき
もうちょっと書こうかととも思いましたが、ちょうどここで日が変わるのでここまでにします。

それにしても機動警察パトレイバー新OVA第3話「逆襲のシャフト!」。

仮にもプロなのに役不足の使い方間違えていたんですね。



2004.04.18

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