機動警察Kanon  第191話












  「あはは〜、間に合いませんでした。困りましたね〜♪」

 駆けつけて来たAIR一号機の姿を見て思わず困ったような表情を浮かべる佐祐理さん。

 すると腹心の舞はちょっとだけ渋い表情で呟いた。

 「佐祐理は楽しくて仕方がないように見える」

 「あはは〜、舞にはそう見えますか〜?」

 コクン

 頷く舞に佐祐理さんは苦笑した。

 「やっぱり舞にはかないませんね〜。佐祐理の心の内は読まれっぱなしです♪」

 「…誰にだってわかる」

 「そうですか?」

 「そう」

 珍しく佐祐理さんの意見に賛同しない舞ではあったがこれは無理もあるまい。

 今の佐祐理さんの表情を見れば、佐祐理さんが何を望んでいたか一目瞭然だったからである。




  「やっぱり楽しいことがあるとつい笑っちゃいますからね〜♪」

 佐祐理さんはそう言ったが、佐祐理さんは四六時中笑っているようにしか見えない。

 舞がそう答えようとしたとき、周囲が一斉にどよめいた。

 「あっ、三戦目が始まりそうですね♪」

 そう言って双眼鏡をのぞき込む佐祐理さん。

 その視線の先では川名みさき巡査部長の駆るAIR一号機とみちるの駆るグリフォンが対峙、今にも格闘戦に

 突入するかという状況だったからである。

 「それではいっちょお仕事しますね〜♪」

 佐祐理さんは軽やかな足取りでタイトスカートを翻しながら壇上に上がった。

 「さてみなさ〜ん、注目してください〜♪」

 佐祐理さんのその一言に客である男たちは一斉に振り返った。

 そして窓際から離れると一斉に壇上の周りに集まる。

 美人な佐祐理さんのほっそりとした御足、さらに付け足すならばその先の大変ありがたいものが拝めるかも

 しれないとあらばまっとうな男として当然のことであろう。

 だがこれには佐祐理さん、ちょっと困った。

 「あははっ〜、みなさんちょっと注目しすぎですよ〜」

 「…佐祐理、蹴散らす?」

 困っている佐祐理さんに舞が提案するが、相手は客だ。

 ここで蹴散らしてしまってはせっかくのビジネスチャンスがパーになってしまう。

 しかたがなく佐祐理さんは男どもの視線を無視することにした。

 「みなさ〜ん、あれが今回の商品サンプルTYPE-J9グリフォンです〜♪

 先ほど二機のAIRをあっさり片づけるところを見てもらいましたけど、今度はその抜群の運動性をみなさんに

 ご覧になっていただきますね〜♪」

 だが

 「ビュティフォー!!」

 「トレビアーン!」

 「ヒュウ ヒュウ〜!!」

 「キュート!!」

 「ブラボー!!」

 「グラッェ!!」


 グリフォンへの讃辞はなく、ただひたすら佐祐理さんを褒め称えるだけだ。

 「あははっ〜、佐祐理としては国外のレイバー・武器商人関係の皆さんを集めたつもりだったんですが

 もしかして人選間違えましたかね?」

 「…斬る?」

 「ダメですよ〜舞」

 やんわり舞をたしなめると佐祐理さんだが自分の欲望に忠実な男どもを何とかする方法はない。

 「困りましたね〜」

 とその時、睨み合っていた二機のレイバーがついに動いた。

 「あっ、始まりました♪」

 楽しみにしていた念願の格闘戦の始まりに佐祐理さんは思わず我を忘れた。

 「窓際でないとよく見られません♪」

 壇上から華麗に飛び降りる佐祐理さん。

 「ワンダフォ〜!!」

 「グレイト〜!!」

 「ビュティフォー!!」

 「トレビアーン!」


 数名が佐祐理さんの秘めたる場所を見て興奮する。

 だが

 ザシュ ザシュ ザシュ ズバァッ!!

 「…つまらぬ物を斬ってしまった……」

 「ワォ〜、スバラシイ〜!!」

 「マルデ ニンゲンオヨウネ!!」

 「チョウノヨウニマイ、ハイノヨウニサスノネ!!」

 「シンジラレナイヨ!!」


 眼光鋭く睨み付ける舞の視線に耐えかね、妙な日本語で口々にグリフォンへの讃辞の言葉を表す一同。

 そして

 「佐祐理は無防備すぎ…」

 「あはは〜、佐祐理には舞という頼もしい相棒がいますから」

 「…ちょっと違う……」

 切れ者でいて、しかしどこか抜けている佐祐理さんに舞はただため息を付くしかなかった。









  「でぇ〜いだよ!!」

 巨大なシールドを武器にグリフォン目掛けて叩きつけるAIR一号機。

 だがグリフォンはあっさりその一撃を受け止めた。

 「この程度ではみちるはやられたりしないんだから〜!!」

 そしてまるで人間のように、否人間より早く間合いから離れる。

 「逃がさないんだよ!!」

 あわてて後を追おうとするAIR一号機。

 だがそれはグリフォンの、いやみちるのフェイントであった。

 「みちるは逃げたりなんかしないんだから!!」

 あっという間に間合いを詰めると、グリフォンはAIR一号機を殴りつけようとする。

 だが

 「やらせはしないよ!!」

 「くっ!!」

 逆に反撃で殴りつけてくるAIRの腕をつかむとグリフォンは一本背負いの要領でぶん投げた。

 「まだまだだよ!!」

 まるで球のようにころがりすかさず身を起こすAIR一号機。

 そこへ

 「とりゃああ!!」

 両足揃えてのみちるの必殺キックが炸裂する!!

 「わっ、わっ、わぁあ〜!!」

 衝撃で川に落ちそうになるも何とかこらえるAIR一号機。

 その姿を見てみちるは笑った。

 「今まで相手にしていた二号機・三号機よりはだいぶやるみたいね」

 だがこれはみちるの大きな油断であった。



 ガァーン!!



 「な、何よ!?」

 いきなり背後から加えられた衝撃にみちるは慌てた。

 すぐにその衝撃の原因を探り、そして叫んだ。

 「くたばりぞこないはおとなしく転がっていなさいよ!!」

 それは七瀬留美巡査の駆るAIR二号機であった。

 もはやトドメを刺すばかり、までボロボロであった二号機。

 それ故にグリフォンを駆るみちるの頭からはすっぽり忘れ去られ、それ故に背後から奇襲をかけられたのだ。

 「七瀬さん、動けるの!?」

 現場に駆けつけた由起子さんの言葉に七瀬はコクピット内で頷いた。

 「センサー系は損傷、シナプスにも幾らか破損はあるけど……大丈夫、やれる!!」

 「というわけだからみさき先輩!! 今だぜ!!」

 「みさき、やりなさい!!」

 七瀬&浩平の二人、さらに相棒の深山雪見巡査部長の声に後ろ押しされたみさきは頷いた。

 「留美ちゃん、任せてよ!!」

 二号機によって羽交い締め状態のグリフォン。

 やるなら今だ!!

 右腕からスタンスティックを取り出すと、ドスを腰だめに突進するヤクザのごとくグリフォンに迫る!!

 だが

 「そうはさせないんだから!!」

 完調なグリフォンと、すでに損傷を受けているAIR二号機。

 二機には小さくはない差が歴然としてあったのだ。

 「どりゃああ!!」

 「くっ!!」

 グリフォンは力任せにAIR二号機を振りほどくと吹っ飛ばした。

 「留美ちゃん!!」

 やられた二号機の姿にみさきは思わずかっとなった。
 
 「留美ちゃんの仇だよ〜!!」

 「死んでない、死んでない〜!!」

 七瀬の言葉を無視してグリフォン目掛けて突貫するAIR一号機。

 そんなAIR一号機の突進をグリフォンはヒョイとかわした。

 「わっ、わっ、わぁ〜!!」

 グリフォンの姿を見失い、思わずあわてるみさき。

 そしてみちるはそんな隙をも逃してあげるほど甘くはなかった。

 「必殺、ジャイアントスイーング〜!!」

 プロレスでは足を持ってぐるんぐるんぶん回して投げるその技だがさすがにレイバーをそうやって

 投げ飛ばすのは無茶とみえ、代わりに右手をつかむとグルングルングルンとぶん投げた!!

 「わぁああ〜!!」

 「ちょ、ちょと待ちなさいよ〜!!」

 ぶん投げられたAIR一号機を、立ち上がりかけたAIR二号機は避けようがなかった。



 ドガァーン!!



 二機は激しく衝突するとそのまま慣性の法則に則って後方へと吹っ飛ぶ!!

 「「「危ない!!」」」

 思わず同じことを叫ぶ由起子さん・雪見・浩平の三人。

 絡み合ったAIR二機はマンションの一棟へ突っ込んでいったからだ。

 このマンションの中にはまだ避難していない住民がいるのだ。

 このままではとんでもない大惨事になってしまう!!

 この状況を回避すべくAIRに初めて搭載され、そして運動性の大幅な向上に寄与していたニューロン・

 ネットワーク・システムが操縦者の意図しない行動に出た。

 AIR二号機は限界を超えて踏ん張り、一号機共々マンションへと突っ込んでしまうことを回避したのだ。

 このため予想された惨事は回避された。

 だが限界を遙かに超えたパワーを発揮したAIR二号機は無事では済まなかった。

 機体中に搭載されたアクチュエーターや各種センサー・駆動モーターが過負荷に耐えかねショートしたのだ。



 バチ バチバチバチ ボォン バヒュン!!



 AIR二号機の関節という関節から火花が飛び散り、そしてAIR二号機は大地に崩れ落ちた。






  「七瀬さん、大丈夫!?」

 由起子の言葉に七瀬は頷いた。

 「大丈夫!! ただ機体の方はもう動かない!」

 「脱出できる!?」

 「はい、何とか!!」

 七瀬の言葉に頷いた由起子さんは甥であり、部下である浩平に指示した。

「浩平、七瀬さんを救助して!!」

 「了解!!」








  その様子を双眼鏡でじっと見ていた佐祐理さんはにっこり笑った。

 「あはは〜、そう言うことですか〜♪」

 そして対ECM対策の施した特注の軍用無線機を手にするとグリフォンコクピット内のみちるを呼び出した。

 「みちる、聞こえますか〜♪」

 『ばっちり聞こえるわよ』

 「それでは佐祐理からのワンポイントアドバイスです〜♪

 建物を背にして闘うと良いことありますよ〜♪」

 『え〜、それじゃあ思いっきり動けないよ〜!!』

 不満を漏らすみちるに佐祐理さんは優しく諭した。

 「どうもその新型さんは周りの建物に被害を与えないように作られているみたいなんですよ。

 みちるがどうしても嫌だ、っていうんなら佐祐理は別にかまいませんけどそうするとKanonとの一戦は

 お流れしちゃうかもしれませんよ〜♪」

 『えっ〜!? どうしてよ〜!?』

 「それはグリフォンの修理には時間がかかるからですよ♪

 というわけでKanonとやりたかったら佐祐理の言うことはちゃんと聞きましょうね〜♪」

 『うにゅ〜、わかったわよ〜』

 前回の借りは必ず返す。

 Kanonへのリベンジを誓っているみちるは仕方が無く佐祐理さんの指示に頷いた。

 『建物を背にして闘えば良いんでしょ』

 「はい、そうしてください♪」

 みちるがちゃんと指示に従ったのを確認すると佐祐理さんは再び双眼鏡をのぞき込んだ。

 「それにしてもせっかくの機体の性能がもったいない使い方です♪

 まあ失敗が大幅減点になる警察らしいといえば警察らしいんですけどね」

 そしてもう一つ思い出した佐祐理さんはみちるに指示した。

 「Kanonとのリターンマッチで邪魔されないようにしばらくは再起不能にしておくんですよ〜♪」






  「うにゅ〜、建物を背に、建物を背に」

 AIR一号機の攻撃をバックしながら避け続けるグリフォン。

 やがてグリフォンの背後にマンションの巨大な建物が迫ってきた。






  「もう逃げ場はないんだよ〜」
 
 グリフォンを追いつめたと思ったみさきはコクピット内で笑った。

 「留美ちゃん、詩子ちゃんの仇は私がとるよ〜」

 『みさき、一気にやっちゃいなさい!!』

 「任せてよ!!」

 相棒の雪見の言葉にみさきは頷くと気合いを入れた。

 そして左腕に装着されているシールドで殴りつけようとし、そしてその動きが止まった。

 「何で!? 何で言うことを聞かないの!?」

 『どうしたの、みさき!?』

 雪見の言葉にみさきは慌てたように叫んだ。

 「黒いレイバーに攻撃できないよ〜!!」

 『攻撃できない!? まさか!?』

 指揮車の雪見、そして小隊指揮車の由起子はほとんど同時に気が付いた。

 『ニューロン・ネットワーク・システムのせい!?』

 『くっ、こんな時に!!』

 それは周囲に被害を与えないよう教育されたニューロン・ネットワーク・システムのせいであった。

 AIRが導入されてから三ヶ月もの間、周囲に被害を与えないように運用されてきたAIR。

 それは消して間違いではなかったかもしれない。

 だがこのような状況下……周囲の建物を盾にされると途端に動けなくなってしまうという問題点を

 抱えていたのだ。

 「どうしよう、雪ちゃん〜?」

 『くっ』

 雪見は唇をかんで考え込み、そして決断した。

 『みさき、ニューロン・ネットワーク・システムをシステムから切り離しなさい!!』

 「えっ、で、でも……」

 『いいから切り離しなさい!! スピードを犠牲にしてもやむ得ないわ。このままじゃいい的よ!!』

 みさきの懸念は十分に理解していた。

 今までニューロン・ネットワーク・システムの助けを借り、Kanonを圧倒的に上回る運動性を発揮してきた

 AIR……だがその助けを得られない……おそらくはKanon以下、いやONE以下の運動性能になるであろう。

 しかしニューロン・ネットワーク・システムを切り離さないとそれ以下の運動性能ですら発揮できない

 のである。

 苦渋の選択ではあるが、指揮者として雪見はこの決断を下さざるを得なかったのだ。

 「ニューロン・ネットワーク・システムを切り離した。行くよ!」

 みさきはニューロン・ネットワーク・システムを切り離すとグリフォンに組み付いた。






  「なんだかさっきまでとは別の機体だよ」

 みちるは目の前のAIRの動きを見てそう呟いた。

 ほんのちょっと前までグリフォンほどではないにしろ、かなりの動きを見せていたAIR。

 それが今や小さな子供のような覚束ない足取りでグリフォンに組み付いてきたのだ。

 「まだ旧式レイバーの方が歯ごたえあるわよ〜」

 もはやこの状況のAIRはみちるの興味を誘う存在ではなかった。

 もはや敵でも何でもない、ただの障害物に成り下がったのである。

 「それじゃあさっさと片づけてゲームしよっと」

 つまらなそうに呟いたみちるはAIRに一気に襲いかかった。





  「くっ! ニューロン・ネットワーク・システムを切り離したAIRの動きがこんなに鈍いなんて……」

 みさきは愛機のあまりに鈍すぎる動きに思うように動けないでいた。

 ニューロン・ネットワーク・システムを使わないAIRはKanonとほぼ同等の運動性のはずだ。

 しかしニューロン・ネットワーク・システムに頼り切っていたためそのサポートが受けられなくなって

 しまうともはや動かすのがやっと、とても使いこなすどころの話では無くなってしまったのである。

 だがみさきは警察官、目の前の犯罪者を取り押さえるのが仕事なのである。

 「負けないよ〜!!」

 必死に取り押さえようとする。

 だがもはやAIRは黒いレイバー……グリフォンの敵ではなかったのだ。

 

  バァキーン!!


  シールドごと左腕をへし折られる。

 そして支えを失い、バランスを崩して倒れ込んだAIRに覆い被さるとグリフォンは頭部目掛けて殴りつけた。



  ダァーン!!



  頭部が粉々に粉砕され、AIRのセンサー系統がほとんど死んだ。



  「必殺、コブラツイスト!!」



  ズギャーン!!  ガチャーン!!



 残った右腕と、そして左足を関節部から破壊されたAIRはもはや抵抗する術もなくなってしまった。

 AIR二号機・三号機の後を追うように大地へと崩れ落ちる。




  「みさき!!」

 「川名さん!?」






  「あはは〜、やっぱりグリフォンは強いですね〜♪」

 「佐祐理が勝つのは当然……」




 「勝利、V!!」








  かくしてグリフォンと第一小隊との決戦は前者へと軍配があがったのであった。














あとがき
戦闘シーンが手抜きくさいですが勘弁してください。

やっぱり難しいですな〜。


2004.04.04

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