機動警察Kanon 第189話






「いったい何が起こっているの?」

 事態を把握出来ない由起子さんは呆然としたようにつぶやいた。

 突如、闇夜に響いた銃声と爆音。

 そして立ち上る白煙と電波障害。

 つい先ほどまで異常が全く無かっただけにとっさに思考の切り替えが出来ないでいたのだ。

 そこへ一号指揮者の深山雪見巡査部長が指揮車で寄って来た。

 「隊長!! 一号機を起動させました。応援に駆けつけてよろしいでしょうか!?」

 「そ、そうね……」

 ここでようやくと自分のやるべき事を思い出した由起子さんは直ちに決断を下した。

 「深山さん、一号機の指揮頼むわよ」

 「みさきの指揮は任せてください。四捨五入すれば二十年来の付き合いなんですから」

 「それは頼もしいわね。…ところで二号機はどうしたかしら?」

 三号機に気を取られていてすっかり忘れていた二号機に思いをはせた由起子さん。

 すると雪見が笑った。

 「七瀬さんと折原くんの二人がこの事態にのんびりしているはずがありません。

 今頃は全力で三号機の支援に向かっているはずです」

 「それもそうね」

 雪見の言葉に由起子さんは頷いた。

 「油断するとは思えないけど連絡入れておいた方が良いわね」

 二号機クルーに指示を与えようと小隊指揮車の無線のマイクを手に取る由紀子さん。

 その時、無線の向こう側から電波障害によるノイズ混じりではあるが聞き覚えのある小さな声が流れてきた。

 『ガァー隊長……応答……います…ピィー願います……』

 「里村さん!?」

 連絡が取れないでいた里村茜巡査の声に由起子さんは思わず声を張り上げた。

 「里村さん、いったい何があったの!? 柚木さんは大丈夫!?」

 『…ザァー…詩子は大丈夫ガァーただザァアアー銃が奪われて……』

 「銃が奪われた!? それじゃあ犯人は銃で武装しているのね」

 『ァアーその犯人…ザァー黒いレイバー…ガァー

 「黒いレイバー!?」

 茜の報告に由紀子さんはびっくり仰天した。

 「黒いレイバーって第二小隊とやり合ったあの黒いレイバーなの!?」

 『…おそらくは…ザァー

 「まさか……」

 黒いレイバーは東京湾に沈んだはず……。

 だが

 「怪獣騒ぎの時に水瀬巡査が見たのは本当に黒いレイバーだったの!?」

 深山巡査部長の言葉に由紀子さんは思い出した。

 黒いレイバーと覚しきレイバーが若狭水門に姿を現したこと。

 そしてその際に強力な電波妨害と煙幕を張り逃走したことを……。

 「深山さん、速やかに川名さんを指揮して二号機と合流してちょうだい!!」

 「わかりました!!」

 一を聞いて十を知る深山巡査部長なだけに由起子さんの意図を掴むとそこからの行動は素早かった。

 「みさき、行くわよ!!」

 『ゆ、雪ちゃん待ってよ〜!!』

 指揮車に乗り込むと一号機を引き連れ、白煙の立ち上る場所へと突き進んでいった。

 



  「…まだ黒いレイバーとはやりあっていないでちょうだいね……」

 由起子さんは祈るような思いで二号機クールを呼び出す。

 しかしマイクからは聞き慣れた甥の言葉は流れてこない。

 『ガァアアアアアー  ザァアアアアアー ピィイイイイイイー

 ただ電波障害によると思われるノイズ音が響いてくるだけだ。

 「もう黒いレイバーと接触しているの?」

 ニューロンワークシステムを搭載したAIRはKanonより高性能。

 ならばKanonと相打ちだった黒いレイバーよりもAIRの方が高性能なはず。

 だが由起子さんは一抹の不安を感じずにはいられなかった。

 「…今更手遅れかもしれないけど……」

 それでもやるべき事は行わなくてはならない。

 「第一小隊より特車二課へ。佃島に黒いレイバーが出現した。増援を頼む。

 繰り返す、佃島に黒いレイバーが出現した。増援を頼む」

 増援にくるはずの第二小隊の面々はすでに終業、今頃はどんちゃん騒ぎのはずだ。

 さっき嬉しそうに話していた第二小隊の面々の顔を思い浮かべながら由起子さんはため息をついた。

 「…どっちにしても間に合わないわね」

 







  そのころ話題の第一小隊二号機クルーは周囲の異変を気にもせずに白煙の立ち上る地点へと全速で

 向かっている最中であった。

 「折原!! 三号機と連絡は取れたの!?」

 七瀬の言葉に浩平は首を横に振った。

 「うんにゃ、いまだに連絡とれないぞ。なんせ電波障害が酷いからな」

 「まったくうざったいわね!!」

 「同感だな。三号機だけでなく由起子さんとすら連絡が取れないぞ」

 「こんなに近くにいる指揮車とすら無線連絡がきかないのはどういうわけよ!?」

 「俺に聞くなよ!!」

 だんだん酷くなる電波障害にもはや無線機は役に立たない。

 仕方が無く、肉声で怒鳴りあって連絡しあっている二人はもうのどが痛くて仕方がなかったのだ。

 だがそんなやりとりももう終わりだった。

 白煙が立ち上る、明らかに異変が起こっているその場所にたどり着いたからだ。

 「とりあえず油断はするなよ!!」

 「誰に向かって言っているのよ、誰に向かって。あたし、七瀬なのよ!!」

 「その様子なら大丈夫そうだな!」

 「当たり前よ!!」

 狭いコクピット内で胸を張って威張る七瀬、だがすぐにきっと表情を引き締めた。

 「一体何が起こっておるの?」

 「それを調べるんだろ」

 「そうね」

 七瀬は頷くとAIRの左腕に装着されているスタンスティックを引き抜くと巨大な盾を機体の前にかざした。

 「折原、死角の警戒頼むわよ」

 「任せておけ」

 普段は七瀬をからかって遊ぶ浩平も任務中は真面目に仕事をする。

 「それじゃあ行くわよ」

 「それは俺の台詞だ」

 そして一機と一台は白煙の中へと突入していった。

 その先に待ち受けるものが何かも知らずに……。













あとがき
今回もとっても短くてすいません。

もう少し長くしても良いんですが区切りがちょうど良かったので。


2004.03.21

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