機動警察Kanon 第188話










  遠くから街の喧噪が聞こえてくる以外は静まりかえった団地の中。

 特車二課第一小隊のAIR三号機は周囲を警戒しつつ、目標を捜索していた。



  


  「茜、何か見つけた?」

 姿の見えない敵を探すのに飽きた柚木詩子巡査は指揮車にいる相棒の里村茜巡査に声をかけた。

 だがその返事は実にあっさりしたものであった。

 『何も見つかっていませんよ、詩子』

 「どこにいるんだろうね」

 『それを探すのが私たちの仕事です』

 「茜ったらいけずなんだから〜」

 『……無駄話するんでしたら無線切りますよ』

 ちょっとだけむっとした茜の声に詩子は慌てた。

 「わっ、冗談だって」

 『でしたら真面目にしてください』

 「はぁ〜い」







  そんな二人の姿をグリフォン搭乗のみちるは見ていた。

 「ねえ、佐祐理。肩に3って書いてあるのが近づいてくるけど」

 すると佐祐理さんにしては珍しく返事が遅れた。

 『…ごめんなさい、みちる。もうちょっとゲーム開始は待ってくださいね♪』

 「え〜、何で〜」

 『もう一機のAIRとの距離を稼ぎたいんですよ。同時に複数の機体は相手にしたくないですからね』

 「別に一機や二機のAIRなんかみちるがちょちょいのちょいで簡単に片づけられるわよ〜」

 腕に自信があるみちるは佐祐理さんの言葉に唇を尖らせて抗議する。

 だが百戦錬磨な佐祐理さんにまだ乳臭いみちるが叶うはずもなかった。

 『みちるがどうしてもやりたい、って言うなら好きにしていいですけどもしグリフォン壊したら

 Kanonとは一戦やれませんよ』

 「ど、どうしてよ!?」

 慌てたみちるが聞き返すと佐祐理さんがいつものように朗らかに答えた。

 『あはは〜♪ それはもちろん修理に必要な部品一つだって極秘に調達しなければいけないんですからね。

 F1レースみたいにピットインしてパパパパッと簡単にいくわけではないんですよ〜♪』

 「何とかならないの!?」

 『残念ながらならないんですよ♪ 人には言えない企みは手間と時間がかかりますね〜♪』

 「……素直に待てばいいんでしょ」

 『はい、そうしてください♪』

 佐祐理さんに負けたみちるは渋々頷くとAIR三号機に襲いたがる気持ちをぐっとこらえた。

 「早くしなさいよ〜」





  そうこうしているうちにAIR三号機はみちるの乗るグリフォンの目の前を通り過ぎていく。

 「佐祐理、まだなの!? あいつ行っちゃうよ〜!」

 するとやっとみちるの望んでいる指示が飛び出した。

 『はい、それでは始めていいですよ、みちる』

 「本当!?」

 『本当です。でも手早く片づけてくださいね。まだ二機のAIRが残っているんですから』

 「さっさと一面クリアするんだから心配無用よ」

 みちるはそう言うとグリフォンを起動させた。







  「熱源!?」

 突然、背後に現れたレイバーと覚しき熱源に詩子さんの駆る三号機は慌てて振り返った。

 「茜、確認できる!?」

 『目視は出来ませんがこちらでもサーモグラフィで確認しました』

 指揮車でも確認しているのだから誤認ではあるまい。

 詩子さんはAIRをすっぱり覆ってしまうほど巨大な盾を機体前にかざすと警告を発した。

 「そこのレイバーの搭乗者は機体を停止して速やかに出頭しなさい!! 

 繰り返します、そこのレイバー……」

 その詩子さんの警告は最後まで語られることはなかった。




  バウッ!!  バウッ!!




  突然の爆発音とともにモニターの向こう側が真っ白な煙に覆われたのだ。

 

  「な、何なのよ!? 茜!!」

 詩子さんは思わず状況確認のため相棒の茜に呼びかける。

 すると

 『…ガリ ガリわかりません  ガリ ザァア 注意して……ザァアア

 というノイズ混じりのか細い茜の声だけだったのだ。

 「何が起こっているのよ?」

 よくよくコクピット内の計器をチェックしてみればそのほとんどが正常に動作していない。

 かなり強力な妨害を食らっているようだ。

 とにかく状況を判断するのが先と判断した詩子さんは役に立たないセンサーを無視してコクピットを上げ、

 有視界に切り替える。

 そしてそんな詩子さんが目撃したのは黒いレイバー……グリフォンの姿であったのだ。



  「う、嘘でしょ!?」

 予想だにしていなかった遭遇に詩子さんの思考が止まってしまう。

 そしてそんな一瞬の隙を見逃すようなみちるではなかった。




  「一瞬の隙が命取りになる、ってことをみちるが教えてあげる!!」

 そしてみちるの駆るグリフォンはまるで生き物のような俊敏な動きでAIR三号機に襲いかかった。





  「詩子!! 気をつけて!!」

 襲いかかるグリフォンの姿に茜は慌てて詩子に警告する。

 ノイズ混じりの茜の警告……だがそれはすでに手遅れであった。

 詩子さんが一瞬だけ見せた隙……そのわずかな隙さえあればみちるの駆るグリフォンには十分だったのだ。

 あっという間に3号機に襲いかかったグリフォンはそのまま強力なパンチを頭部にはなった。

 たちまち高額で精密なセンサー系が何の価値もないゴミと化す。

 「詩子!!」

 相棒であり親友である詩子の身を案じて思わず叫ぶ茜。

 だがすぐに自分のやるべき事を思い出し、無線機のマイクを手に取ると叫んだ。

 「隊長!! 奴です、黒いレイバーが姿を現しました!!」

 『ガァアガァア ピィイイー ザァアアー ピィイー

 だが無線機から反ってきたのは無情なまでのノイズ音のみであった。

 100mも離れていない3号機との交信は何とか出来ても、それ以上遠くに離れた小隊指揮車とは妨害が酷く

 交信が全く出来なかったのだ。

 そうこうしているうちに3号機はズタボロにされ、団地の壁に寄りかかるように崩れ落ちていた。



  「詩子、大丈夫ですか!? 詩子、聞こえますか!?」

 必死になって呼びかける茜。

 するとノイズ混じりではあるが何とか詩子さんの返事が返ってきた。

 『ちょガァーとクラクザァアーるけど大丈夫……でも機体の方ピィイイー無事でないザァーかも……』

 いつもならば弱音を吐かない詩子が弱音を吐いている?

 指揮車から半身出し、3号機の状態を確かめた茜は決断を下した。

 「詩子、銃の使用を許可します!」

 『銃ザァー発砲ガァー可!?』

 「撃ってください!」

 『…了…解…』

 茜の叫び声に反応してか、3号機は左脇に収納している37mmリボルバーカノンを取り出すとグリフォンに

 銃口を向けようとする。

 だがグリフォンの方が動きが早かった。

 リボルバーカノンを手にした3号機の右手を左足で蹴飛ばす。

 これにはたまらず3号機はリボルバーカノンを取り落としてしまった。

 「詩子!!」

 『やば…か…も!』

 やばいかもではなく、本当にやばかった。

 3号機が取り落としたリボルバーカノンをグリフォンは素早く拾うと3号機にその銃口を向けた。

 「詩子、脱出して!!」

 『OK!!』

 コクピットハッチが緊急解放されてパイロットの詩子さんが慌てて転がり出てくると同時にグリフォンは

 リボルバーカノンのトリガーを引き絞った。




 ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ




  至近距離から放たれた37mm弾四発はAIR3号機に余さず命中した。

 頭部・胸部……上半身に集中的に命中したAIR3号機はたちまちその動きを止めてしまった。





  そして銃声は3号機とともに謎のレイバーを捜索していた2号機クルー、そして佃島に入ったところで待機

 していた小隊指揮車と1号機クルーの元にも響いた。





  「何が起こったの!? 里村さん、応答しなさい!!」




 「みさき、1号機に乗り込みなさい!!」

 「わかったよ、雪ちゃん!! 澪ちゃん、お願い!!」

 『任せるの!!』





  「急ぐわよ、折原!!」

 『おい七瀬、俺の指示を待てって!!』






  かくして事態はますます第一小隊にとって悪い方へと突き進むのであった。









あとがき
一ヶ月ぶりの「機動警察Kanon」です。

PCが不調だったり私の身体が不調だったりしてお休みさせてもらいました。

で、再開一発目ですが……すいません、中途半端なところで終わってしまっていて。

とはいえ区切りのいいところまで書くととても長くなりそうですので勘弁してください。

とりあえず一話あたりを長くするのは困難な状況ですので出来るだけ早く更新したいなと……。

まあ前もそんなこと書いておいて一ヶ月も待たせてしまったわけですが。

それでも見捨てずに暖かく見守ってくれるとうれしいな、と思ってます。


2004.03.14

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