機動警察Kanon 第187話










  「イチゴイチゴイチゴ〜♪ やっぱりタダ飯はおいしいよ〜♪」

 「追加注文お願いします♪」

 「頼むからオーダーストップしてくれ〜!!」

 「ヒック……うぐぅ、なんでボクは出番少ないんだよぉ……」

 「ビールおかわり!!」

 「真琴、お酒はほどほどにしなさい」

 第二小隊の面々が名雪の誕生会兼数日遅れのクリスマスを祝っているちょうどそのころ。

 東京は佃島にて異変が起こりつつあった。





  「ふぃ〜、寒いな〜」

 小さな漁船の上で男は寒さに打ち震えながらつぶやいた。

 冬、まして水の上、寒さは半端なものではないのだ。

 「昨日は不漁だったから今日は獲れると良いんだが……」

 船縁に座り、進行方向を見つめながら願望を口にする男。

 だがその時突然彼の漁船が大きく揺れた。

 「な、何だ!?」

 あわてて手すりにつかまり、冷たい冬の海に落ちるのをこらえる男。

 その時、舷側を波が叩いた。

 何か巨大なものが水中を高速で突き進んでいたのだ。

 「か、怪獣か!?」

 ほんの数ヶ月前の大騒ぎを思い出し男は自分が襲われるのではないかと青ざめた。

 しかしその何かは男の前に姿を現すことなく闇へと消えていった。

 「な、なんだったんだ?」






  そしてそれから数分後の特車二課。

 そこでは出動を告げるサイレンと命令がやかましいぐらい鳴り響いていた。



 『第二管区佃島にて所属不明のレイバーが出現。第一小隊出動せよ!!

 繰り返す、第二管区佃島にて所属不明のレイバーが出現。第一小隊出動せよ!!』



  「みさき、晩御飯は後回し!! 出動するわよ!!」

 「あぁぁあああ〜、カツカレーが……!! 雪ちゃん、酷いよ、極悪人だよ〜!!」

 「誰が極悪人よ、誰が!!」

 『部長、出動準備OKなの』



  「茜♪ 帰りにコンビニ寄って行こうよ。今日のお夜食無いんだ♪」

 「…時間がありましたら構いません」

 「やったね♪ 繭ちゃんはどうする?」

 「みゅみゅみゅ〜♪」



  「無許可で夜間にレイバーを動かすなんて太い野郎ね。乙女七瀬が正義の鉄槌を下してあげるわ!!」

 「いよっ、漢七瀬! 日本一!!」

 「何で漢なのよ!?」

 「二人とも出動前だよ〜!!」



  「これでどうして第二小隊より第一小隊の方がエリートなのか不思議ね」

 「言わないでちょうだい、美坂さん……」



  いつものように賑やかに第一小隊は佃島に向かって出動した。





  「状況はどうなっていますか?」

 現場に到着した由起子さんが尋ねると、現場で指揮を執っていた巡査部長は困った表情を浮かべた。

 「それがその……ようわからんのですよ」

 「ようわからんって……通報があったのでは?」

 「ええ、それも複数…。

 夜間作業の届けも出ておりませんしテロかと我々も思ったんですが今のところ被害は出ておりません」

 「被害は出ていない……テロではないのかしら?」

 「そうかもしれませんな。

 どこかの建設会社がちょっとぐらい良いだろう、って動かして大騒ぎになったのかも…」

 「その線が濃厚ですね」

 現場の状況に由起子さんは頷かざるを得なかった。

 テロなら今頃は火災なり爆発が起こっているものだ。

 それが街灯の明かりしかない……あまりに状況が平和すぎたのだ。

 「住民の避難は済んでいますか?」

 「すでに屋外に出ないよう通達してあります」

 巡査部長の言葉に由起子さんは決断を下した。

 「二号機・三号機起動!! 目撃地点を挟み込むように捜索しましょう」

 「一号機は良いんですか?」

 自分たちの出番がないことに深山雪見巡査部長が確かめると由起子さんは頷いた。

 「ええ、一号機は現状のまま待機するように」

 「…それは例の噂が関係しているのですか?」

 雪見もどうやら第一小隊が二機+予備機編成になるらしいという噂を聞いていたらしい。

 探るように尋ねてきたので由起子さんは頷いた。

 「噂ではなくて本当にそういう働きかけが上から来ています」

 「それじゃあ……」

 「よほどのことがない限りは来年度からそういうふうになるわね」

 「そうですか……」

 多少の覚悟はしていたが正面切って言われるとショックがあるようだ。

 「深山さん、あなたらなら大丈夫よ。川名さんや上月さんも一緒なんだし。

 それよりも不安なのはこっちなのよ。一号機のクルーがいなくなった事態を想像すると頭が痛いわ。

 第二小隊を笑えなくなってしまうかもね」

 「そうかもしれませんね」

 苦笑しながら頷く雪見。

 そうやら彼女も由起子さんと同じように考えていたのであろう。

 「だからあの子達の自立も兼ねてしばらくは楽させてあげるわよ」

 「楽できるのはうれしいんですけどね」

 「必要になればこき使うから」

 由起子さんがそこまで言ったとき、AIR二号機・三号機がデッキアップ、動き始めた。

 「あ〜あ〜、小坂だけど聞こえるかしら?」

 無線機を手に、各指揮車に連絡する由起子さん。

 すると即座に折原浩平。里村茜両巡査の返事が返ってきた。

 『二号指揮車、どうぞ』

 『三号指揮車、いけます…』

 「二号機は西より運河に沿って捜索。

 三号機はそのまま直進、二号機と目撃地点で合流できるように捜索してちょうだい。

 今、どこに潜んでいるのかわからないんだから注意してね」

 『二号了解。…七瀬、聞こえたな。行くぞ』

 『三号了解。詩子、行きますよ』

 一号機クルーと二機キャリアを残して二機のAIRと指揮車は何事もないように闇の中へと消えていった。

 その先にはとんでもない悪夢が待っているとも知らずに……。





  「佐祐理、第一小隊が到着した。二機が二手に分かれてグリフォンに接近中」

 「あははは〜、二機ですか? もう一機はどうしたんです?」

 「出動はしているけど動いていない」

 「どうやってAIR三機を調理してあげよう、って思っていたんですけど天佑ですね。

 これも日頃の良い行いのおかげです♪」




  AIRとグリフォンの戦いは刻一刻と迫る。

 そのことを佐祐理さんは知っていたが、由起子さんは知るべくもないのであった……。





あとがき
勤めに出るようになったので時間の関係で一話あたりが短くなってしました。

また更新は早くても週一ぐらいかと……。

まあそんなわけですのでご勘弁のほどを。



2004.02.15

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