機動警察Kanon 第186話
「ピカピカに磨いてあげるね〜♪」
つなぎ姿でKanonに乗っかり、雑巾できれいに磨く名雪。
そんな名雪の姿を見た祐一はつぶやいた。
「最近けろぴーを磨いてばかりじゃないか、あいつは」
すると隣の栞が笑った。
「良いことだと思いますよ、祐一さん。私たちが暇ってことは良いことなんですから」
「それはまあそうだが……」
口ごもる祐一に栞は続ける。
「第一小隊のAIRが大活躍で最近は出動もほとんど無いですからね。
一年以上第一線でこき使っていたんですし、ピカピカに磨いてあげるのもいいんじゃないですか」
「はいはい、俺の負けだよ」
祐一はお手上げ、といった感じで両手をあげた。
「確かに昼寝するよりはマシだな」
「一応、お仕事しているように見えますからね」
「……俺たちも手伝うか?」
「それも良い考えですね」
「それじゃあ……お〜い、名雪!!」
祐一が声をかけると名雪は手を休め、聞き返してきた。
「何、祐一〜!?」
「けろぴーを磨くのを手伝ってやるよ」
すると名雪はうれしそうな笑みを浮かべた。
「本当に!? ありがとう〜!!」
「どうせ暇だからな。…これで磨けばいいのか?」
傍らに置いてあった布きれを手に名雪に聞く。すると名雪はうなずいた。
「うん、それだよ。でもそのままだと制服汚れちゃうから着替えた方が良いと思うよ」
「それもそうですね」
「じゃあ着替えるか」
名雪と同じつなぎに着替えに更衣室へ向かおうとする二人。
とそこへオフィスからあゆが顔を出して叫んだ。
「名雪さ〜ん、電話だよ〜!!」
「わたしに!? 誰からかな?」
「え〜っとよくわからない……」
「おまえは電話の受け答えも出来ないのかよ!」
「うぐぅ……」
祐一につっこまれてへこむあゆ。
そんな二人のやりとりを笑顔で見ていた名雪ではあったが、電話をかけてきている人がいるのを思い出し、
あわててけろぴーを飛び降るとオフィスへと駆け込んだ。
「はい、電話」
「ありがと、あゆちゃん」
あゆから受話器を受け取ると名雪は電話に出た。
「はい、水瀬ですけどどちらさまでしょうか?」
『みちるよ、みちる』
少女の声に名雪は首をかしげた。
「え〜っとどちら様でしたっけ?」
『覚えてないの!? ゲーセンで一緒に遊んだ』
「あ〜、あの時の!! ずいぶん久しぶりだね」
ずいぶん前に出会った少女の若干怪しい記憶を呼び戻しながら名雪はうなずいた。
『ずいぶん前の話だし無理もないんだけどね』
「一年ぐらい前だよね。どうかしてたの?」
『みちる、海外へ行ってたからね』
「海外!? いいな、わたしまだ海外旅行行ったことないんだよ〜」
『みちるは世界中あちこちの国に行ったもんね〜!!』
「いいな、うらやましいな〜」
『でしょ〜』
二人はしばらくの間どうでも良い話題で盛り上がった。
「そういえばどういう用件だったの?」
ふと我に返った名雪が尋ねるとみちるは逆に尋ね返してきた。
『あれ? まだ言ってなかったけ?』
「言ってない、言ってない」
『それは……』
言いかけたところで止まってしまう。
「どうしたの?」
すると今まで元気よく話していたみちるは声を細めて言った。
『また遊ぼうね、じゃあ』
ガチャン
「切れちゃった……」
いきなり切られた電話に名雪が呆然としていると電話が気になったのかあゆが話しかけてきた。
「誰からの電話だったの? 業者とかじゃないよね?」
ちゃんと相手を聞き出さなかったので責任を感じているようだ。
「え〜っと前に話した天才ゲーム少女からの電話だったんだけどまた遊ぼうって……」
「名雪さん、気に入られたんだ」
「何だったのかな?」
何で電話してきたのかわからない名雪は当惑する。
しかし
「まあ良いよね。それよりけろぴーを磨いてあげよ♪」
あっさり考えるのを止めた名雪はハンガーへと走っていったのであった。
そして同時刻のさんぐりあ号の船室。
「みちる〜、誰と電話していたんです?」
佐祐理さんがみちるを問いつめるとみちるは開き直った。
「別にどこだって良いでしょ」
「あはは〜っ、ちょっとは自重してくださいね。今夜パーティーなんですから」
「今夜!? 自重する自重する!!」
あっさり態度を変える現金なみちるに佐祐理さんは笑いつつ、後ろに控えている美凪に指示した。
「そういうわけですから美凪さん、みちるの体徹底的に調べ上げてくださいね〜」
「ぽっ」
「美凪〜、何でそこで顔を赤らめるのよ〜!!」
「それはですね、みちる」
「言わなくても良い、言わなくても良い〜!!」
「それじゃあ美凪さん、健康診断よろしくお願いしますね〜」
「はい…」
「ちょ、ちょっと佐祐理待ちなさいよ〜!! み、美凪だめ〜!!」
「検査受けないとグリフォン乗せてあげませんからね〜♪」
「そ、そんな〜!!」
「はぁ〜今日は疲れた」
「まったく重労働だったぜ」
「疲れました」
バス停の前のベンチに腰掛け名雪・祐一・栞が口々に言うと真琴はつまらなそうに言った。
「ただKanon磨いていただけじゃない。あんたたちは仕事をなんだと思っているのよ」
「ま、真琴ちゃん……」
あゆは真琴を止めようとするがそんなことを気にする真琴ではなかった。
「いくら暇だからって他にすることがあるでしょ。たとえば……」
「37mmリボルバーカノンを磨くことがか?」
「な、なによ!! 真琴のやることに文句あるの!?」
「別に…ただ他にやることならあるんじゃないかと思ってな」
「あう〜っ」
自分の言葉がそっくり返ってきて言葉が詰まる真琴。
何とかして反論しようとするも言葉が出てこず、困ったあげく美汐に泣きついた。
「美汐〜!!」
「自主訓練、言ってくれれば付き合いましたよ」
「良かったな、真琴。明日血の小便が出るまで訓練できるぞ」
「よかったですね、真琴さん」
「そんなのイヤ〜!!」
真琴の心からの叫びに五人は笑うのであった。
「それにしても今年の年末は平和でよかったよね」
未だに来ないバスを待ちながら名雪はぼそっとつぶやいた。
「今年? 去年は何かあったっけ……ってそう言えば黒いレイバーか」
「うん。ちょうど一年だよ」
黒いレイバーが初めて彼らの前に姿を現したのは去年の12月23日……もう一年も前なのだ。
「そっか……ってそう言えば名雪、お前一つ年老いたな」
「ゆ、祐一酷いよ!!」
祐一の言葉に名雪が叫ぶ……がそれだけでは済まなかった。
「祐一さん、酷いです!!」
「祐一くん、極悪だよ!!」
「そんな酷なことはないでしょう」
「許さないんだから!!」
女性に年齢の話は御法度なのだ。
ましてほとんど同年代で誕生日も比較的近いので尚更なのである。
「わ、悪かったって!!」
あわてて祐一は弁論したがもはや手遅れであった。
「ごめんで済んだら警察はいりませんよね」
「そうだよね〜」
「損害賠償よ!!」
「祐一、イチゴサンデー……」
「誠意を見せなくては行けませんね」
栞・あゆ・真琴・名雪のみならず美汐まで祐一非難に回っているのだ。
祐一にもはや抵抗するすべはなかった。
「…名雪の誕生日パーティーは俺がおごってやる……」
「やった〜♪ イチゴ尽くしにしよ〜♪」
「ご相伴にあずからせていただきます♪」
「タダ飯って最高においしいわよね♪」
「名雪さん、誕生日おめでとう〜♪」
「俺のボーナスが…俺のボーナスが……」
ウルウルと涙をながず祐一に美汐は優しい笑顔で声をかけた。
「相沢さん……」
「天野…お前……」
「ご馳走になります」
「天野よ、お前もか!!」
というわけでバスが来るなり第二小隊の面々は祐一のおごりで夜の街へと繰り出すのであった。
「乾杯〜♪」
「名雪さん、誕生日おめでとう〜♪」
「おめでと〜♪」
「ついでにメリークリスマスも行きましょう」
「みんなありがと〜♪ とくに祐一がね」
「うるせえ〜!! そう思うんなら少しは勘弁してくれよ〜!!」
「それとこれとは別ですよ、祐一さん」
「だよね〜」
「おいしい〜。とくに祐一のおごりだと思うとよけいにおいしい〜♪」
第二小隊の面々が和気藹々と宴会に興じているちょうどその時。
さんぐりあ号船上では状況が開始させようとしていた。
「あはは〜、みちるの体調はどうですか?」
佐祐理さんの質問に美凪はこくんとうなずいた。
「ばっちしカンカンです。いつでも行けます」
美凪の言葉に佐祐理さんはうれしそうにうなずくと今度は舞に尋ねた。
「舞〜、グリフォンの準備はOKですか?」
「…いつでも行ける」
「みちる、シナリオとマップは頭に入ってますか?」
最後の確認をみちるにする佐祐理さん。するとみちるは力強くうなずいた。
「最終面までばっちにに決まっているわよ〜!」
「あはは〜、頼りがいある言葉ですね♪ まずは一面、それをクリアしないといけませんよ」
「まかせなさい〜!」
みちると佐祐理のやりとりを聞いていた舞は口を開いた。
「佐祐理、そろそろ客の元に行かないと…」
「あはは〜、了解です。それじゃあ計画の変更はありませんよ」
周囲の部下に確認すると佐祐理さんは満面の笑みで高らかに宣言した。
「Now it`s a showtime!! パーティーの始まりですよ♪」
あとがき
冬はKanonキャラの誕生日が固まっているから書くのが大変です。
なんて言っておきながら今までで誕生日を取り上げておるのはグリフォン編第一部で名雪を取り上げているだけ
だったりするんですけどね。
2004.02.07