機動警察Kanon  第176話













  翌朝。

 いつものように仕事を始めるその時間。

 だが第一小隊を除く特車二課一同はハンガー内ではなく二課敷地内の一角に集まっていた。

 その目の前にはあの地下迷宮への入り口が厳重に封印されているはずであった。

 だが

 「班長!! 封印が解かれています!!」

 封印を確認するために潜った一人の声に特車二課の一同はどよめいた。

 「誰だよ、封印を解いたのは?」

 「真珠手に入れて帰ってくるかな?」

 「班長、怒るんじゃないか?」

 「勇気あるな……」

 そこへ北川が香里に駆け寄ってきた。

 「班長!! 斉藤、佐々木、小松崎の三名の姿が見あたりません!!」

 「そう…」

 無表情な顔で頷く香里に固唾をのむ北川。

 「北川!!」

 そこへ整備班No.3の住井が駆け寄ってきた。

 「作業ヘルメット3つに携帯型投光器、それにレクレーション用の金属バットと備品のメタルヘッド製

 ドライバーが紛失しているぞ。それとこんなものが……」

 そう言って住井は北川に封筒を一つ手渡した。

 「班長……」

 香里に手渡そうとする北川。だが香里は北川をぎろっと睨み付けた。

 「読みなさい」

 「はっ!!」

 北川は直立不動で敬礼すると封筒を開け、中身を取り出した。

 「捜さないでください。せめて真珠の一欠片なり持ち帰るその時まで二度とこの空の下に戻らぬ決心です。

 特車二課整備班に栄光あれ!! 我がパーティーの前途にダイダロスの神のご加護があらんことを!!

 以上であります!!」

 北川の読んだ書き置きに香里はため息を漏らした。

 「何、馬鹿なことを……。北川くん、倉庫にあるセメント袋全部ここに持ってきなさい」

 「あ、あの一体何を……?」

 香里の言葉を飲み込めない北川は香里に尋ねる。

 すると香里は叫んだ。

 「決まっているでしょ!! 二度とはい出てこられないようマンホールごと埋めるのよ」

 「そんな無茶な……」

 「何が無茶よ!! 真珠なんかに目がくらんで穴蔵に入り込むようなやつはあたしの部下なんかじゃないわ。

 埋め立て地の人柱にしてあげる!!」

 香里が真剣なことを悟った北川は秋子さんにすがりつくように懇願した。

 「第二小隊は準待機中でしたよね!?」

 「了承」の一言を期待する北川。

 だが秋子さんはいつものその一言を発しなかった。

 「そうは言われても前回の二重遭難という痛い経験がありますので今回は駄目ですね」

 「そんな……」

 予想もしていなかった言葉に思わず崩れ落ちる北川……だがすぐに気を取り直すと矛先を変えた。

 「水瀬!!」

 「イヤだよ!! 絶対にイヤ!!」

 「そこを何とか……地下のことを知っているのは第二小隊だけなんだよ!!」

 「わたし今でも時々夢で見るんだよ……」

 「栞ちゃん!!」

 「そんなこと言う人、嫌いです!!」

 「真琴ちゃん!!」

 「真琴にその気があっても秋子さんがああ言うんだもん……」

 「天野さん!!」

 「私たちにあの地下へ行けと!? そんな酷なことはないでしょう」

 「相沢!!」

 すると祐一はすぐに反論せず一瞬黙り込んだ後、頷いた。

 「秋子さん、俺たち行きます。行かせてください」

 「相沢……」

 歓喜のあまり感動の涙を流す北川。

 だが祐一はそんな北川を無視すると秋子さんの元へ歩き始めた。

 「確かに前回のクエストにおいて俺たちはほうほうの体で逃げ出すという醜態を演じた。

 だがそれは中の情報が決定的に欠落した状況で出撃せざるを得なかったという当時の特殊な事情によるので

 あり、ただその結果のみで我々の実力を判断するのは早計と言わざるを得ない」

 「あう〜っ、祐一が変〜」

 「本当だよ、祐一が狂った〜」

 失礼なことを言う外野を無視して祐一は続ける。

 「あの恐ろしいモンスターの群れに対するのに貧弱な装備と編成。だが今回は違う。

 前回の苦い経験は我々を確実にレベルアップさせている。それに……」

 「それに何よ!?」

 真琴の声に祐一は重々しく頷くと叫んだ。

 「それに今度は六人パーティーだ!!」

 祐一のその一言は第二小隊と整備班の間にぱぁーっと広まった。

 「六人!?」

 「六人パーティー!?」

 「そうか、六人か」
 
 「六人」

 「六人」

 「六人!」

 「六人!」

 「六人!!」

 「六人!!」

 一気に士気が上がる第二小隊と整備班。

 だが秋子さんは冷静だった。

 「六人だから何なんです?」

 しかし祐一は秋子さんのその言葉に応えずに続けた。

 「秋子さん、お願いします。一刻を争う状況のはずです」

 あまりに真剣な祐一の表情に秋子さんは頷いた。

 「了承」

 秋子さんのその一言に特車二課は一丸となって動き始めた。





  「時間はないぞ。ぐずぐずするな!!」

 北川の声に整備員たちは駆ける。

 「プロジェクターはどうした!?」

 「補助電源準備良し!!」

 「ケーブルに足を引っかけるなよ!!」

 「どいたどいた!!」

 「急げ、急げ!!」

 「1・2・3・4・5・時刻合わせ!」

 整備員たちの怒号が飛び交う中、第二小隊の面々も装備を整える。

 「真琴はこれ〜♪」

 「馬鹿野郎!! MG42なんか地下道で使う気か!!」

 「明かりはいっぱい用意しないとね」

 「うぐぅ、暗闇は怖いよ〜」

 「薬、薬、薬〜♪」

 「栞さん、そんなに薬は必要ありません」




  「あっ、もしもし。国崎さんですか? ちょっと調べて欲しいことがあるんですけど」





  「北川さん、前回のマップデータ用意完了です!!」

 準備万端が整った報告を受けた北川は部下たちを鼓舞した。

 「セーブデータはいらないぞ。死んだら終わりだからな!!」

 「「「「「「「おーっ!!」」」」」」」




  「うぅ〜、やっぱり止めようよ、祐一〜」

 思いっきり不吉な北川の言葉におびえる名雪。

 もっともそれより恐怖を感じるのはすぐそばで香里がセメントを練っているからかもしれないが。

 だが祐一は名雪の言葉を無視した。

 「こっちは準備完了だ。いつでもいけるぜ」

 「よし」

 北川は頷くと地下迷宮への扉を開けるよう指示する。

 「開けろ!!」

 「了解」

 住井は頷くと二重のマンホールの内側にいる部下に指示を伝えた。

 「開けろ」

 「「了解。せーの」」

 力を合わせて重いマンホールを持ち上げると一気に空気が吹き抜けた。

 地下迷宮は今もなお健在なのだ。

 「開いたぞ!!」

 住井の言葉に北川は親指を立て祐一に伝えた。

 「グッドラック」

 「大船ののったつもりで待っていろ。斉藤たちは無事回収してくる」

 「まかせたぞ」

 「まかされた」

 北川とパーンと手を合わせると祐一は地下迷宮へと続くロープを降りていく。

 そして名雪・あゆ・真琴・栞・美汐も続く。

 その姿を隊長室から見送る秋子さん。

 と突然デスクの電話がけたたましいベルを響かせる。

 「はい、こちら特車二課」

 すると電話の向こうは秋子さんが待っていた国崎往人巡査部長その人であった。

 『さすが秋子さん、良い勘だな。多田山史弘、42歳。

 おたくの隊に保護され、精神鑑定を受けた後、身元引受人がいないんでこの病院に収容されていたんだが…』

 「脱走しちゃいました?」

 『2週間前にな。というわけで間違いなくあの地下迷宮に舞い戻っているな。

 まあそれは良いんだがやっこさん、病室の壁に妙なものを書き残してる』

 「どんなのです?」

 『墓守の職。復讐とアミュレットを求め、我ここに蘇選らん……』

 

 


 かくして地下迷宮の悪夢は再び現実となる。





あとがき
バイト始めたらSS書くスピードが落ちちゃいました。

まあぼちぼち行くつもりではありますけどね。


2003.12.09

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