機動警察Kanon 第175話










  ウゥゥゥゥ〜

  響き渡るサイレンに特車二課所属の整備員たちは一斉に手を休めた。

 そしてそっと整備班班長である美坂香里を見る。

 すると香里は素早く周囲を見渡し、ぽんと手を叩くと叫んだ。

 「それじゃあ昼休みにするわよ!!」

 「「「「「「「おーうっ!!」」」」」

 香里の言葉に歓喜の声を上げる整備員一同。

 そして若さ故に飢えた整備員たちは一斉に上海亭の出前が待つ食堂へと駆けていった。




  「俺の天津丼!!」

 「肉野菜炒め定食はどこだ!?」

 「カツ丼、カツ丼」

 「貴様、俺のエビフライを取りやがったな!!」

 「はっはっはっ!! 早いもの勝ちだもんね〜!!」

 「チャーシュー麺は!?」

 「うまい、うまいぞ〜!!」

 「醤油取ってくれ〜」

 食堂はまるで戦場のような騒ぎだ。

 まあ食い盛りな男たちがこれだけいるのだから無理もないが。

 だがその騒ぎも一瞬にして収まった。




  『さて次のニュースです。

 昨夜、都立湾岸水族館のワニの飼育槽で発見された巨大真珠は専門家の鑑定の結果、本物の真珠であることを

 判明しました。

 同水族館では専門家の意見を検討し総合した結果、これはワニの尿道結石を核に、体内で分泌された特殊な

 粘液が球状に固って形成されたものであり、きわめて特殊なケースではあるものの、その限りに置いて真珠と

 読んで差し支えない、との見解を発表しました。それでは次のニュース……』




  「…なあ、これってあのこそ泥事件の時の?」

 住井のその一言をきっかけに再び騒がしくなった。

 「そうあの第二小隊を壊滅状態に追い込んだ……」

 「恐怖の……」

 「白いワニ……」

 「地下迷宮物件の悪魔!!」

 「そうか〜、あのときのあいつか〜」

 「そうだよ〜そうだよ〜」

 「推定2億円だってさ」

 「でもあいつって都の公共財産なんだろ、あのワニ自体がさ」

 「だからさ、財政難の折、貴重な現金収入源ってことさ」

 「金の卵を産むダチョウならぬ真珠の尿道結石を出すワニか」

 「あれが一匹うちにいたらな〜」

 「一粒2億円だもんな、2億」

 「くだらないわね」

 不機嫌な表情でぽっつり呟く香里……だがその変化に気が付いたのは隣にいた北川だけだった。

 「お、おい……」

 あわてて整備員たちを止めようとするがもはや活気づいた彼らを止めることは不可能だった。

 「2億円か〜」

 「それだけあったらな〜」

 その一言に整備員たちはにんまりすると立ち上がった。

 「念願の宿直室の改装計画も!!」

 「悲願の娯楽室の開設も!!」

 「実用から配送まで一貫生産を追求した干物工場だって夢じゃない!!」

 「土地なんていくらだってあるんだから裏庭にプール掘れば良いんだしよ!!」

 「餌だってハゼ釣ってくればいいしな」

 「真珠は半年に一粒か」

 「つがいで飼えば繁殖だって夢じゃないぞ!!」

 「白ワニ養殖計画か。しかし全部が全部尿道結石になるとは限らないぞ」

 「不規則な生活させて安酒浴びせるほど飲ませば尿道結石なんかすぐになるさ」

 「やるっきゃないな〜!!」

 「大規模な作戦を実行して!!」

 「白ワニ繁殖作戦開始だ!!」

 「「「「「「「「「お〜っ!!」」」」」」」

 ノリにのった整備員たちが一斉に勝ち鬨をあげる〜とついに我慢の限界に達した香里の怒りが爆発した。

 「この大馬鹿野郎ども〜!!」

 「「「「「「「「うわぁ〜!!」」」」」」」」
 
 香里の叫び声に整備員一同その場でひっくり返ってしまう。

 だが香里はさらに大声で続けた。

 「技術屋って言うのはね、地と地に足をつけた考え方をするものなのよ!!

 ワニの胆石だか真珠知らないけどくだらないことで浮かれ騒いで!!

 あんたたちがここにいるのは干物作るためでもワニを飼育するためじゃないのよ!!

 技術とその心を磨くためなのよ!!

 くだらないこと考えている暇があったらボルトの一本でも磨いていなさい!!」

 香里の至極もっともな正論に整備員たちはぐうの音も出ない。

 黙りこくってしまった一同を見た香里はちょっとだけ表情を和らげると続けた。

 「それにね、伊達と酔狂だけで生きているあなたたちにはわからないでしょうけど世の中には行っては

 行けない場所、触れてはならないものだってあるの。わかった?」

 「お、お前ら返事はどうした!?」

 いの一番に復活した北川が叫ぶ。すると

 「「「「「「「へ〜い……」」」」」」」

 力のない返事をする整備員たちであった。





  だがその夜……三名の整備員たちが特車二課構内から消えた……。





あとがき
やっと「ダンジョン再び」に突入です。

前回「地下迷宮物件」を書いたのが2002年2月ですから…およそ一年9ヶ月ぶりぐらいですね。

もうすぐ二年…この「機動警察Kanon」も長いな〜。

まあそれはさておき完結までの目安も何とかつきましたんでそれに向けて頑張っていこうと思ってます。


2003.11.29

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