機動警察Kanon 第173話












  「朝〜、朝だよ〜。朝ご飯食べてお仕事行くよ〜」

 「朝〜、朝だよ〜。朝ご飯食べてお仕事行くよ〜」

 「朝〜、朝だよ〜。朝ご飯食べてお仕事行くよ〜」

 「朝〜、朝だよ〜。朝ご飯食べてお仕事行くよ〜」

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  いつのものように目覚めた名雪は寝ぼけ眼のまま宿直室を出ると、オフィスへと向かった。

 だがいつもとは違う雰囲気に気が付き、ハンガーへと足を向けた。




  「おはよう、北川くん」

 「おう、おはよう水瀬さん」

 眠そうな名雪とはうって違い、北川は朝からハイテンションだ。

 何か良いことでもあったのだろうか?

 「朝から騒がしいけど何かあったの?」

 名雪が尋ねると北川は満面の笑みを浮かべた。

 「よくぞ聞いてくれました!! 実は今日の夕方『Air』がやってくるんだよ。今はその受け入れ準備中だ」

 「今日の夕方!? それじゃあ今夜から通常勤務に戻るの!?」

 嬉しそうな名雪だがそれも無理あるまい。

 東京湾の怪獣騒ぎからこっち、まともに休みももらえずに埋め立て地に籠もりっきりだったのだ。

 それが通常勤務に戻る……久しぶりにイチゴサンデーを味わえると思えば当然のことだ。

 そのことを重々承知している北川は頷いた。

 「そうそう、ハードワークも今日で終わりだ。長いことお疲れさん」

 「やった〜♪ みんなに知らせてくるね〜♪」

 「あっ、水瀬さん……」

 小躍りした名雪は止める北川を無視してタタタタと軽快にその場を走り去ったのであった。

 「もうみんな知ってるのに……」





 「みんな〜!! ビックニュースだよ〜!!」

 朝っぱらからやけにハイテンションな名雪に第二小隊の面々は驚いた。

 いつもなら「おはよ〜」と糸目でオフィスに入ってくる名雪が走って飛び込んできたからである。だが

 「今日の夕方にAir来るんだって〜!! お休みがもらえるよ〜!!」

 の一言ですぐに興味を失った。

 「何だ、それならもう知っているぞ」

 朝刊を読んでいた祐一はつまらなそうにそう言うとまた紙面に視線を落とした。

 「えっ、それどういうこと? どうして祐一がそのことを知ってるの!?」

 「どうしてって俺はお前より早起きだからな、それだけのことだ」

 「うぅ〜、それじゃあみんなも!?」

 名雪が尋ねると一同そろって頷いた。

 「今朝方、秋子さんから話を聞かせていただきました」

 「真琴は美汐から聞いたんだから」

 「ボクは真琴ちゃんと一緒に天野さんから聞いたよ」

 「お姉ちゃんから聞きました〜」

 この返事に名雪はがっくりと膝をついた。

 「せっかくみんなに教えてあげようと思ったのに〜」

 「ならみんなより早起きすることだな」

 「そんなの無理だよ」

 「即答かい!?」

 「うぅ〜」





  そうこうしているうちに時間はあっという間に経ち、ついにその時はやって来た。




  「来たよ、来たよ、来たよ〜!!」

 特車二課内に響きわたった北川の声にオフィス内で書類仕事をしていた第二小隊の面々は色めき立った。

 「ついに新型機がやって来たんだね〜」

 あゆの言葉に皆は嬉しそうに笑った。

 「これでやっと休みがもらえる、嬉しいよ……」

 「名雪さん、泣かないでください。私まで泣きたくなってしまいます」

 「肉まん♪ 肉まん♪ 中華街の出来立て肉まんを食べに行くぞ♪」

 感動にむせるのは名雪・栞・真琴だけではなかった。

 「長い、長い道のりでした」

 感慨深げに呟く美汐に祐一は言った。

 「天野まで休みとか気にするとはな」

 「失礼ですね相沢さん。私だって一労働者、休日と給料は欲しいんです」

 「それはまあそうか」

 「そういうことです。…それではみなさん、第一小隊のみなさんの出迎えに行くことにしましょう」

 美汐の指示に皆は一斉に頷くと、正面玄関へと歩いていった。




  「お帰りなさい、由起子さん」

 いの一番に指揮車から降り立った由起子さんを秋子さんが出迎えた。

 「お疲れ様でした、先輩」

 「いえいえ、私は楽させてもらいましたよ。みんなあの子たちがやってくれましたからね」

 「相変わらずですね」

 「それが私のやり方ですから。それより新型機の方はどうです?」

 「最初は反応が過敏で戸惑ってましたけど、慣れるにつれて評価が上がって来ました。

 ニューロン・ワーク・システムも良い感触を得たみたいでさすがKanonの後継機って感じですね」

 「それはよかったです」

 由起子さんの答えに秋子さんはほほえんだ。

 「これからは楽させてもらえそうですね」

 「ええ、任せてください。今までの借りは全部利子付けてお返ししますよ」

 「頼もしいですね」

 とそのとき第二小隊の面々がぞろぞろ雁首そろえて現れた。

 「どうやら揃ったみたいですね。それではお披露目と行きますね」

 由起子さんはそう言うと一号キャリアに声をかけた。

 「川名さん、お披露目するから起動させてちょうだい」

 「了解だよ〜」

 みさきは頷くとキャリアの助手席から荷台へと、そしてコクピット内へと潜り込んだ。

 「澪ちゃん、OKだよ〜」

 『わかったの〜』

 澪はシート下に付いているスイッチを切り替えた。

 グォーンーグォーングォン

 力強い音とともにデッキが一気に跳ね上がる。

 そしてついにAirがその姿を現した。

 「おぉ〜格好良いぞ!!」

 「Kanonよりスマートな感じのする機体だね〜」

 「うぅ〜、そんなことないよ。Kanonの方が美しいよ〜」

 「鋭い感じのする機体ですね」

 「あう〜っ、Kanonより弱そう〜」

 「これだけでは性能はわかりませんね」

 口々に勝手なことを言う第二小隊の面々に、自信満々にAirを披露させた由起子さんは苦笑いした。

 「さすが第二小隊、新型を見てもマイペースですね」

 「自分のリズムを守るのは大切ですからね」

 そう言ってにっこりほほえむ秋子さんはやっぱりマイペースだ。

 (やはり部下は上司に似るのかしら?)

 そう思いつつ由起子さんは秋子さんに頼み込んでみた。

 「ところで先輩、この後なんですが第二小隊のKanonと模擬戦をやりたいんですけど構わないですか?」

 「了承……と言いたいですが今日は駄目です」

 秋子さんの予想外の答えに由起子さんは驚いた。

 「な、何でなんですか!?」

 すると秋子さんは腕時計を由起子さんに見せながらこう言った。

 「5・4・3・2・1・0。17時をもって当直任務を第一小隊にお引き渡します」

 「えっ…あ、あの……」

 「あの子たち、一ヶ月以上も休み無しで埋め立て地に缶詰してたんです。

 早く休みをあげて疲れを取ってあげないといけませんからね」

 「そういうことですか」

 由起子さんは頷いた。

 確かに東京湾の怪獣騒ぎに始まって第一小隊の機種変換で第二小隊の休みはろくになかったのだ。

 上司としては部下に休みをあげたいのは当たり前のこと。

 自分でもそうするな、と納得した由起子さんは頷いた。

 「第一小隊、任務を引き継ぎました」

 「それではよろしくお願いしますね」

 秋子さんはそう言うとAirを見てあれこれ言っている第二小隊の面々に声をかけた。

 「任務は第一小隊に引き継ぎましたから今から休暇に突入ですよ」

 「やった〜!! これから早速中華街行ってこよっと♪」

 「チェックしてたアイスを食べに行きます♪」

 「なにはともあれまずイチゴザンデーだよ〜♪」

 「焼きたてほかほかのたい焼き、たい焼き♪」

 食い意地の張った四人は目にもとまらぬ早さでロッカーへと走っていった。

 花より団子……まだまだ大人にはなりきっていないようだ。





  「天野はどうするんだ? 真琴に付いていくのか?」

 祐一が尋ねると美汐は首を横に振った。

 「休みまで私が束縛する必要はないですから、私は私で別行動をということで一杯やろうかと」

 「酒か…良いな。久しく飲んでいないし」

 「よろしかったら一緒にいかがですか? 指揮者同士、意見の交換もたまには良いと思いますが」

 「なるほど、それも悪くないな」

 美汐の誘いに祐一が頷くとそこへ秋子さんが声をかけてきた。

 「私も混ぜてもらえませんか? 一人でお酒を飲むのは寂しすぎますから」

 「了承」

 秋子さんの真似をして祐一がそう言うと秋子さんは笑った。

 「ありがとうございます。それではお礼におごりましょう」

 「ありがとうございます」

 「ごちになります」

 「そういえば祐一さんと美汐ちゃんと飲むのは初めてですね」

 「そう言われてみればそうですね。まあうちにはお子様連中が揃ってますから」

 「あの子たちも飲めたら良かったんですけどね……」

 「味もわからない人にお酒のを飲ますのはもったいないです」





 そのころ噂の渦中な名雪・あゆ・栞・真琴は


 「栞ちゃん、一緒に行かない?」

 「良いですね。名雪さん推薦のイチゴサンデー食べてみたいです♪」

 「わたしも噂のアイス食べてみたかったんだ♪」



 「あゆあゆ!! 行くわよ!!」

 「うぐぅ、何でボクが真琴ちゃんと一緒なんだよ〜!?」

 




 やっぱりお子様であった。












あとがき
やっと純粋に更新できた感じのする第173話をお届けします。

なんせ171話・172話は最初書いたのを削除して書き直し…でしたんで。

とりあえず今の感じのまま更新していきたいですね。

2003.11.21
 



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