機動警察Kanon第164話












  らふれしあ号の船内、グリフォンの格納庫にて。

 企画七課課長代理の川澄舞はASURA回収のため、グリフォンに搭乗する準備をしていた。

 そこへ突然、大声を張り上げながら駆け寄ってくる者がいた。





  「川澄さん!!」

 「……報告は落ち着いて話す」

 あわてて駆け寄ってきた久瀬に舞はあっさり言う

 すると久瀬は頷き、大きく深呼吸すると口を開いた。

 「新木場の貯木場から例の怪物が出たそうです」

 どうやらASURAからの発信電波に惹かれているらしい怪物の包囲網からの突破。

 しかし舞は顔色一つ変えずに頷いた。

 「…当局にはもう少しねばって欲しかった」

 「それはそうですが……危険ではないですか? 万が一怪物と鉢合わせでもしたら……」

 「危険は承知の上。それにグリフォンの性能なら大丈夫」

 「確かにサイレンよりは性能は上ですが……」

 グズグズ言い渋る久瀬。

 もし舞に何かあったら佐祐理さんが悲しむと思っているのであろう。

 しかし舞には自信があった。

 パンと気合いを入れるとすくっと立ち上がった。

 「川澄舞、参る」






  「葛西沖で進路を右に変え、本船は幕張港に向かいます。早いところ追いついてくださいよ」

 「はちみつくまさん」

 グリフォン開発責任者の言葉に舞は頷いた。

 そしてグリフォンへと乗り込むと、早々に機体を起動させる。

 「…整備は万全」

 舞は満足げに頷く。

 すると無線機で開発責任者が声をかけてきた。

 『川澄さん、大丈夫ですか?』

 「…いつでも行ける」

 『それでは船底を開けます』

 「やって」

 その瞬間、らふれしあ号の船底、グリフォンの格納庫がさっと開いた。

 グリフォンは重力に引かれ、一気に水中に躍り込む。

 「アクアユニットON」



  そしてグリフォンは暗い東京湾内を突き進んでいった。







  シュンシュンシュン


  真っ暗な東京湾に浮かぶ巡視船うらが。

 その船体から数本のケーブルでつながれた渕山SOV-9800、通称『ノーチラス9800』と呼ばれる

 無人水中レイバーの先には、新木場の貯木場を脱出した廃棄物十三号の姿があった。

 いくら脱出されてしまったとはいえ、相手は凶暴な怪獣である。

 万全の監視体制をひいていたのだ。

 

  「巡視船うらがより本部へ。目標は現在東京港内新木場沖合の海底に潜伏中。

 繰り返す、目標は現在東京港内新木場沖合の海底に潜伏中。どうぞ」

 『…本部よりうらがへ。そのまま監視を続行せよ。繰り返す、そのまま監視を続行せよ』





  「だとさ」

 当局の無線を監視していた蒼戸は、グリフォンとの更新担当の翠川に伝える。

 するりと翠川は頷き、無線機のマイクを取った。

 「川澄さん、翠川です。今どこですか?」

 『…こちら川澄。今目標の海底標識に到達した』

 「9時の方向に進路を変えてください」

 『…わかった』

 舞の返事を聞いた蒼戸は皮肉めいた笑いを浮かべた。

 「公団が敷設したマーカーが道案内してくれるんだからな、ありがたくて涙が出るわ」

 それに対して翠川は何も答えず、舞をナビする。

 「そこから若洲水路が始まります。正面300m先が若洲第一水門です」





 
 プルルルー プルルルー


  「はい、こちら若洲第一水門管理事務所ですが」

 素早く電話に出た職員。

 すると電話の相手は公団のお偉いさんであった。

 『警察等から話が行っているはずだが水門の閉鎖の件、本日21時を持って行うように』

 「了解しました。21時をもって水門を閉じます。

 ところで一つ聞きたいのですが万が一、怪物がこっちに向かったときは……」

 『避難しろ』

 素っ気ない一言。しかしそれは職員にとってもっとも聞きたい一言であった。

 「わかりました。水門閉鎖後、避難します』

 電話を切る職員。

 そして時計をみると時刻は20時55分……刻限まであとわずかに迫ったのであった。






  「グズグズしているやつは東京湾に叩き込んで、怪物の餌にするわよ!!」

 整備班長美坂香里の声に押されて整備員たちが必死になって駆け回り、機体をチェックしていく。

 

  そんな整備員たちを尻目に、遅めの夕食である警備弁ををかっ込んでいた祐一はつぶやいた。

 「さて…怪物はこの後どうするつもりか」

 すると一緒になって警備弁をかっ込んでいた名雪が反応した。

 「そんなことどうでも良いよ、なるようにしかならないんだし。それよりお風呂に入りたいよ〜。

 汗くさいし、顔も油っぽいし……枝毛出来ちゃうよ〜」

 「まあしばらくは無理だろうな。…にしても名雪」

 「んっ、何かな?」

 「不潔な警察官、発見」

 すると名雪は猛然と抗議した。

 「ひどいよ、祐一〜。わたしだってお風呂に入りたいんだよ、任務の関係で入れないだけで。

 それに不潔なのは祐一だって一緒だよ〜!」

 「俺は男でおまえは女だ。この差はでかいぞ」

 「うぅ〜」

 唸った名雪は黙り込むと、残った警備弁をかっ込む。

 そしてきれいに平らげ、食後のお茶を飲み干すとつぶやいた。

 「あの女の人……なんで飛び込んだんだろうね?」

 「思ったほど人気が出なかったからじゃないか? 

 地雷という前評判の割にはよくできているとは言われるけど、前作を超えたとは言い難いし」

 祐一の行っていることがさっぱり理解できない名雪は首をかしげた。

 「…祐一、何の話をしているの?」

 「気にするな。まあもう夏だし、泳ぎたかったんだろ」

 「まじめに答えてよ〜!」

 ふざけた祐一の答えに名雪は抗議した。すると祐一は真剣な表情を浮かべた。

 「俺がわかるか。自殺する人間の考えなんか自殺する当人にしかわかるはずがないだろ」

 「…やっぱり自殺なのかな?」

 「そうとしか考えられないだろ。

 真琴と自衛隊の人が飛び込んでいなかったら、今頃は怪物の胃袋の中だぞ」

 「そんな自殺するかな? わたしだったら絶対に嫌なんだけど」

 「さもなきゃ基地外だろ」

 「基地外!?」

 「そういうこと。どっちにしたって俺たちの理解を超えている。考えるだけ無駄だな」

 「うぅ〜」

 半ば納得、半ば不満足の名雪。

 とその時、香里は整備員たちの機体チェックの報告を受ける。

 「これで全部かしら?」

 「そうです、班長」

 北川からチェックリストを受け取り、ぺらぺらめくる香里。

 そして頷いた。

 「良いわ、OKよ。一号機は特にこれといったダメージは受けていないから電池だけ取り替えて」

 「はい!!」

 「で二号機なんだけど……上半身まで海水被っているわね。…点検には時間がかかりそう」

 香里のその言葉に、側でチェックの様子をじっと見つめていた真琴が叫んだ。

 「ちょっと急ぎなさいよ!! いつまた怪獣が上陸してくるのかわからないんだから!!」

 すると香里はにっこり笑顔のまま振り返り、まことに歩み寄ってきた。

 「沢渡巡査」

 「な、何よ……」

 香里の気迫に押されびびりまくりの真琴。

 すると香里は真琴の頭に手を載せ、笑顔のまま口を開いた。

 「なぜ二号機だけがチェックに時間がかかると思っているのかしら?」

 「そ…それは……」

 「どっかのバカパイロットがあっさり怪獣のしっぽに跳ね飛ばされたからよね?」

 「あう〜っ……」

 「それなのに生意気な言葉を発せさせているのはこの頭なのかしら…?」

 「あた!! い、痛いってば!!」

 「あら? 何か言ったかしら?」

 端から見た感じとしてはただ真琴の頭をなでているようにしか見えない。

 しかしその場にいた一同にはそれがどんな状況であるかわかっていた。

 香里が真琴の頭を片手で力強くつかみ、持ち上げていたのだ。

 「あう〜っ!! 何も言っていない、言っていない!!」

 「あたしの言いたいこと、わかったかしら?」

 笑顔の裏に潜んでいる香里の言葉に真琴は力強く頷いた。

 「わかった、わかった!! 二号機のことよろしくお願いします!!」

 「わかればいいのよ」

 そう言って真琴を離すと、整備作業を監督しに戻る香里。

 そしてその後には

 「あう〜っ!!」

 美汐に引き続き、香里という新たなトラウマを抱え込んでしまった真琴なのであった。






  「みなさん、この地図を見てください」

 美汐は新木場を中心とした埋め立て地周辺の地図を広げながら言う。

 すると名雪・祐一・栞・あゆはその地図に見入った。

 「今、目標はこの辺の海底を彷徨いているわけですが…もし南に向かった場合、港内から

 外に出さないよう水門を閉じます」

 「水門を閉じるのは構わないが、奴が上陸しようとしたらどうするんだ?」

 祐一が尋ねると美汐は頷いた。

 「今日のように私たちは目標の行く先々で奴の上陸を阻む。

 これが当面の方針ですけど第一小隊が復帰するまでもう少しがんばってください」

 「うぐぅ、第一小隊の復帰はまだなの?」

 あゆの質問に美汐ではなく、栞が答えた。

 「お姉ちゃんから聞いたんですけどONEの損傷は結構ひどかったらしいんですよ。

 結局、特車二課では修理しきれないからって、メーカー修理に出したみたいですし」

 「うぅ〜」

 栞の言葉に名雪は唸った。

 「それじゃあ二号機のチェックが終わるまではわたしとけろぴーだけで相手にするの?」

 「そうなりますね」

 頷く美汐。

 「今日みたいなこと、いつまで続ければ良いんだよ〜」

 「例の『時限爆弾』という生物兵器はもうじき完成するそうです。あとしばらくの辛抱ですよ」

 「わかったよ〜」

 頷く名雪。

 「それでは解散です。みなさん、がんばりましょう」







  簡単なミーティングを終えた美汐は秋子さんの元へ報告に向かう。

 すると秋子さんはミニパトの中で、無線交信中であった。

 「あらあら、そうなんですか。

 それでその…来栖所長が倒れちゃったということは『時限爆弾』どうなるんです?

 影響はない? それなら問題ありませんね。はい、わかりました。

 私たちはがんばってお仕事に励みますね」

 そして無線機を置く秋子さん。すると美汐の顔も見ずに口を開いた。

 「何でなんでしょうね? 東都生物工学研究所は病人だらけです」

 「貯木場に飛び込んだ女性もそこの所員だったそうですね」

 「ええ」

 秋子さんは頷いた。

 「もちづき あやめ…さんですか」

 「もちづき……モチヅキ・セルですか?」

 「おもしろいですよね。何かこう、うずうずしてきません?」

 「確かに気になりますね」



 そして顔色一つ変えずに笑い出す二人。

 端から見るとちょっと怖いかもしれなかった……。

 




あとがき

そういえば数日前、WOWOWで劇場版「X!!!」を放映したんですよね。

見たかったな。

うちは衛星放送は見られるんですがWOWOWは加入していないから見られなくって…。

まあもうじきレンタルビデオで出るでしょう。

それとももう出ているのかな?



2002.12.10




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