機動警察Kanon第162話











  
ガァンー!!

 ガァーンー!!



  二機のKanonから放たれる37mmリボルバーカノンの弾丸が13号の目の前に水柱をあげる。

 しかし13号は全くひるむ様子もなく内陸へ続く運河を遡ろうとする。

 「止まらないよ〜」

 『あう〜っ、こうなったら本気で当てるわよ!!』

 名雪と真琴の健闘むなしく13号は突き進む。







  「F作戦発動。放電用意」

 統合幕僚会議議長の指示に、陸上幕僚長がうなずき、命令を復唱する。

 「F作戦発動!! 放電よーい!!」

 「放電よーい!!」

 東部方面隊総監の言葉に自衛官たちは一斉に運河から離れる。

 怪物に効果があるかは不明だが、人間相手には即死するのに十分な電撃を流すのだ。

 安全圏に人が避難しなくては危険すぎて、使えるものではないからだ。




  ちなみにこのF作戦。

 それは自衛隊によって計画された対怪獣専用の戦法として極めて由緒正しいものである。

 その昔、ビキニ島での水爆実験で目覚めた某怪獣の進行を阻止するために立案・実行され、

 その後も何度なく失敗を繰り返しながら磨き上げてきた電撃作戦である。

 そのため、現場の自衛官たちの志気は盛り上がっていたのであった…は冗談にしても、

 怪獣映画で活躍する自衛隊を見て憧れ、自衛隊に入隊した定年間近の幹部自衛官たちは

 はっきり言って燃えていた。

 そのため仕事もないのにやたら自衛隊のお偉いさん方が怪物封じ込め作戦本部に集まっていたのだ。






  「やたら張り切っているな、お偉いさんたちは」

 「少年の頃からの夢が実現するんだ。そりゃあ張り切るだろ」

 「しかし現場に出て良いのかね? 民間出の長官に誰が説明するんだ?」

 「海自と空自の幕僚長がいるだろ」

 「二人共も出たがったらしいぜ。上陸阻止は海自の、空からの攻撃は空自の任務だって。

 横須賀地方隊の全艦艇を出撃させようとしたり、中部航空方面隊のF-4EJをありったけ動員

 しようとしたらしい、って噂だ」

 「統合幕僚会議議長や陸上幕僚長の姿を見ると洒落ではすまんな」

 「映画みたいに出力限界を無視して、放電させ続けるなんて無茶はしないよな?」

 「平気だろ。映画と同じ失敗をしたがるやつはいないって」

 「それもそうか」

 

  そうこうしているうちにも13号は阻止限界点へと接近する。



  「放電始め!!」

 「放電始め!!」

 「放電始め!!」

 統合幕僚会議議長・陸上幕僚長・東部方面隊総監の命令の連鎖が発動された。

 「放電を開始しろ」

 本当なら一番おいしいところを持って行かれた三佐は寂しそうに部下に伝える。

 そして指示を受けた電源車の責任者は命令にうなずくとスイッチを力強く引いた。




 ガシャン!!

 電源車のスイッチおろした音が周囲に鳴り響く。

 とその瞬間、あたりの空気が一瞬で沸騰、そして貯木場内に高圧電流がほどばしった。



  
キシャァアー!!

 高圧電流に耐えかね、13号が悲鳴を上げる。

 そして激しく火花が散る貯木場内で激しくのたうち回る。






  「す、すごいな……」

 目の前の光景に祐一は仏頂面でつぶやいた。

 祐一たち第二小隊の面々ではろくにダメージを与えることができなかったというのに、

 今自衛隊が目の前で行っているF作戦はどう見ても怪物に大ダメージを与えているようにしか

 見えなかったからである。

 はっきり言って自分たちの無力さを思い知らされるような気がしたのだ。

 『不機嫌そうですね、祐一さん』

 「いや、そんなことはないです」

 祐一は秋子さんの言葉を否定した。

 しかし秋子さんには通用しなかった。

 『そんなこと言ってもわかりますよ、祐一さん』

 「…秋子さんにはかないませんね。まるで俺の顔が見えているみたいです」

 「見えているんですよ、祐一さん」

 「わっ!!」

 すぐ目の前に秋子さんがいて、思わずびっくりの祐一なのであった。





  「俺たち、いらないですね」

 電撃にのたうち回る13号の姿に祐一はぼっそりつぶやく。

 だが秋子さんは首を横に振った。

 「水中にいるだけの間のことです。陸に上がってくれば特車二課の出番ですよ」

 「…そうですね」






  電撃開始から約1分後。

 「放電やめ!!」

 「放電やめ!!」

 「放電やめ!!」

 「放電やめろ」

 たちまち電源車から流されていた電気がSTOP、水面は穏やかになる。

 「送電線の点検!!」

 やっとまともな命令を下せた三佐は嬉しそうだ。

 「了解!!」

 F作戦の要である送電線を自衛官たちがチェックに走る。

 この手の作戦は映画では大抵無茶やりすぎで送電出来なくなり、突破されてしまうものだからだ。






 「送電線に異常ありません!!」

 数名の自衛官が危険を冒して13号に接近、送電線をチェックして叫んだ。

 どうやらまだやれるようだ。

 そして送電線チェックした自衛官たちは表面がこんがりと焼き上がった怪物に視線をやった。

 「…やったのか?」

 「さあ?」

 貯木場内の水面には無数の魚の死体が浮かび上がっている。

 高圧電流でやられたものだ。

 しかし

 「まだ生きているぞ…」

 触手の一本がぴくりと動いたのだ。

 さすがに生体兵器。これしきのことではこれしきのことでくたばったりはしないようだ。






  「放電続けられないんですか?」

 一分足らずで放電を止めてしまったことに祐一は首をかしげ、秋子さんに尋ねる。

 すると秋子さんは苦笑した。

 「これ以上は送電線が保たないですよ。

 これ以上の無茶をするなら本格的な工事が必要になると思いますよ」

 「そうしたらどうですかね? それであいつをここで飼うんです。東京の新名所になりますよ」

 『祐一〜!!』

 祐一がふざけてそんなことを言うと、真琴が叫んだ。

 『言って良いことと悪いことがあるのよ〜!!

 もしそんな事態になったら、真琴たちの無能を認めたものじゃない!!』

 「やかましい。今の俺たちじゃ無能なの」

 『ゆ、許さないんだから〜!!』

 あまりに現状をついている言葉に真琴が叫んだその瞬間、13号が電撃のショックから立ち治った

 か水中から姿を現した。

 無数に生えた触手がウネウネと元気よく動く。

 


  「げ、元気だよ……」

 「うぐぅ。何であんな高圧電流を受けて平気なの!?」

 「あう〜っ、なんてタフなのよ……」

 「素直にやられない怪獣、嫌いです」

 「…さすがだな怪獣…タフだ……」

 「…たいした生命力ですね」


  さすがに脳天気な第二小隊の面々もショックを隠しきれないでいた。

 




  「あれはやめた方が良いですな」

 テレビの画面を見ながらの来栖の言葉に、池永教授・森久保教授もうなずいた。

 「そうだね。高圧電流による攻撃はあれの細胞を活性化させてしまう恐れがあるからな」

 「無用の刺激は避けたいな。方針が決まった異常余計なことはしない方が良い」

 さんざんら時限爆弾を撃ち込むことに反対されてきたので、来栖教授は意外な顔をした。

 「…初めて意見が合いましたな」

 「こうなってはやもえないからね」

 「確かに。ここまできたら一か八かの賭しかないだろう」

 

  かくして時限爆弾を13号の体内に撃ち込むことが正式に決定されたのであった。





  「何ですって!?」

 怪物対策会議の提言を伝えられた自衛官は思わず耳を疑った。

 そしてあわてて反論する。

 「しかしF作戦を中止すれば、やつは貯木場から出てしまいます!!

 T細胞弾頭の準備が整うまでは中止することは出来ません!!」

 『水門を閉じればいいだろう』

 その場しのぎに適当な意見を言ってくる対策会議のメンバー。

 しかしそうは簡単にすむ問題でないことは誰の目にも明白だった。

 「確かに水門を閉じれば港外へ出るのは防げますが…運河方面への手当はどうするんです!?

 運河に入られたら今度は市街地が危険にさらされます!!」

 『し、しかしだね…これは対策会議で出された提言なのだよ。

 やつに無用な刺激を与えると拙いことになるかもしれないと……』

 「なるかもしれない…ですって!?」

 あまりにいい加減な理由に自衛官は思わず叫んだ。

 「かもしれない、かもしれないでは何も出来ません!!

 必死で食い止めている現場の苦労も考えてください!!

 今、やつを市街地に入れるようなことがあったら我々には手の施しようがありません!!

 F作戦を続行させてください!!」







  「…とまあ現場の者は言っとるわけですが、ことこうなると我々も現場の一部にすぎません。

 この会議の結果は更に上に上げなければいけないわけですが…どうでしょう?

 電撃作戦は絶対にダメですか?」

 現場からの要望を対策会議参加者一同に伝える警官。

 すると池永教授は手をパタパタと横に振った。

 「勘違いしては困るな。わたしたちは参考意見を述べているだけだよ。

 決定権があるわけじゃない」

 「…来栖博士のご意見は?」

 池永教授の曖昧な意見に失望した警官は、来栖に尋ねる。

 すると来栖はうなずいた。

 「無用な刺激を与えないにこしたことはないと申し上げているだけでしてな。

 やつを貯木場から出してしまうと手の施しようがないと言うなら仕方がありますまい。

 わたしたちは可能性の問題を論じているに過ぎないのですからな」

 「あ〜、そうですか、そうですか」

 まったく学者ってやつは……、そうとしか思えない警官なのであった。






  プルルル プルルル

 数回のコール音の後、受付嬢が電話に出た。

 

  『はい、東都生物工学研究所です』

 「私だ、来栖だ」

 『所長ですか。どうなさりましたか?』

 「これから一度そっちに帰るんでね。貴島くんはいるか?」

 『貴島さんですね。ちょっとお待ちください』


  そして保留音である『エリーゼのために』にが流れ出す。

 そしてすぐに保留音が止まった。

 

  『お待たせしました、所長。貴島です!!』

 「貴島くんか。T細胞はどうなっている?」

 今頃は米軍から移送されたT細胞が届き、時限爆弾の製造に取りかかっているはず。

 その作業の進行状況を知りたかった来栖が尋ねると、貴島はあわてふためいた口調で叫んだ。

 『所長、米軍に廃棄物シリーズの資料を持って行かれました!!』

 「何だと!?」

 思わず大声で叫んでしまった来栖はすぐに声を落として聞き返した。

 「米軍が資料を持っていった…? それを君は黙って見ていたのかね?」

 『申し訳ありません、所長。ただ大佐のボディーガードが……』

 「…確かに無理か。それで大佐はもう帰ったんだな? それで時限爆弾の製造に支障は?」

 『そっちの方は順調です』

 「よし、そっちは進んでいるんだな。わかった、すぐに帰る」

 受話器を置こうとする来栖。

 だが受話器の向こう側の貴島にはまだ懸念するべき要項があった。

 『所長、それが……』

 「何だね? まだ何かあるのか?」

 『…望月がいなくなりました』

 「望月くんがいなくなった?」









  「ここから先は一般人の立ち入りは禁止です」

 検問中の警察官は新木場へ入ろうとする車を止めた。

 怪獣が暴れ回っているのに民間人が近づくのは危険だからだ。

 だが車の運転手は鞄から定期入れを出すと警察官に見せた。

 「東都生物工学研究所の者なのだけれど」

 「東都生物工学研究所の!? 拝見します」

 そして警官は懐中電灯で照らすと、定期入れの中に入っている身分証明書と運転手の顔を

 照らし合わせた。

 「望月…綾芽さんですね」

 「そうよ」

 「この先を左に入ってください。駅前に本部が出来ていますのでそちらに」

 「警官の言葉に綾芽はうなずいた。

 「ありがとう。ところで…怪物はどこから見れば一番よく見えるのかしら?」





あとがき

何でもエニックスとスクェアが合併するそうですね。

DQとFFを同じ会社が作る…何ともつまらない話です。

というかもうどっちも興味ないからな…。

いっそのこと両方お仕舞いにして両方の開発チームを合体、お互いの良い所取りしたRPGでも

制作しませんかね?

それなら興味あるんですが



2002.11.26



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