機動警察kanon第161話










  
キキーィー




  ブレーキ音を響かせて、二台の車が東都生物工学研究所前に止まった。

 そして屈強な男たち数名が車から素早く降りると、周囲を鋭い観光で見回す。

 「オール・クリアーです、大佐」

 ボディーカードの言葉にアメリカ陸軍バッケンジー大佐はうなずいた。

 「わかった。出せ」

 「OKです、大佐」

 大佐の指示にうなずくとボディーカードの一人は車のトランクを開け放った。

 そして中から大きなスーツケースのような物を取り出す。

 「中身を確認しろ」

 「了解」

 大佐からキーを受け取ると、そのボディーガードは鍵を開けた。

 そしてスーツケースのようなものを開け放つ。

 「T細胞を確認しました」

 「うむ」

 バッケンジー大佐は、ボディーガードの手の中にある、銀色に輝くシリンダー状の物……

 廃棄物13号のT細胞が納められているケースを見、満足げにうなずいた。



 

  とその時、東都生物工学研究所の玄関の扉が開き、中から貴島和宏が姿を現した。

 「大佐!! おいでくださいましたか!!」

 「ええ、まあ…」

 曖昧に笑うと大佐は、T細胞の納められたケースを手にしたボディーガードを促した。

 「行くぞ」

 「了解」

 大佐とボディーガードたちは無言で研究所内へと入っていく。

 「た、大佐!?」

 あわてて貴島は大佐たちの前に立つと、案内し始めた。










  「ただちに時限爆弾の製造に取りかかります。

 なんと言って良いか……とにかく助かりました、大佐」

 案内しながらの貴島の言葉に、大佐はにやっと笑った。

 「大失態ですな」

 「いや…それはその……」

 むやみやたらと事情を話すわけにはいかない貴島は思わず口ごもる。

 もっとも例え事情を話せたとしても失態には変わらない。

 T細胞を全滅させたのは東都生物工学研究所の一員である望月綾芽なのだから。

 「軍の施設の者はT細胞の移送に反対していましたが非常時であるということで納得させました」

 「…感謝します」

 恩着せがましい大佐の言葉にいらつきながらも、礼を言う貴島。

 だが大佐は、一研究員の礼など求めてはいなかった。

 「この見返りは…」

 「………」

 「いや、この話は後にしましょう」

 そう言って大佐とその部下たちは立ち止まる。

 研究室に着いたのだ。

 「では確かにT細胞を渡しましたよ」

 「確かに」

 「我々はプロフェッサー来栖が戻ってくるのを待ていますよ」

 「どうぞ」

 そして貴島は大佐のボディーガードから受け取ると、研究室の中に入った。

 






  「T細胞が届いたぞ!!」

 貴島が研究室に入ると、その到着を今か今かと待ちわびていた研究者たちが押し寄せてきた。

 「やっと届いたのか」

 「待ちくたびれたぞ」

 「早くよこせ」

 さすがに研究者たちである。

 新しいおもちゃにどっと群がってくる。

 「…これしかないんだからな。慎重に扱えよ」

 人的要因によるものとはいえ、すでに一度T細胞は全滅しているのだ。

 貴島は研究員たちに慎重に指示を出す。

 「T細胞の培養を開始するぞ。かかれ」

 「任せておけ!」

 T細胞を待ちわびていた研究者たちは一斉に時限爆弾の製造に取りかかった。








  それから二時間後…。



  「よし、後は26度Cで三時間保温。その後に13号の体細胞との融合試験を行う」

 いよいよ佳境に入ってきた時限爆弾の製造プロセス。

 とその時、ちょっとトイレのために席を外していた研究員が戻って来た。

 そして怪訝そうな顔で貴島に尋ねた。

 「貴島くん。連中、所長室でなにをやっているんだ? 勝手に資料いじらせて良いのか?」

「何だって!?」




  ドタドタドタ


  「な、何をしているんだ、あんたたちは!?」

 所長室に飛び込んだ貴島が見た光景。

 それはバッケンジー大佐のボディーガードたちが所長室に置いてあった廃棄物シリーズの

 研究資料を根こそぎ漁っているところであったのだ。

 「大佐!!」

 貴島はバッケンジー大佐に詰め寄る。

 しかしバッケンジー大佐は顔色一つ変えずにあっさり言い放った。

 「貴島さん…所長の留守中に申し訳ないが「廃棄物」の資料はすべて我が合衆国陸軍が

 引き取ることにしましたので」

 








 バラララララララ



  さんぐりあ号甲板から一機のヘリが離れていく。

 その機影を見送った舞はエアコンがガンガンに効いて、寒いグリフォンの整備室へと入っていく。

 「…東京湾はどうなっているの?」

 13号と警察がにらみ合いをしている今こそがASURA回収の絶好の機会なのだ。

 状況を確認すると明石はうなずいた。

 「まだにらみ合っているそうです」

 「…今夜いっぱいにらみ合っていてくれればいい。その間にASURAを回収する」

 そう言って舞はグリフォンの前に立った。

 舞の周囲では今夜の稼働に備えて整備員たちがあわただしく働いている。

 「…みちるのサイズではない?」

 舞の言葉にグリフォン開発者の一人がうなずいた。

 「ASURAを載せいないので十分広いですよ。川澄さんの体格なら余裕です」

 「ん」

 舞はうなずくと、グリフォンのコクピットに潜り込んだ。

 そして今日、これから操作する操縦桿や計器をチェックする。

 「…とってつけたような計器類……」

 あまりにちゃっちい計器類に舞が感想を漏らすと、開発者の一人が苦笑いした。

 「みちるが帰ってきたらコンソールは模様替えするんですから。

 文字通り即席なのは我慢してください」

 「はちみつくまさん」





  そしてそれから数時間後。

 警察が怪物と対峙中の新木場では未だ状況に変化はなかった。



  「あう〜っ、秋子さん!! 一体いつまで睨み合いしていなくちゃいけないのよ〜!?」

 まったく変化のない状況に苛立った真琴は叫ぶ。

 だが聞かれた秋子さんはあっさり答えた。

 「睨み合いが終わるまでですよ」

 「その悠長な答えは何なのよ〜!?」

 敬語すら忘れてしまうほど現状に飽き飽きの真琴。しかし秋子さんは気にしなかった。

 「ごめんなさいね」

 「謝らないで良いからいつまで睨み合いしなくちゃいけないのよ〜!!」




  そしてそんな真琴と秋子さんのやりとりを聞いていた名雪はうなった。

 「うぅ〜、もうだめだよ」

 『何がだ?』

 けろぴーの足下で尋ねる祐一。

 「…トイレ」

 『…行ってこい、行ってこい。コクピット内でやられるよりはましだ』

 「うぅ〜。祐一、デリカシーないよ〜」

 『お前はどっちがしたいんだ、どっちが』

 思わずつっこむ祐一。

 すると真琴と話をしていた秋子さんが二人をたしなめた。

 『二人とも勤務中ですよ』

 「は〜い」

 『はぁ〜い』

 すぐに矛を収める二人。

 その様子に秋子さんは満足げにうなずくと言った。

 『怪物はおそらく夕方まで動かないでしょうからのんびりしていると良いですよ』

 「ん…じゃあ行ってくるよ」



 怪物が動き出さない限り平和な新木場であった。







  だが平和はいつまでも続くわけながない。平和とは常にはかないものなのだ。




  
「キシャアアアアー!!」

 咆哮を上げ、怪物が貯木場を動き始めたのだ。




  「動いた!! 動き出しました!!」

 怪物のすぐそばで見張っていた自衛官が無線機に向かって叫ぶ。

 そしてたちまち現場はあわただしくなった。




  「やった〜!! 化け物め!! 真琴が目に物を見せてやるんだから!!」

 とっても不謹慎な言葉を叫ぶ真琴。



 そんな真琴を横目に、祐一は指示した。

 「射撃はあくまでも威嚇だぞ。絶対にあてるんじゃないぞ。

 肉片をまき散らしたら、元も子もないんだからな」

 「わかっているよ」



  「相沢さんの言ったことがわかりますね? 真琴」

 美汐の言葉に真琴は口をとがらせた。

 「馬鹿じゃないんだから、それくらいわかっているわよ〜」





  ガァンー!! ガァーン!!



  銃声とともに怪物のすぐそばに水柱が立った。

 Kanon二機の37mmリボルバーキャノンによる威嚇射撃だ。

 しかし怪物は全く気にするでもなく、グングン突き進む。



  「うぅ〜、止まらないよ〜!!」

 「飛びかかってもこないわよ〜!!」

 まさかこうまで見事に無視されるとは思っていなかった名雪と真琴は思わず叫ぶ。





  「あらあら。威嚇射撃ってばれちゃったんですかね? 困りました」

 そうは言うものの、やはりちっとも困っているようには見えない秋子さん。

 しかし現場は間違いなく緊迫の度合いを増していくのであった。






あとがき

GPUをRadeon9000に交換しました。

やはりGeForce2MX400に比べると良いですね。

次変える時はどんなGPUにするかな?


2002.11.19



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