機動警察Kanon第158話













  「着いたか」

 祐一は貯木場すぐ近くの駐車場に指揮車を止めると呟いた。

 とうとうあの怪物と再会するのだ。

 お世辞にも何度も顔を合わせたいとは思えない相手の事を思うと憂鬱な気持ちになる。

 しかし仕事は仕事、すぐに無線機を手に取った。



  「秋子さん、到着しましたんで配置の指令をお願いします」

 するとすぐに秋子の返事が返ってきた。

 『1号機・2号機ともにいつでも動かせるよう準備万端整えておいてくださいね。

 目標がまた水の中に入っちゃったので、どこから上がろうとするのか予想がつかない

 ものですから』

 「秋子さんでもわかりませんか?」

 祐一の言葉に秋子さんは笑った。

 『あら、祐一さん。相手が人間ならいざ知らず、怪物ですよ。

 いくら何でもわかるはずありませんよ。

 まあそういうわけですから速やかに対処できるよう態勢を整えておいてくださいね』

 「了解」



  秋子さんとの交信を終えた祐一は、指揮車を降りるとキャリアへ向かった。



  「おい、名雪。起きているか?」

 祐一がそう声をかけると名雪の眠そうな声が帰ってきた。

 「うにゅ〜、ちょっと眠い……」

 「…本当に一寸どころか!? …まあいい。けろぴーに乗り込め」

 「了解だぉ〜」

 名雪はふらふらした足取りでけろぴーのコクピットへ向かう。

 その姿に祐一は思わず不安になった。

 「…本当に大丈夫か?」

 「大丈夫じゃないですか」

 「おわっ!?」

 背後からのいきなりの発言に祐一は思わずびっくりした。

 あわてて振り返る。

 するとにこやかな顔の栞が立っていた。

 「何だ、栞か…脅かすなよ」

 祐一の言葉に栞はむぅーと口をとがらせた。

 「何だ、は酷いです、祐一さん」

 「脅かす方が悪い。それより本当に大丈夫だと思うか?」

 「大丈夫じゃないですか? 

 名雪さん、たしかによく寝ていますけどそれで仕事をしくじったことはないですし」

 「それでしくじったらクビだろ…」

 二人がそんなことを話していると、けろぴーのコクピット内から名雪が声をかけてきた。

 「それじゃあ機動するんだぉ〜」

 「さっさと起動しろ」

 「わかったぉ〜」

 緊張感の無い声とともにキャリアがデッキアップ。けろぴーが無事起動した。





  「それで祐一、何をしたらいいんだぉ〜!?」

 名雪の眠たそうなというか、半分寝ているというか…まあそんな声に祐一は叫んだ。

 「秋子さんの指示があるまで大人しく待ってろ!!」

 「わかったぉ〜」

 すぐにけろぴーのコクピット内は静まりかえった。




  「…これは寝ているな……」

 「ええ、寝てますね……」

 祐一と栞が声を潜めて話していると指揮車の無線機が呼び出し音を鳴らした。

 「秋子さんかな?」

 急いで無線機のマイクをとる祐一。

 するとそれは案の定、秋子さんからの指示だった。

 

  『祐一さん。1号機は動かせますか?』

 「…もちろんです。名雪次第ですが」

 『名雪は寝ているんですか?』

 「たぶん」

 祐一がそう答えると秋子さんはため息をついた。

 『例の怪物ですが運河を移動し始め、現在第一小隊がこれを迎え撃っています。

 第二小隊にはまだ命令は出ていませんがそれも時間の問題でしょう。

 というわけですからいつでも動けるよう名雪を起こしておいてください』

 「了解です。でその際、銃の使用は厳禁ですか?」

 『怪物に当てない限り、つまり威嚇においての発砲は許可します』

 「それは真琴のやつによく言い聞かせてやってください」

 祐一がそう言うと秋子さんはくすっと笑った。

 『そうですね。それではあとはよろしくお願いしますね』

 「任せてください」




  秋子さんとの交信を終えた祐一はけろぴーコクピット内の名雪に指示を出した。

 「名雪!! 出番だぞ!!」

 しかし名雪の返事はなければ、けろぴーはぴくりとも動こうとはしない。

 「どうします、祐一さん?」

 不安そうに祐一の顔を見つめる栞。

 しかし祐一には秘策があった。

 「大丈夫だ。俺にはとっておきの秘密兵器がある」

 「何ですか?」

 祐一の秘密兵器発言にわくわくする栞。

 そんな栞の期待感を感じ取ったのか、祐一は胸を張ると高々と秘密兵器を披露した。

 「これだ!!」


 
パカパカパーン


 「秋子さんのオレンジ色のジャム!!」

 「…もうジャムネタは飽きました」

 栞の一言にばっさり切られた祐一はがっくりした。

 「ジャムネタは飽きたってな……」

 「猫も杓子もジャムジャムジャム。ほかにネタはないんですか!?」

 「そうは言うがな。名雪を一発で起こすのにこれほど最適な材料はないんだぞ。

 まあ時々ノックアウトしてしまって、元も子もなくなることもあるが」

 「それはそうですけど…。まあいいです、さっさと名雪さんを起こしちゃいましょう」

 「そうするか」




  かくしてこんな二人の談合の結果

「だぉ〜!!」

 名雪は絶叫とともに叩き起こされたのであった。






  「うぅ〜、祐一酷いよ……」

 当然事ながらオレンジ色のジャムで叩き起こされた名雪は不機嫌だ。

 しかし祐一はそんな名雪の態度を黙殺した。

 『第一小隊からの報告で電撃が判明した。スタンスティクをフルに活用しろ』

 「祐一、言いたいことはそれだけなの?」

 『…勤務中に寝るおまえが悪い。それに文句があるなら秋子さんに言え』

 「お母さんに文句なんか言ったら死んじゃうよ〜」

 『なら文句を言うな』

 「うぅ〜、わかったよ。で何したらいいの?」

 『お前、まだ寝ているのか?』

 「起きてるよ!」

 名雪は必死になって叫んだ。

 一日二度も特製ジャムを口にしたら…。そう思うと恐ろしくて仕方がなかったのだ。

 「わたしが言いたいのはリボルバーキャノンもライアットガンも使えない。

 格闘戦だって迂闊には出来ない…。禁じ手ばかりで何をしたらいいの?」

 名雪の泣き言に、祐一は首を横に振った。

 「仕方がないだろ。対策会議の結果待ちだ、それまでは奴を逃がさないだけのことだ」

 「逃がさないって祐一……」

 「海から上がってこようとしたらとにかく蹴落とす。まあそれしかないだろうな」

 「うぅ〜、どうしてそんな手に負えないものを作ったんだよ!?」

 思わず叫ぶ名雪。



  とその時、無線機に秋子さんの指示が飛びこんできた。

 『
第二小隊に命令が下りました。第一小隊と入れ替えに怪物を迎え撃ってください』




  「聞いたか!?」

 祐一の言葉に名雪はうなずいた。

 「うん、聞いたよ」

 「よし、迎え撃つぞ!!」

 「わかったよ!!」


  そしてけろぴーは祐一の乗る指揮者に先導され、現場へと向かったのであった。







  「ここから先は行かせないよ!!」

  13号の進路先に先回りした名雪はその前に立ちはだかった。

 37mmリボルバーキャノンを取り出し、13号に銃口を向ける。

 『名雪、威嚇射撃だぞ!!』

 「わかっているよ!!」

 名雪は祐一の指示に反応すると、トリガーを引き絞った。


  
ガァン  ガァン!!


  銃声が轟き、13号の目の前の海面に着弾、水柱をあげる。


 「ここから先は進ませないんだよ!!」

 そして名雪の駆るけろぴーは、スタンスティック片手に13号をどつき始める。



 「キシャーァ!!」


 「このー!!」


 「ギャォース!!」


 「ていやー!!」


  どっちが怪物なのやら?


  特車二課と廃棄物13号の戦いはまだまだ続くのであった。




あとがき
前回よりはちょっとだけ早く更新できました。

…本当に一寸だけだなぁ〜。

というわけでもっとがんばりたいと思います。




2002.11.02




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