機動警察Kanon第154話

 

 

 

 

 

 

 まだ梅雨の明けきらない、とある晴れた日。

特車二課のあるここ埋め立て地は非常に賑やかであった。

 

 

 

 「右足元!! 二時の方向、来るぞ!!」

祐一の指揮に名雪が応えた。

『任せるんだよ〜!!』

海中でライアットガンを構えていたけろぴーの足が海面を切り裂き、その場で180度回転する。

「撃て!!」

『だーん!!』

 

 

 

 

 「うぅ〜、疲れたんだよ〜」

訓練を終えた名雪はヘッドギアを外しながら唸った。

そこへ缶ジュース片手に祐一がやってきた。

「ほらよ、名雪」

「わっ、ありがとう」

祐一から“つぶつぶイチゴミルク”を受け取った名雪は嬉しそうに笑った。

そして早速缶を開け、口を付ける。

「やっぱりイチゴはおいしんだよ〜♪」

嬉しそうに言う名雪の隣に祐一は座り込んだ。

「水中での180度回転、最高記録は1.85秒、平均してざっと2秒。まあ水の中ではこんなもんだろうな」

「あれ? そんなもんだった?」

「ああ」

祐一は頷いた。

「やっぱり水の中だとKanonでも弱くなるな」

「おまけに相手は宇宙怪獣だもんね」

名雪の言葉に祐一は首をかしげた。

「宇宙怪獣?」

「うん、そうだよ。お母さんが言っていたでしょ。

もし南極五号っていうのが怪獣の素なら立派な宇宙怪獣だよ」

「言われてみればそうか。…すると俺たちは地球を守る正義の地方公務員か?」

「まるで特撮とかアニメとかゲームとか趣味の世界だよね〜♪」

「特車二課の仕事そのものが趣味の世界っぽいけどな」

二人がそんな話で盛り上がっているとその前を大きな影が遮った。

『ちょっと二人とも真面目にしなさいよ〜!!』

真琴の乗る2号機だ。

真琴も名雪と同じく水中180度回転の訓練をするためにライアットガンを片手に海の中へと入り込んでいたのである。

しかし細かい動きが苦手な2号機故に真琴の行動は致命的だった。

 

 バッシャーン

 

 足を滑らせた2号機は派手に転がってしまったのだ。

「真琴。よそ見はしないでください!!」

『あう〜っ、美汐ごめんなさい……』

美汐の叱責に真琴がしおれる…っと祐一がからかってきた。

「しーかられたー、しかられたー。先生に言ってやろー」

「…相沢さん……」

「祐一、先生って何?」

「あう〜っ、許さないんだから〜!!」

 

 たとえ宇宙怪獣の脅威が迫っていても特車二課は特車二課、第二小隊は第二小隊なのであった。

 

 

 

 で名雪・祐一・真琴・美汐が外で訓練していた頃。

栞とあゆの二人は好奇心から事件の調査を行っていた。

 

 「やっぱりそうですよ」

栞はPCのディスプレイに表示されている画面を見て唸った。

「川崎沖以来の事故や事件をピックアップしてみると時計回りで事件が浅瀬に近づいてきています」

「うぐぅ、それって事件に関連があるって事?」

あゆの言葉に栞は頷いた。

「はい、そうです。これらは一連の事件とみるのが自然です」

とその時、オフィスの電話が呼び出し音を鳴り響かせた。

「電話ですね?」

「ボクが出るよ」

あゆはあわてて電話機に駆け寄ると受話器を取った。

「はい、こちら特車二課だよ」

『………………』

「うぐぅ、何を言っているのか聞き取れないよ」

あまりにかすれた声にあゆは聞き取れない。そこでそう言うと声がいくらか大きくなった。

『……待つんだ……』

「うぐぅ!? …って栞ちゃん、栞ちゃん」

電話の内容にあゆは受話器を押さえて栞に呼びかける。

何事か? と思った栞はあいている電話機を取り、電話の内容を聞こうとする。

すると電話機の向こう側の何者かはもう一度同じ言葉を繰り返した。

『……もしも…………………すぐに攻撃を…………』

「もしもし!? 怪物を発見してもすぐに攻撃するな、ってどういうこと!?」

だが

ツー ツー ツー

 

何者かはもうあゆのの言葉には反応しようとはせず、電話は切られてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 「これで良い……これで少しは時間を稼げたはずだ………」

 

 

 

 

 

「あらあら、そんな電話があったんですか」

あゆと栞から先ほどの警告電話を聞いた秋子さんはちょっとだけ考えこむ。

「悪戯電話だったんでしょうか?」

「その可能性はありますけど……何でうちに電話してきたんでしょうね?」

そっちの方が不思議な秋子さん。するとあゆが手を挙げた。

「はい、秋子さん」

「何です、あゆちゃん?」

「ボクが思うにうちが一番攻撃してしまいそうだから…じゃないかな? とくに真琴ちゃんあたりが……」

「それはあるかもしれませんね」

秋子さんはにっこり微笑み、そしてきっと表情を引き締めた。

「電話の件に関しては私の方で調査しておきます。あゆちゃん・栞ちゃんは黙っていてね」

「はい」

「わかったよ」

そして二人は隊長室を後にする。

その二人を見送った秋子さんは苦笑いした。

「きっと黙ってなんかいられないですよね。それにしても…いったい誰なんでしょう?」

考え込む秋子さんの視線の先には訓練にいそしむKanon一号機と2号機の姿があった。

 

 

 

 

 『てーっ!!』

「バァーン!!」

「ズドォーン!!」

二機のKanonが海中で背中合わせに訓練中。

しかし空砲一発使えず口で「バァーン」とか「ズトォーン」という効果音で臨場感を出そうというこの状況に真琴は叫んだ。

「何が『バァーン』とか『ズドォーン』なのよ!!訓練とは言え空砲ぐらい使えないの!?

こんなんじゃ実感が全くわかないわよ!! 名雪もそうでしょ!?」

しかしさほど銃を撃つのが好きではない名雪はちょっと困った。

「わたしはそれほど……」

「名雪!?」

「そ、そうだよね。うん……」

そんなやりとりに祐一が叫んだ。

『アホか、お前は!! こんなところでドカドカ銃声響かせるわけにはいかないだろ!!

常識で物を考えろ、常識で!!」』

「祐一にそんなこと言われる筋合いないわよ!!」

真琴が祐一にかみつく、と黙っていた美汐が口を開いた。

『真琴…』

「な、何よ美汐!?」

『なかなか見事な足裁きでしたよ』

「でしょ? そうだよね〜」

美汐に褒められ嬉しそうな真琴。だが美汐はそう易々と真琴を褒めたりはしなかった。

『ただ名雪さんに比べるとまだまだのようですね』

「あう〜っ!!」

『というわけでまだまだ訓練しますよ。名雪さん、お願いしますね』

「わかったよ〜!!」

 

 というわけで名雪と真琴の二人は海中での訓練を再開する。

その光景をほほえましそうに眺めていた美汐は祐一に言った。

「やはりフォーメーションはこれが一番のようですね」

「そうだな。二機をなるべく離さないようにして出来る限り背中合わせ。

各々9時から3時までの方向をカバーすれば相手の行動に迅速に反応できるからな」

「ですよね」

 

 とその時、美汐は特車二課上空に接近するヘリコプターを発見した。

「あれは…報道屋のヘリですかね?」

「あの機種は警察や自衛隊や海上保安庁が採用していない最新型だからな、たぶんそうだろう」

祐一の言葉に美汐は頷いた。

「それではもう今日は終わりにしましょう」

一部新聞では報じられてしまったもののまだ情報を公開したわけではない。

怪獣のことが報道屋にバレるわけにはいかないのだ。

「了解した」

美汐の指示を受けた祐一は名雪・真琴に訓練終了を告げる。

『わかったよ〜』

『あうっ、やっと終わった……』

二機のKanonが海から上がってくる。祐一と美汐も撤収準備に取りかかる。

と美汐がぼっそり呟いた。

「…水の中では戦いたくないですね」

「そうだな…」

 

 

 

 

 

 

 そしてその頃。

皇居桜田門前にある警視庁本庁舎ではある重大な決定が下されるところであった。

 

 「以上が公安委員会、並びに警察庁の決定だ。

現在の状態では警備態勢の充実もこれ以上は望めないという判断からだ。各課とも了承してもらいたい」

会議の最高責任者の言葉に参加者たちは一斉にざわめいた。

「本当か、これは?」

「未だ相手の正体も判別していないのに……」

「警察の仕事か、これは?」

だが最高責任者はそんなざわめきを一顧だにはせず続けた。

「新聞・雑誌媒体等への発表は本日23時、放送媒体への発表は明朝8時に行います。

これはタイムラグによる情報の混乱を避けるための処置であります。今後の警備計画は別表通り。

神奈川県警・千葉県警とも協力して万全の警備態勢をとります。以上、解散!」

 

 かくして警察の対応は決したのであった。

 

 

 

 

 

あとがき

こんぺ中編部門が公開されましたね。

今回は盗作問題等もありますがなかなか良い作品が出そろっています。

私もあんな作品書けるようになりたいな〜ってシリアス書かなきゃ上手くはならないよな。

 

 

2002.10.06

 

 

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