機動警察Kanon第152話

 

 

 

 

 

 

 「うぅ〜、肩こったよ〜」

本庁での事情聴取を終えた名雪は肩をバキバキ鳴らしながら玄関を出た。

その後を同じく疲れ果てた様子の祐一が続く。

 

 「ねえ祐一、緊張しなかった?」

名雪の言葉に祐一はうなずいた。

「それはもちろん緊張したさ。お偉いさん方の目の前で居眠りするような奴とは違うからな」

「……それってもしかしてわたしの事?」

「ほかに誰がいる?」

「アハハ……」

ジト目で見られた名雪は冷や汗タラタラ状態。あわてて話をすり替えた。

「ねえ、祐一。報道屋さんが来ているね!!」

「誤魔化すな」

祐一の言葉に名雪は開き直った。

「仕方がないじゃない!! 朝早かったから睡眠時間が足りなかったんだよ!!」

「だから開き直るなと言ってるだろうが!! 普通、睡眠は八時間とれば十分だ」

「……わ、わたしは最低12時間必要なんだよ!!」

「相沢さんに名雪さん、本庁前で二課の悪評を広げるような行為はしないでください」

「おわっ!?」

「わっ、びっくり」

いきなりの声に二人は驚いた。

あわてて振り返るとそこには憮然とした表情の美汐が立っているではないか。

「あっ、美汐ちゃんどうしたの?」

「…お二方を待っていたんです」

「俺たちを?」

確かに美汐のすぐそばには一台の乗用車が止まっている。

「そうです。というわけで車に乗りましょう」

「は〜い」

「わかったよ〜」

 

というわけで祐一が運転席に、美汐が助手席に、名雪が後部座席に乗り込む。

「それじゃあ出すぞ」

「はい」

祐一の運転で乗用車が動き出し、あっという間に警視庁から遠ざかる。

 

 「しかし名雪じゃないがずいぶん報道屋が来ていたな」

祐一の言葉に美汐はうなずいた。

「アドバイスしたとおり私服で良かったですね」

「たしかに天野のアドバイスを受けていて正解だったな。制服ままだったら捕まっていたぞ」

「このご時世、他にも追いかけなくちゃいけないネタはあるのにね〜」

名雪もしみじみという。

と突然美汐が100mぐらい先の交差点を指さした。

「そこ曲がってください。秋子さんのお呼びです。大塚へ行ってください」

「大塚?」

 

 

 

 

 

 「東京都監察医務局?」

この看板の文字をみた祐一はいやな予感に襲われた。

「…何だか不吉な予感がする……」

「ん? 祐一、どうかしたの?」

真剣な表情の祐一に名雪が尋ねてくる。だが祐一は自らの心にうかんだいやな予感を上手く口で説明することができない。

「…ん〜、それがだな……」

「相沢さんに名雪さん、しゃべっていないでこっちに来てください。秋子さんがお待ちです」

「わかった〜! すぐ行くよ〜」

美汐に呼ばれて名雪はそう返事する。そして祐一の腕をつかんだ。

「ほら、祐一。お母さんが呼んでいるよ」

「…そ、そうだな」

 

こうして三人は監察医務局の中へと入っていった。

 

 

 

 

 「名雪さ〜ん、こっちだよ!!」

三人が監察医務局の中を進んでいるとあゆが手を元気よく振って出迎えてくれた。

ちなみに真琴も栞も一緒だ。

「埋め立て地の方、からっぽにして大丈夫なのか?」

第二小隊勢揃いの状況に祐一が尋ねると栞がうなずいた。

「第一小隊の当番の方々が出ているので平気ですよ」

「おっ、成る程」

祐一は納得して頷く。すると今度は名雪が首をかしげた。

「お母さんが呼んでいる…って聞いたんだけどどこにいるの?」

 

 

 

 

 

 

 そのころ秋子さんは霊安室で仏さんに線香をあげ、手を合わせているところであった。

 

 「それじゃあ見せてもらいますね」

指紋を付けないよう白手袋をした秋子さんはストレッチャーの上にかぶせてある布を取り払った。

するとそこには金属製のトレーにのった人体の一部が鎮座しているではないか。

しかし秋子さんは顔色一つ変えずにそれらを手に取りじっくりと観察する。

「前に東京湾に飛行機が落ちた事故あっただろ」

「はい、ありましたね」

監察医の言葉に頷く秋子さん、すると監察医は続けた。

「これとよく似た傷口の遺体が一つあった」

「そうですか。…写真残っています?」

「無論だ」

「後で見せてくださいね」

秋子さんがそう言ったとき、もう一人の監察医が霊安室に入ってきた。

「水瀬警部補、第二小隊の人たちがそろったようですが」

「あら、やっと来たのね。それじゃあ先生、後でよろしくお願いしますね」

「任せておけ」

そして秋子さんは霊安室を後にした。

 

 

 

 「は〜い、みんなそろっていますね」

霊安室前に名雪・祐一・栞・真琴・美汐・あゆの六人がそろっているのを確認すると秋子さんはにっこり微笑んだ。

「みなさん、こっちにいらしてください」

「あの…お母さん……」

「何かしら、名雪?」

「…わたしたち何をするの?」

目一杯不安そうな表情で尋ねる名雪。だが秋子さんは相変わらず笑顔のままだった。

「中へ入ればわかりますよ」

口調は柔らかいがこれは任務の関係による命令だ。

おとなしく六人は霊安室へと入っていく。

 

 「ちゃんとお線香をあげて手を合わせるんですよ〜」

(うぐぅ〜、ボク死体見るの怖いよ〜!!)

(だぉ〜、そんなのイヤ〜!!)

(そんなこと言う人、嫌いです〜!!)

(うぅ〜、ホトケさんを見せられるのはイヤだ〜!!)

 

 

 そして一同が霊安室に入ってから1分後。

 

 バタン

 

 霊安室のドアが勢いよく開いた。

 

 「あら、早かったんですね」

すると名雪・祐一・栞が口を押さえてバタバタと駆け抜けていく。

 

 「あらあらどうしたんでしょう?」

すると続いて真琴が出てきた。

「ちょっと!! ちゃんと目を見開いてしっかり見なさいよ〜!!」

名雪・祐一・栞にそう叫ぶが当然三人は無視、そのままトイレへ駆け込む。

 

 「あゆあゆもしっかりしなさいよ〜!!」

あゆは気絶したらしい。真琴に抱えられて霊安室から出てくる。

 

 そして最後に美汐が出てきた。

表情一つ変えていない。さすがだ。

 

 「美汐ちゃん、どうでした?」

秋子さんの言葉に美汐はコクンと頷いた。

「発表するべきです」

「何て?」

「ありのまますべてを正直に。その上で自衛隊でも何でも全力で投入すべきです」

「自衛隊はまずいですね」

「では警察が全力を尽くすべきです」

「そうですね」

 

 

 

 

 

 「だぉ〜、朝ごはん全部戻しちゃったぉ〜」

「わたしもですぅ〜」

名雪と栞が女子トイレから真っ青な顔で出てくるとやはり男子トイレから出てきた祐一も同様だった。

「…しばらく肉なんか食えねえよ……」

トボトボした足取りで霊安室前へと戻る三人。

そこで美汐と和やかに談笑している秋子さんを見て祐一は思わず詰め寄った。

 

 

 

「秋子さん!!  何なんですか、アレは!? どうしてあんなものをいきなり見せられなくっちゃいけないんです!?」

「今回の事件の被害者です」

「「「「「!!」」」」」

あっさり言った秋子さんの言葉にその場は一瞬にして緊張した。

祐一だけではない、名雪も栞も真琴もあゆもあっというまに警察官の顔になる。

「見ての通り犯罪者の行状ではありません……が私たちが相手にしなくてはいけないかもしれないんです。

その覚悟だけはしっかりとしておいてください」

「…はい」

「わかったよ」

「了承だよ」

「私にお任せてください!!」

「当たり前よ!!」

すでに覚悟のできている美汐以外の五人は決意を新たにするのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 

 「さあて…と、昼飯の注文をとるぞ!」

祐一の言葉に真琴が勢いよく手を挙げた。

「肉野菜炒め定食大盛り!!」

「お前よく肉食えるな……」

昨日の今日である。とても肉など食う気にはなれない祐一がげんなりした表情で言うと真琴は叫んだ。

「腹が減っては戦はできない。食べないといざって言うとき働けないでしょ〜!!」

「真琴ちゃん、よく平気だね……」

昨日の一件で一番ショックの大きかったあゆがそう尋ねると真琴は胸を張った。

「真琴が平気なんじゃなくてあんたたちがだらしがないだけなのよ〜!!

あんなのお肉屋さんで売ってる牛や豚や鳥と同じよ〜!!」

「アレとお肉屋さんのお肉は違うよ〜!!」

あゆは叫ぶが真琴には通用しなかった。

「同じに決まってるでしょ。ただ人が人を食うのがタブー視されているだけで栄養的には全く同じなんだから!!」

「…そんな話、メシ前にするな!!」

祐一が真琴の頭をぽかりと殴る。と真琴は怒った。

「何すんのよ、祐一!! 真琴がせっかくこの場を和ませてあげようと思ったのに〜!!」

「今の話で和やかになるか、このボケ!!」

 

 「だぉ〜、思い出しちゃったよ〜!!」

殴り合いを始めた二人を見て名雪は思わず叫んだのであった。

 

 

 

 「…むごいですね、先輩。予備知識も与えずにいきなり見せたんですか?」

由起子さんの言葉に秋子さんは頷いた。

「警察ですもの。直視できるようになってもらわないと困ります。

それにいつまでも警備部にいられる訳じゃありませんからね」

 

 

 

 

 お昼休みが終了。

当然みんなお昼ごはんを食べたわけだが……随分と残していた。

きれいに平らげたのは真琴と美汐の二人だけだ。

「ふぅ〜、食べた食べた〜」

爪楊枝で歯についたかすを取りながら真琴が立ち上がると隣に座っていた栞に声をかけた。

「さてやるわよ、しおしお」

「し、しおしおじゃありません!!」

「コンピューターの準備しなさいよ〜!!」

だが真琴は栞の抗議を完全に黙殺、コンピューターの前に陣取る 。

「何をやるつもりだ、お前は?」

祐一が尋ねると真琴はきっぱり言い切った。

「そんなの上申書の作成に決まっているでしょ。準備できた?」

「は、はい!!」

栞の返事に真琴は頷いた。

「いい、真琴の言うとおり打つのよ」

「真琴……」

「真琴ちゃん……」

滅多に見ることのできない真琴の姿に感動を覚えた名雪とあゆ。

すると真琴はばつの悪そうな顔をした。

「東京の庭先を怪獣だか化け物がうろついているのよ!!

一本釣りにでもして目の前に引きずりだして、被害者の仇を取ってあげるのが真琴たちの仕事でしょ!!」

するとそこへ美汐が声をかけてきた。

「真琴。少し僭越じゃないかしら」

「で、でも美汐……」

言いたいことがあるが上手く言葉に出来ない真琴。

すると美汐は胸を張って言い切った。

「上申書の文面は私が考えます。

怪物の撃滅は第二小隊の総意ということで問題ありませんね!!」

 

 

 

 

あとがき

http://www.comptiq.com/info/kanon_air.htmlを発見。

今かのんSSーLinksの方でもこんぺやっているし最近はSSも社会の認知を受けてきたんですかね?

 

 

 

2002.09.28

 

 

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