機動警察Kanon第151話

 

 

 

 

 

 

 

 『メンテベース〜犯人は怪物だったのか!?』

『 大規模テロの可能性を指摘した警察発表はまるでデタラメ!!』

『行方不明になった作業員たちの安否は!?』

 

 

 

 ショッキングな見出しとともに派手な色合いで飾り立てられているゴシップ紙を見て秋子さんは困ってしまった。

「あらあら、参りましたね。この記事はまずいですよ」

「現場の作業員から漏れたんでしょうか?」

由起子さんの言葉に秋子さんはうなずいた。

「口止めしておかなかったんでしょうかね?」

「人の口に戸は立てられない、ということではないですか」

「まあそうなんでしょうけどね」

秋子さんは苦笑いすると一面トップにあるわずかばかりの記事に目を通し始めた。

 

 「『たまたま駆けつけた警察官が顔色を変えて…』これは名雪と祐一さんのことですね。

『体長は数十メートルに及ぼうかという…』…あらあら、これは伝言ゲームですね。

肝心の部分でかなり信憑性に欠けちゃってます」

「しょせんはゴシップ紙ですから放っておいても大丈夫だと思いますけど……」

しかし秋子さんはその意見には首を縦に振らなかった。

「真偽うんぬん以前に記事が出ちゃったことが問題なんですよ。

なんせ怪獣ですからね。報道屋さんたちが食らいついてきそうなネタです。

明日の朝にはワイドショーが港署に群がるでしょうし…捜査状況の経過報告がやりにくいですね」

「黙殺……っていうわけにはいかないですか?」

「『この記事は事実か?』って訊かれちゃったらどうします?

“このような事実はない”と答えればまるっきり嘘になっちゃいます。

だからといって事実をおおむね認めたら被害者の状態にも言及しなければいけません」

「…行方不明という扱いでしたよね?」

「その方が刺激が少ない、って上層部は判断したんですけど突っ込まれれば正直に発表せざるをえないでしょうね。

そうなれば湾岸で半分水につかって仕事をしている方々は逃げ出すでしょうからバビロンプロジェクトの工期に遅れが出て国も都も大散々です。

湾岸地域にあるテーマパークやイベントも客が激減するでしょうし、釣り舟も大打撃を被って……あら」

「どうしたんですか?」

突然の変化に由起子さんが尋ねると秋子さんは微笑んだ。

「事件も事故も減って良いな、って一瞬思っちゃいました」

「……洒落にならない冗談はやめてください」

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 「遅かれ早かれ、いずれは発表しなくちゃいけないですよね」

栞の言葉に祐一は激しく同意した。

「だったら早いほうがいい!! 放っておいたらまた被害が出るぞ!!」

「発表発表って簡単に言うけどその後の影響を考えなさいよ〜!! もっと大人の判断をしなさいよね〜」

「のべつまくなしてっぽー撃ちまくるのは大人の判断か?」

真琴の発言に祐一がトゲのある反論をする。すると真琴は祐一にかみついた。

「あれは現場の判断なの!!」

「ほぉ〜、そうでしたか〜」

「あう〜っ、許さないんだから!!」

 

 

 掴み合いを始めた真琴を名雪はたしなめた。

「だからわたしたちが言っているのは現場の判断なんだよ。

真琴だって現場であのピクピク動いているの、見たでしょ!! あんなの野放しにして良いと思う?」

「…それはまあそうだけど……」

「でしょ〜。真琴もそう思うよね〜?」

同意を求める名雪。だが真琴は…

「そ、そんなこと言ったって上の方針に真琴たちがとやかく言うのは、これはもう組織というものの中にあっては…え〜っと……」

と本人にもわからないがもっともらしいことを口走る。

だから名雪は笑って言った。

「真琴はいつもそんな上の方針なんか無視して発砲しているじゃない」

「そっか。そうだよね……ってどういうことなのよ〜!!」

「だぉ〜、ごめんだよ〜!!」

 

 

 

 

 

 「まあとにかく上申だけはしてみようぜ」

祐一の言葉に第二小隊の面々は全員うなずいた。

「第二小隊の総意……無いよりはましだよね?」

あゆの言葉に栞はうなずいた。

「そうですね。ただ…真琴さんの言うとおりその後の影響っていうのも考えないといけませんよね」

「何らかの対策をワンセットで発表出来れば良いんだけどな……」

祐一が考え込むと真琴はまたかみついた。

「相手が何だかわからないのに対策なんか立てようがないでしょ!!」

「真琴…」

「あう〜っ!!」

美汐の一言に真琴はたちまち静かになった。

「…それは今日行われた会議で話し合っている最中です」

美汐はそう言うと一通の書類を取り出した。

「これは?」

「明朝八時、本庁への出頭命令です。相沢・水瀬両巡査は遅刻しないよう本庁へ行って来てください。

たぶんこの件に関する事情聴取ですのでみっちり絞られてきてください」

「だぉ〜!!」

「うぐぅ」

 

 

お偉いさん方に絞られるのはイヤな二人であった。

 

 

 

 

 

 「それで? 対策については?」

由起子さんに質問に秋子さんはあっさり答えた。

「まだ有効な策は見あたらないそうです」

「…怪獣なんて非常識なのが相手ですからね」

由起子さんは苦笑いする。

それはそうだろう。

どこの世界に怪獣と戦う警察がいるというのだ? 怪獣映画でも相手は軍隊と決まっているのに……。

「まあとりあえず例の肉片は三人の学者さんに見てもらうそうですよ。

帝都大生物学部の池永教授、国立防疫センターの森久保博士、東都生物工学研究所の来栖所長の御三方に」

 

 

 

 

 

 

 「ふうむ……」

警察から送られてきた資料に目を通した来栖博士は唸った。

そしてその場で考え込む。

だがすぐに気を取り直した来栖博士は電話に手を伸ばした。

『はい、何でしょうか?』

「望月くんと貴島を」

『はい』

この件に関しては一番詳しいスタッフを呼び出した来栖博士は老眼鏡をはずすと呟いた。

「まさか向こうから転がり込んでくるとは驚いたな……。

池永くんと森久保…いい加減な鑑定では誤魔化せないな」

 

 

 

 

 

 

 「課長代理!!」

突然企画七課に飛び込んで来た久瀬。その久瀬を舞はにらんだ。

「…廊下は走らない」

だが久瀬は舞の言葉など気にせずにというか気がつかずにそのまま舞の元に駆け寄った。

「課長代理!! こ、これを!!」

そう言って指し示したのは秋子さんも見ていた件の新聞であった。

たちまち舞の周りに企画七課の面々が集まる。

そして新聞記事を見たものは皆、一様に固まった。

「……これは何かのジョーク?」

一面にデカデカと書かれている『怪物』という文字に怪訝そうに眉をしかめる舞。

だが久瀬は首を横に振った。

「出版元の新聞社に当たってきました!!

情報の詳細はいざ知らず記事の内容そのものには非常に信頼の置けるものだそうです! !」

「マジで?」

「マジです」

「………」

久瀬の断定に舞は一瞬沈黙した……がすぐに気を取り直すと天を仰いだ。

「…私たちの競争相手は想像を絶する化け物……」

そして部下たちはそんな舞の言葉に無言で答えたのであった。

 

 

 

 

 

あとがき

久しぶりの「機動警察Kanon」お届け〜。

ちょっと弄くっていたら遅くなってしまいましたです。

まことに申し訳ないかぎりですね。すこしはペースアップするよう頑張ろっと。

 

 

 

2002.09.24

 

 

 

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