機動警察Kanon第148話

 

 

 

 「所長、遅いな」

ハワイへの出張から戻ってくる東都生物工学研究所所長来栖を出迎えるために成田空港に来ていた

貴島和宏はちっとも出てこない状況に呟いた。

すると一緒に出迎えに来ていた望月綾芽も頷いた。

「そうね、いつまで待たせるのかしら。待っている間にも研究したいというのに…時間の無駄だわ」

「…そこまでは言わないが……」

綾芽の過激な言葉に貴島がたじたじになっていると成田空港正面玄関から所長の姿が見えた。

どうやらやっとのご帰還らしい。

「所長出てきたぞ」

「あら、やっとのご帰還なのね」

綾芽は迎えに来た車のドアを開けて所長を迎える。

すると所長はにこりともせずに車内へと乗り込んでくる。

そしていきなり口を開いた。

「いやはやとんでもない生命力だよ」

「何のことですか?」

貴島が尋ねると所長は表情一つ変えずに頷いた。

「もちろん13号のことだ」

「ハワイの研究所で何かわかったのかしら?」

尋ねる綾芽、すると来る巣は頷いた。

「ああ。主任研究者のカジカワを小一時間問いつめたら13号について貴重な情報をはき出したよ。

13号は我々が想像していたよりも遙かに強靱な生き物だ」

「…といいますと?」

「まず第一にあれは送り出されたとき、すでに幼生の段階を終えていたそうだ。

すでに自力で獲物を捕らえることが出来るようになっていたらしい。

そして第二に、あれに限って別種の培養器を使ったらしいが、その性質を取り込んでいるらしいこと」

「何を培養基に?」

「以前君が主張していたあれだよ、人のガン細胞だ。こいつはやっかいだぞ。

これは極論だが栄養さえ与え続けていれば生き続けることも可能だな」

そんな来栖の意見に綾芽は反論した。

「しかし所長、あれの細胞には『時限爆弾』が仕掛けられているはずよ。

放っておいてもいずれ自壊作用を起こして死ぬわ。心配しなくても……」

「時限爆弾は仕掛けられていない」

綾芽の言葉を遮った来栖の言葉に貴島は驚愕した。

「じ、時限爆弾がしかけれらていないてどういうことです!?」

車を運転しているに関わらず後ろを向いて叫ぶ貴島に来栖は絶叫した。

「な、何をやっているんだ貴島くん!!」

「わぁ!!」

車は大きく蛇行、周りの車に警笛をさんざっぱら鳴らされたもののなんとか立て直して事なきを得た。

「ちゃ、ちゃんと前を向いて運転してくれよ……」

「すいません、所長……」

危機一髪の状況にあわてふためく二人。

だから彼らは気がつかなかった。

ただ一人悲鳴も上げずにじっとしていた綾芽が怪しいまなざしを浮かべていたことに……。

 

 

 

 

 それから数時間後…

東都生物工学研究所の一室で綾芽と貴島は向かい合っていた。

 

 「13号が生きている可能性はかなり高くなったわ」

嬉しそうに笑う綾芽に貴島は眉をひそめた。

「奴は及川を食ったんだぞ」

「13号が生きていたことに比べれば些細なことよ。貴島くんはすばらしいと思わないの?

南極の氷の中から発見された数億年前の隕石…それに付着していた未知のアミノ酸……。

それが数年にわたって培養され、ついに培養槽を出て自然の中を泳ぎ始めたの。

貴島くんは見てみたいとは思わない?あの子の行く末を」

「さっぱりわからん」

首を振る貴島に綾芽はにやっと笑った。

「貴島くんはあの子が怖い?」

「当たり前だ。奴は人を食らう」

「生物だもの、当たり前よ。それよりもさっき所長の説を伺ってきたわ。

成長が順調ならあの子はもうじき陸に上がって来ようとするらしいわ。

一体どんな姿で上がってくるのかしら…ゾクゾクするほど怖いわね、貴島くん」

 

 

 

 

 

 

 翌朝、特車二課では。

メンテナンスベースに上がった何かの正体を探るべく秋子さんを初めとする第二小隊の面々が頭を寄せ合って必死なところであった。

 

 

 「よくわかりませんね」

秋子さんはPCのディスプレイに映し出されている光景を見てそう言った。

するとその場にいた誰もが激しく同意する。

「輪郭もうすこしはっきりしませんか?」

だがPCを操作していた栞は首を横に振った。

「それ専門の動画編集ソフトがあればなんとかなりますが二課には安物しかないですから無理です」

その言葉にあゆと真琴はうなった。

「うぐぅ〜、つまりこいつはいったい何なんだよ!?」

「あう〜っ、まだるっこしいわね!! しおしお、何とかしなさいよ!!

それにこう…ずばっと写っている画像はないの、画像は!?」

「ないからこうなんです。それにしおしおなんて情けない名前で呼ぶ人、嫌いです」

 

 ギャーギャー言い争っているお子様三人衆をほったらかしにして秋子さんは祐一と名雪尋ねた。

「つまりこれは一体何なんです?」

「何なんだって言われても……」

「なあ…見ての通り何がなんだかよく分からないし……」

現場で化け物を見た名雪と祐一も歯切れが悪い。

自分たちでも数時間前にメンテナンスベースで見た光景が信じられず、また分かっていないのだ。

「…報告書まだですよね?」

「まだですけど何て書いたら良いんです?」

祐一の言葉に秋子さんは一瞬考え込み、すぐに手をぽんと打った。

「美汐ちゃん、相談にのってあげて」

「はい、わかりました」

頷く美汐、それを見た秋子さんは今度は言い争っている三人に向けて言った。

「栞ちゃん、あゆちゃん」

「は、はい。何でしょう?」

「秋子さん、何?」

「今見たデータをコピーしたディスクをひとまとめにして科研に送れるようにしてください。

あそこでみてもらうしかなさそうですから」

「うぐぅ、科研って何?」

「科研は科学捜査研究所のことですよ、あゆさん。それじゃひとまとめにして送っておきます」

栞は頷くとけろぴーからコピーしたデータをひとまとめにするのであった。

 

 

 

 

 そしてそれから数時間後。

 

 カチカチカチ

時計の秒針がいつもならば賑やかなはずの第二小隊のオフィスに響き渡る。

 

 カチカチカチ

やがて時計の長針・短針・秒針がぴったりと12を指し示す。

すると美汐を除く五人は一斉に立ち上がり、一斉に歓声を上げた。

「うっしゃ〜、メシだ、メシだ!!」

「昼飯だよ〜!!」

「ごはん、ごはん♪」

「お昼ご飯は人生至福の一時です♪」

「昼休みが来て、ずっと昼休みだったらいいのに」

そこへ上海亭の岡持がやってくる。

「ちわっ、上海亭です〜! チャーハン二人前、みそバターラーメン一人前、カツ丼一人前、

焼き魚定食一人前、きつねそば一人前お持ちしました!」

「「「「「ご苦労様」」」」」

注文した料理を受け取るといそいそと食べ始める一同。

その様子を見ていた美汐はため息をついた。

「…いつもこんな風にきちんと仕事してくれれば良いのに……」

「ん…美汐何か言った?」

昼飯を夢中で食べていた真琴が顔を上げてそう尋ねたが美汐は首を横に振った。

「いいえ、なんでもありませんよ。それより真琴、私ちょっとお茶を入れてきますね」

そして立ち上がると美汐は給湯室へと歩いていこうとする。

と真琴と同じように昼食をかっ込んでいた祐一が叫んだ。

「天野、立っているついでにテレビをつけてくれ!」

「上司の私にテレビをつけろですって…そんな酷なことはないでしょう」

そう言いつつもオフィスの片隅に置いてあるおんぼろテレビのスイッチを入れる美汐。

するとテレビから驚くべき情報…夕べの事件の記者会見の模様が流れてきたのだ。

 

 

警官:「……もあり、本警察署内に合同捜査本部を設置する決定がございました。以上です」

記者:「それはつまり大規模テロの可能性を重視するということですね?」

警官:「その可能性も考慮に入れて、ということです」

記者:「どの程度の破壊が行われたのか発表がありませんが」

警官:「調査中です」

記者:「それだけですか?」

警官:「はい、これで終わりです」

 

 

 あっけなく終わった記者会見の報道に一瞬あっけにとられる一同。

だが

「そ、そんなばかな……」

「い、一体何だぉ〜!?」

記者会見の内容に納得いかない祐一と名雪の声に皆も我に返った。

「うぐぅ、あの化け物は一体どうなったんだよ〜!?」

「あんなこという人、嫌いです!!」

「あのデタラメは一体どういうことなのよ!? 説明しなさい、説明!!」

「真琴、テレビに詰め寄っても何も明らかになりませんよ」

騒ぎ出す一同、その時名雪が叫んだ。

「こうなったらお母さんに聞くんだぉ!!」

「「「「おっー!!」」」」

第二小隊の面々は隊長室へと走り出した。

 

 

 

 「お母さん!!」

名雪は勢いよくドアを開けると隊長室へとなだれ込んだ。

その後には祐一・真琴・あゆ・栞・美汐も続く。

だが秋子さんは隊長室にはいなかった。第一小隊の小坂由起子警部補が書類をまとめているだけである。

「あれ? お母さんはどこ…」

名雪が呟くと由起子さんは書類から目を離さずに口を開いた。

「先輩なら出かけたわよ。港署に行ったんじゃないかしら」

「お母さんが港署に? …って小坂さん、テレビ見ました!? 昨夜の事件の警察発表!!

どーしてあんなウソつくんだよ!!」

「ウソ?」

不思議そうな表情を浮かべる由起子さんに名雪は珍しく畳みかけた。

「だってそうだよ。あれはテロリストなんかじゃないんだよ!」

「それじゃあ何だったの?」

あっさり由起子さんにかえされて名雪は困った。

「え…そ、それはその……」

「「「「怪獣です(だよ・よ)!!」

祐一たちが一斉に叫ぶ。すると由起子さんは不機嫌そうな表情を浮かべた。

「怪獣って…そんなこと警察発表で言えると思う?」

「証拠ならあるじゃないですか。肉片がかなり残っていたはずです」

祐一がそう言うと由起子さんはあっさり答えた。

「肉片は科研で分析中。それが済めばそれなりの発表があるわ。

と言うわけで警察がウソをついた訳じゃないの。経過報告ということよ。

納得したら持ち場に戻りなさい」

「な、納得できないよ!」

名雪が叫ぶとあゆ・栞・真琴もこれに同調した。

「こんなのずるいよ、納得できないよ!」

「そうです。こんな官僚的なやり方、嫌いです」

「真琴は納得しないんだから!!」

ブーブー言う四人に由起子さんはにっこり微笑んだ。

「ねえあなたたち、秋子さんから預かっていた物があるんだけどあなたたちにあげるわね♪」

「「「「預かっていたもの?」」」」

「ええ、そうよ。甘くない……」

由起子さんがそこまで言ったところで第二小隊の面々は一斉に隊長室を逃げ出した。

誰だって謎ジャムの犠牲にはなりたくはないものだ。

 

 

 「よっぽどこのジャムがイヤなのね…私もだけど」

由起子さんは笑い、そして呟くのであった。

 

 

 

 

あとがき

某所で不愉快なことがありました。んにゃろめ〜!って落ち着こう…

 

 

 

2002.09.03

 

 

 

感想のメールはこちらから


「機動警察Kanon」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る   TOPへ