機動警察Kanon第147話

 

 

 

 「中の様子、どうなっています?」

メンテナンスベースに一足先に到着した祐一は尋ねる。

すると電話で必死に内部と連絡しようとしていた作業員が振り向き、答えた。

「中の様子がさっぱりわからないんですよ。今、管制室と繋がっているので代わります?」

「お願いします」

受話器を受け取った祐一はすぐに管制室にいる作業員に状況を尋ねた。

「こちら警視庁警備部特車二課第二小隊ですが何がありました?」

『第二小隊ですか!?……えっと……』

特車二課第二小隊と知っておびえついたらしい。

だがすぐに現状を思い出した作業員は叫んだ。

『侵入者です! 今、メンテナンスベース内を何者かが侵入しているんです!!』

「侵入者の居場所は分かるか?」

すると作業員は頷いた。

『はい。侵入者は第一層にいます!

で今は電源がダウンしていてガードロボ以外のセキュリティシステムは動いていない状況です』

「…第一層というのは間違いないですね」

『はい…第二層のガードロボが一層まで動いているので間違いないはずです…ってあ!!』

「どうしました!?」

作業員の叫び声に緊張する祐一。すると作業員のいらだった声が返ってきた。

『ちくしょう、第一層のセキュリティが完全に沈黙した!!』

「焦らないで。それよりなんとか中に入れないか?」

『中に入る? …ああ、わかりました!! すぐにゲート開けますんでちょっと待ってください』

「了解」

作業員がメンテナンスベースのゲートを開け始めたのを確認すると祐一は受話器を作業員に手渡した。

「あとはお願いします」

「任せてください!」

 

 祐一はすぐさま指揮車に走ると無線のスイッチを入れた。

「名雪、けろぴーの起動準備は出来ているな」

『もちろんだよ〜』

もう完全に目が覚めているようだ。それを確認した祐一は名雪に指示した。

「じゃあけろぴーは起動、メンテナンスベース入り口まで来い」

『了承だよ〜』

 

ガコォ〜ンとキャリアがデッキアップ、けろぴーがその場で動き始める。

その姿を確認し頷いた祐一の耳元に栞の声が届いた。

『祐一さん、私はどうしますか?』

「栞はけろぴー起動後その場で待機。秋子さんへ逐次連絡を頼む」

『わかりました〜♪』

 

 

 

 起動したけろぴーと祐一がメンテナンスベース入り口に到着するとすでにゲートは開放されていた。

しかしその先は単なる鉄骨の骨組みだけ…とても指揮車共々けろぴーが薦めるような状況ではない。

「…どうやって行けば良いんだ?」

祐一が悩んでいると作業員の一人が叫んだ。

「エレベーターを降ろしますんで第二層に直接入ってください!!」

「OK!」

祐一は頷くと名雪に指示した。

「いいか、中で何が起こっているのか状況はさっぱり分からない。油断するなよ」

『わかっているよ!』

その時エレベーターが到着した。

すぐさま指揮車とけろぴー、そして作業員を乗せた車はその上に乗っかる。

「動かしてください」

『了解』

 

 

 

 オンオンオン

 

 うなりをあげて上昇していくエレベーター。

するといきなりゴガガガァン!!とけたたましい音が響き渡った。

「一体なんだ!?」

すると上から金属片が降り注いできた。

「名雪!!」

『わかったよ!!』

阿吽の呼吸で祐一の指示を理解した名雪はすかさず作業員達の乗っている車をかばう。

 

カンカンカン

 

 指揮車の屋根、そしてけろぴーのFRP装甲を金属片が叩く。

そしてそれが収まったとき、エレベーターは第二層へと到着した。

 

 

 「今のはいったい何だったんだ?」

祐一は指揮車から体を半分乗りだし、第二層の様子を確認する。

そこは本来ならば数多くの作業用レイバーが整備されているはずの場所だ。

しかし今は普段ならば灯されているはずの照明は消え失せ、ただ非常灯の赤いライトが点滅するだけだ。

そのわずかな明かりの下では無数の対人警備用のカルディアがひしめいている。

「名雪、ライトをつけろ」

『わかったよ』

けろぴーに搭載されたライトが暗闇を照らす。しかしそれでもまだ光量が足りない。

「…指揮車のライトも使うか」

祐一は呟くと指揮車天井に搭載されているサーチライトをつけようと下を向いた。

その時再びドガガガァーンと巨大な音がした。

「くっ!!」

あわてて腕で自らの体をかばう祐一、すると彼ら前方100mぐらい先の床から何かが飛び出したかのような勢いで吹っ飛んだのだ。

再び金属片がかんかんと音を立てる。

「今のは一体何なんだ!?」

かすかに何かを視認した祐一は呆然としたように呟き、そしてふと我に返ると名雪に叫んだ。

「床下に何かいるぞ! 名雪、踏み込め!!」

『わかったよ!』

名雪の乗るけろぴーはエレベーターから出ると床下にいる何かの元へと向かおうとする。

すると警備用のカルディア数機がその前に立ちはだかり、警告を発した。

「警告シマス。侵入者ハタダチニ退去シテクダサイ。クリカエシマス。侵入者ハタダチニ退去シテクダサイ」

「何を言っているんだこいつは?」

名雪の後に続いた祐一は訳も分からず思わず呟いた。

だが警告は続く。

「10秒以内ニコノブロックカラ退去シナイ場合威嚇攻撃オコナイマス」

この時一緒について来ていた作業員が気がついた。

「あっ! あんたIDプレートつけていないだろ!! 危ない、戻れ!!!」

「げっ!!」

そう、このカルディアたちはIDプレートをつけていない祐一と名雪の乗るけろぴーを侵入者と判断していたのだ。

「第一次攻撃ヲオコナイマス!」

「待て! 話せばわかる!!」

 

 

 分かるはずがない。というわけで

「どわぁあああ!!」

カルディアからぶっ放された数百ボルトの電撃を祐一は何とかかわしてエレベーターの上に逃げ帰った。

「み、見境なしかよこいつら……」

「エレベーターの上にいてください!! 今保安システムを切りますんで!!!」

危機一髪の状況に祐一が心臓をドキンドキンさせていると作業員が内線電話を取り、管制室に直ちに連絡した。

「管制室! 保安システムを切ってくれ!! 警官が中に入れない!!!」

 

 

 

 この状況はけろぴーに搭乗中の名雪にも影響していた。

 

 「だぉ〜! この子たちが邪魔で中に入れないよ〜!!」

いくら電撃を放つとはいえ、数百ボルトの電流…レイバーにはさほど影響はない。

だが無数のカルディアがけろぴーの行く手を遮っているのだ。

とても先に進めるような物ではない。

名雪が困り果てていると祐一の指示が飛んできた。

『構うことはないから蹴散らせ、名雪!!』

「え〜っ! だってこの子達、ここの保安システムなんだよ〜!!」

『だから何だ!?』

「…わたし始末書書くのやだよ」

名雪のその一言に祐一は一瞬沈黙し、そして再び叫んだ。

『書く! 俺が始末書書くからさっさとやれ!!』

「…わたし知らないよ〜」

名雪はカルディアたちを蹴散らしてぐんぐんと突き進んでいく

とけろぴーの背後でドガァンと床が吹っ飛び、カルディアが数機破壊された。

「行き過ぎちゃったよ〜」

はっきり言って床下を移動する何かを捉えるにはメインモニターもアイボールセンサーも役立たず。

名雪はセンサー系統をサーモグラフィーに切り替える。

(それにしても何だったんだろ〜?)

ちょことっとだけ見えた何かに思いを寄せているとサーモグラフィーに何かの熱を捉えられた。

(引き返してる…?)

 

 

 

 その状況をエレベーター上から祐一は観察し続けていた。

 

 「保安システムはまだ切れないか?」

先に進めずいらつく祐一は作業員にせかす。だが作業員は首を横に振った。

「もう少し待ってください!」

「早くしてくれよ」

そう答える床下の状況を確認しようと祐一は床に耳を当てた。

「床下ってどうなっているんだ?」

「詳しいことは分かりませんが俗に言う中二階っていうやつらしいですよ」

「それじゃあレイバーは入れない?」

「当たり前ですよ。高さが全然足りない」

(だが何かでかい物がはい回っている……)

祐一は緊張したままでじっとエレベーターの向こうを凝視し続ける。

すると作業員が受話器を置き、頷いた。

「保安システム解除しました!」

「よし!」

祐一は満足げに頷いた。

「何が起こっているのかしっかり確認してやる!!」

祐一は指揮車に乗り込もうとする。

その時名雪の叫び声が響いた。

『祐一! 目の前にいるよ!!』

「何が目の前だよ……って、えっ!?」

緩慢に顔を上げる祐一、するといきなり目の前に何かが飛び出した。思わず唖然とする祐一。

 

 

 

 

 

 「とりゃあ! ここだよ!!」

けろぴーはスタンスティックを抜きざま何かが飛び出してくるところに突き立てる!!

すると

「ギャアアアアアア!!!」

「だぉ!?」

そこからとんでもない物が飛び出した!!

 

 

 

 

 

 「トレーラーまわせ!!」

「10号ロッカー開けろ! ライアットガンを持たせる!!」

「もたもたしている奴は東京湾にたたき込むわよ!!」

 

 

 あわただしく出撃準備している声をBGMに秋子さんは報告してきた祐一に尋ねた。

 

 

 「…すいません、祐一さん。今なんて言いました?」

『侵入者は生き物だって言ったんです!』

「…冗談じゃなく?」

さすがの秋子さんにもこれは予想外に事態であったようだ。かなり動揺している。

だが目の前で繰り広げられている光景を捏造する気など祐一にはさらさら無かった。

『冗談でこんなことは言いません! 間違いなく生き物です!!』

「…わかりました。それでどんな生き物なんです?」

『…どんな生き物と言われても……その…何というか……』

見たことも聞いたこともなかった目の前の生き物の姿を祐一は説明することは出来ない。とその時銃声が秋子さんの耳に届いた。

「発砲を許したんですか?」

『相手が相手だけにどう対処したらいいのかわからないんです!!』

祐一の焦った様子に秋子さんは頷いた。

「いかなる手段を使っても構いません。とにかく現場の作業員の生命確保を第一にやってください」

『わかりました! それと応援を急いでください!!』

「了承」 

 

 

 

 

 

 「はあはあはあ」

名雪はコクピット内で息を荒くついていた。

未だかって相手にしたこともないような……ってそう言えば前にも化け物を相手にしたことはあったっけ……はおいておくとして普段相手にするレイバーとは全く違う相手に戸惑っていたのだ。

そこへ秋子さんに報告を終えたばかりの祐一が現状を聞いてきた。

『どうだ名雪、相手が何者だか少しは分かったか?』

だが名雪は首を横に振った。

「じょ、冗談じゃないよ〜。いちいち確かめるヒマなんてないんだよ〜!

けろぴーの弾丸を5発も食らってまだぴんぴんしているような化け物なんだから〜!!」『銃弾も効かないのか!?』

「ううん、効いてはいるみたい。逃げに入っているもん」

カメラ、サーモグラフィーとこまめにセンサーを切り替えながら目標を捉え続ける名雪、と不意に叫んだ。

「祐一!! 下だよ!!!」

『くっ!!』

指揮車を急バックさせてその場を離れる祐一。

すると化け物が床を突き破って飛び出してくる。

「滅殺だぉ!!」

 

 ドガァァァアアアーン

 

 けろぴーの37mm リボルバーカノンの弾丸が化け物を捉えた。

化け物の顔面半分と右手の一部、それと触手を数本吹っ飛ばす!

「やった!」

抜群の手応えに名雪は歓声を上げる、とかなりの致命傷を負ったはずの化け物は苦悶の声をあげてフロアの吹き抜けを真っ逆さまに落下した。

『どうだ、名雪!?』

「今のはかなり効いたはずだよ! 至近距離から頭を半分吹っ飛ばしたもん、これで効果がなかったら……」

『よし、俺が確認する!』

 

 

 

 名雪に油断しないよう指示すると祐一は恐る恐る吹き抜けに近づいた。

そして数層をぶち抜いた吹き抜けを見下ろし、思わず目を疑った。

「馬鹿な! いないぞ!!」

『だぉ!?』

祐一の言葉に名雪は叫んだ。

『だって頭半分完全に吹っ飛ばしたんだよ! あれで生きているって……どういう奴なの!?』

「俺が知るか!」

信じられない事態に祐一も叫ぶ。

その時は以後でビチビチビチィと床を派手に叩く音がする。

あわてて二人が振り返るとそこには吹っ飛ばされた触手がまるでトカゲのしっぽのように派手に暴れ回っていたのだ。

『だ、だぉ……』

「ものすごい下等生物なのか、それとも……」

 

 

 

 

 

あとがき

何か妙に長くなる廃棄物十三号編…書くの大変です。

シナリオもかなり手を加えているし…変にいじくらなきゃ良かったよ。

 

 

 

2002.08.29

 

 

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