機動警察Kanon第145話

 

 

 

 コポコポコポ

 

 海上保安庁の水中レイバーつきなみが東京湾海中を突き進んでいた。

ライトで真っ暗な海を照らしてグングン行く。

 

 

 「海底ケーブルの切断箇所は確認できているか?」

その言葉につきなみを遠隔操作中の海上保安庁職員は首を横に振った。

「まだ確認できていません」

「早くしろよ」

「分かっていますって。いまつきなみを回しますから」

つきなみが旋回する。

やがて目の前にコンクリート塊の集団が目に飛び込んできた。

「第二川崎島の基礎部分か」

「もうすぐトレンチが見えます」

だが彼らがつきなみのカメラ越しにトレンチを見ることはなかった。

 

 ゴンッ

 

 ザァー

 

 とつぜんモニターに映し出された砂嵐に二人の海上保安庁職員は首をかしげた。

「あれ?」

「おい、どうしたんだ!?」

「…モニターでも壊れたんですかね?」

 

 

 

 

 

 一台のレイバーがクレーンでつり上げられていた。

海上保安庁所属のつきなみ……淵山SOV-9800『ノーチラス9800』だ。

センサーを保護するカバー、FRP装甲がぐしゃりとひしゃげたその姿から判断するに廃棄処分、

もしくはメーカーで部品の総取り替えでもしなければ元の状況には戻れないであろう、惨たる有様だ。

その状況を眺めていた名雪は驚いた。

「わっ、びっくり。どういう使い方をすればレイバーがああなるんだろう?」

「知るか。基礎のコンクリートにでも激突したんだろ」

あっさり答える祐一に名雪は首をかしげた。

「そうかな? だってひっかき傷みたいなのがいっぱいあったよ」

「そうか?」

名雪の言葉に祐一はつきなみを詳しく眺めようとした。だが…

「もう見えん」

すでにつきなみはトラックの上で幌をかぶっている状態、そんなひっかき傷など確認しようがなかった。

ちょっとだけ残念に思う祐一に名雪が尋ねてきた。

「何でお母さんこんなの見てこいって言ったのかな?」

「娘のお前が知らないことを何で俺が知っている?」

「そうだよね〜」

その時祐一はすぐそばに一見サラリーマン風の男が立っていることに気が付いた。

それだけならばただの見物人としか思わなかっただろう。

だが男の顔はなにやらこわばり、真剣な表情だったのだ。

(一体どうしたんだ?)

疑問に思う祐一、やがてしばらくすると男は無言で現場を立ち去った。

(あいつは何者だ?)

「……ねえ、祐一人の話聞いてる?」

「おっ!? 無論聞いていたとも」

男に気を取られていたところにいきなり声をかけられ祐一はビックリしてあわてて頷く。

だが名雪はぶ〜っと頬をふくらませていた。

「祐一、人の話聞いていなかったでしょ〜」

「…聞いていたとも」

「今の間は何?」

「気のせいだ」

「うぅ〜」

うなった名雪、だがすぐににっこり微笑んだ。

「それじゃあ祐一、さっきの話了承だよね?」

「…おうとも」

何を言ったのかな?…と不安になりつつ答えた祐一。

すると名雪はミニパトに乗り込んだ。

「それじゃあ祐一、行こうよ」

「行こうよ…ってどこだ?」

「 どこだ…ってそんなの決まっているよ。イチゴサンデー100杯奢ってくれるんだからそれなりのお店に…」

「ま、待て!! お前嘘ついているだろ!?」

「やっぱり祐一、人の話聞いていなかったんだぉ〜!!」

「ず、ずるいぞ〜!!」

 

 結局二人はしばらく人前でじゃれていたのであった。

 

 

 

 

 

 コンコンコン

 

 「相沢、水瀬両名帰りました」

ドアのノック音とともに聞こえてきた祐一の言葉に秋子さんは頷いた。

「はい、入ってちょうだい」

「はい」

「は〜い」

すたすたと隊長室に入ってくる祐一と名雪。その二人に秋子さんは尋ねた。

「どうでした?」

「どうでした…ってつきなみの事故のことですか?」

「はい」

秋子さんの言葉に祐一と名雪は顔を見合わせた。

「ただの事故だと思ったんですけどつきなみの事故に何か?」

すると秋子さんは首を横に振った。

「…いえ、なんでもありませんよ。ただ最近湾内の事故が多いものですから一体どうなっているのかな? と思いまして」

「「はぁ…」」

「もちろん私たちの守備範囲ではないのはわかっているいるんですけどね。

まあいいですね。ご苦労様でした、お昼ご飯食べて持ち場に戻ってちょうだい」

「わかりました〜」

「了承だよ〜」

二人はお昼ご飯にありつくべく隊長室を後にしたのであった。

 

 

 

 「秋子さんも変なことに興味を持つよな」

食後のお茶をすすりながら祐一が呟くと栞が口を挟んできた。

「色々秘密の多い秋子さんだって警察官ですからね。守備範囲外とはいえ、事故というのは気になるんじゃないですか?」

「そうか? だって俺たちが見に行かされたのは川崎沖で事故ったレイバーだぞ。

守備範囲外どころか観客席に飛び込む大ファールだ。

正直言ってフェンス乗り越えてまで捕りに行く義務はないと思うがな」

「ふぁいとだよ」

「なにが『ふぁいとだよ』だ」

祐一はアホなことを言った名雪を見る。すると名雪は新聞紙を引っ張り出して読んでいるところであった。

「何しているんだ?」

「んにゅ? ああ、これ? お母さんが気にするほど湾内の事故が多いのかなと思って」

「それでどうなんだ?」

「それが全然ないんだよ」

「どれどれ?」

「そうですか?」

祐一と栞も加わって新聞紙をチェックする。すると栞があることに気が付いた。

「これところどころ抜けていますよ」

「あっ、本当だ〜」

日付順に並べられているはずの新聞紙、だが名雪が引っ張り出してきた新聞紙はそうではなかったのだ。

「どうしてだろう?」

「さあ?」

「わかりませんね」

三人はただ首をかしげるだけであった。

 

 

 

 バサッ

 

 一人の男が真剣な表情で新聞記事を凝視していた。

次々と新聞をめくっては一段と真剣なまなざしをする。

するとそこへ女性が声をかけてきた。

「貴島くん」

その声にはっと顔を上げる貴島和宏、すると目の前には彼の上司が立っていた。

「望月主任…」

「何を調べているの?」

「いや別に……」

ごまかそうとするが無理だった。

綾芽は広げられてる新聞にちらっと目をやると頷いた。

そこには東京湾に輸送機が墜落した事故から最近の東京湾での事故の記事が並んでいたのだ。

「貴島くんは何を考えているのかしら?」

その言葉に和宏は考え込み、そして口を開いた。

「望月主任…変なことを言うようだが13号は生きているんじゃないのか?」

「まさか」

綾芽はあっさり一蹴した。

「13号が培養ポッドから出て生きているなんて考えられないわ」

「これを見てくれ」

だが和宏は新聞を差し出してその言葉を遮った。

「『川崎沖でお化け鯛』…全長70cm?」

「その前にはプランクトンの異常発生があったらしい。これは主培養素のメタアルブミンを食べたとしか考えられない」

「培養液の流出による影響はある程度予想できたわ。この記事は13号の生存の根拠にはならない」

だが和宏は首を横に振った。

「もう一つ気になる記事が…フロンティア機墜落事故から五日後の記事なんだが…」

そう言って『堤防工事 現場に男性の手首』という記事を示す。

それを見た綾芽は頷いた。

「この記事なら新聞で読んだけどそれがどうかしたのかしら?」

「……及川の遺体……食われていたらしい」

 

 

 

 「貴島くん…想像力が豊かすぎるわね」

綾芽は新聞を机に放り出すと皮肉げな笑みを浮かべた。

「そこまで言うのなら所長に疑問ぶつけたらどう?『廃棄物』に関してはあの人が第一人者なんだから」

 

 

 

 

あとがき

廃棄物十三号編再開〜♪

 

 

 

2002.08.17

 

 

 

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